第327話 謎理論
「きゃー、〈タロ〉様。何をするんです。降ろして。止めてください」
「さあ、ベッドの中へ入ろう。こんなに、寒いと風邪を引いてしまうよ」
僕は〈アコ〉を抱えて、布団の中へ潜りこんだ。
〈アコ〉は、展開に追いつかないのか、身を堅くしているだけだ。抵抗らしい抵抗はしてこない。
「もう、〈タロ〉様。一緒のベッドに入るなんて、ダメですわ。私をどうされるおつもりなんですか」
僕はベッドの中で、優しく〈アコ〉を抱きしめた。
〈アコ〉は、胸の前で両手を交差して、自分を守ろうとしている。
このままでは、どこまでも僕にされてしまうと思っているようだ。
僕にも分からない。
ただ、ベッドの中には、〈アコ〉の甘い女の匂いが充満して、僕をクラクラさせるんだ。
「〈アコ〉の匂いは、良い匂いだな」
「いゃっ、匂いなんて嗅ちゃダメです」
〈アコ〉は、僕を咎めるように目を見詰めてきた。
僕も〈アコ〉の瞳を見詰めた後、優しくキスをした。
あくまでも優しくだ。〈アコ〉は、まだ身を堅くしているから。
「〈タロ〉様は酷い人です。夜中なのに部屋へ入ってきて、私をベッドに押し込まれました。そして、匂いは嗅ぐし、キスまでするなんて。強引過ぎますわ」
「ごめん。キスは嫌だったの」
僕は〈アコ〉の耳元で囁くように言った。
「ん、キスが嫌ではないのです。ベッドの中では、嫌なのですわ」
「でも、ベッドの中じゃないと寒いよ」
低くい声を意識して、耳元で囁き続ける。
「んん、それはそうですけど」
僕はもう一度〈アコ〉にキスをした。今度は長く、唇をなぞるようにだ。
「はぁー、〈タロ〉様。もう、止めてください。耳元で囁くのも止めて」
今度は、〈アコ〉の口の中へ舌もいれてみた。
〈アコ〉の両手は、もう僕の背中に回されているし、身体の固さも取れて柔らかくなっている。
「はあぁ、〈タロ〉様。止めって言ったのに。どうして止めて、くれないのですか」
「それは、〈アコ〉のことが好きだからだよ。だからこうして逢いに来たんだ」
「あぁ、そんなこと、言わないでください。止めてと言えなくなりますわ」
「どうしてなんだい」
「それは、私も〈タロ〉様が好きだからですわ。逢いに来て頂いたのは、嬉しいに決まっています」
「そうなんだ。〈アコ〉を嬉しい気持ちに出来たのは、僕もすごく嬉しいよ」
「ふぅー、〈タロ〉様はしょうがない人です。領地に帰られて、里心がついたのですね。お母様を思い出されて、一人寝が寂しいんでしょう」
「えっ、そうじゃないよ。そういうんじゃないよ」
「ふふ、私の前では、恥ずかしがらなくて良いのですよ。ちゃんと分かっていますわ。もっと甘えて良いのですよ」
えー、どういうことだ。僕は幼子じゃないよ。少しエッチな青少年だ。
「甘えるって、どういうこと」
「私のお尻を触っても良いですよ。〈ドリー〉さんのお尻を見て、お母様を思い出したんでしょう」
そんなわけあるか。無茶苦茶、言っている。〈アコ〉のは謎理論だ。
「ほら、お尻を触って良いのですよ。遠慮しないで。お母様の代わりを務めて差し上げますわ」
〈アコ〉は僕の左手をとって、自分のお尻に添えさせた。
僕は、確かに〈アコ〉のお尻を触っているけど、何かがおかしい。
「代りって」
「そうですわ。お胸も触りますか」
〈アコ〉は、今度は右手をとって、胸を触らせてくれた。
僕は、左手でお尻、右手で〈アコ〉の胸を触っている。
柔らかくて触り心地は、良いんだけど、大きく何かが間違っているぞ。
「何か、おかしいような気がするんだけど」
「ふふ、〈タロ〉様は、何も考えないで良いのです。私が子守唄を歌ってあげますから、ゆっくりお休みくださいね」
〈アコ〉は、僕の頭を撫ぜながら、子守唄を歌ってくれた。
僕の両手は、〈アコ〉のお尻と胸を触っている。
でも、触っているだけで、揉むことが出来ない。今は何だか抵抗があるんだ。どうしてだろう。
〈アコ〉に頭を撫ぜられるのは、とても心地良い。穏やかな気持ちになる。
子守唄は不思議と心を安定させてくれる。安らぐ感じだ。
ベッドの中は、〈アコ〉の匂いがして、〈アコ〉の体温でポカポカだ。
おまけに、〈アコ〉はとっても柔らかだ。癒されてしまう。
そして、僕は〈ハパ〉先生に、久ぶりにみっちり鍛錬されていた。
自覚していなかったが、相当疲れていたらしい。
その結果、僕はそのまま朝まで、ぐっすりと眠ってしまった。
朝早く〈アコ〉に起こされて、部屋をトボトボと出て行く。
早朝だったので、誰にも見られなかった。見られたところで、少しバツが悪いだけなんだが。
ただ、熟睡は出来た様で、寝覚めがバッチリなのが少し解せない。
それにしても、僕は〈アコ〉の部屋に何をしに行ったんだろう。
結果的には、良く眠るために行ったことになる。
〈アコ〉が言ったことは、真実じゃないと思うけど、全くの出鱈目とも言い切れない。
しょせん男は、全員マザコンってことだ。
盲目的に受け入れてくれる、女性を求めているのだろう。
〈アコ〉との結婚生活が、歪んだものにならないことを、助平の神様に今から祈っておこう。
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