第319話 少し恥ずかしい

 そういうことだから、今日は〈サトミ〉に、お土産を渡しに行こうと思う。

 喜んでくれるか、少し不安がある。エッチなことが出来るかなと、少し期待もある。


 いそいそと、少し元気になった、あそこの位置を直しながら、厩舎に向かった。


 でも、〈サトミ〉はいない。〈青雲〉と〈ベンバ〉が、鼻づらを寄せて来てくれただけだ。

 〈青雲〉と〈ベンバ〉の首を、さすってやりながら、持ってきたニンジンをあげた。

 二頭は、僕の頬を優しく首でさすってくれる。

 僕のことを覚えていてくれたのが、故郷に受け入れて貰えたようでホッとする。


 ただ、〈サトミ〉の居所を聞いても「ヒヒーン」と鳴くだけだ。

 〈サトミ〉の行方は知らないらしい。もしくは、伝えることが出来ないのか。

 どっちしても、次は小屋に行ってみよう。


 小屋に近づくと、〈トラ〉と〈ドラ〉が、「フゥー」「シャー」と僕を威嚇してくる。

 こいつ等は、僕のことを忘れたみたいだ。

 窮地を救って、何回か魚を持ってきてやったのに、なんて恩知らずなんだろう。


 威嚇されて、固まっていると、遠くの方に〈サトミ〉が見えた。


 「おーい。〈サトミ〉、捜していたんだよ」


 「あっ、〈タロ〉様、おはようございます」


 〈サトミ〉は、挨拶をしてくれたけど、僕に近寄ろうとはしない。えっ、どうして。

 言い知れない不安が、頭を過っていく。昨日、背負ったのは何だったんだ。


 「〈サトミ〉、どうしたんだよ」


 「うぅ、〈サトミ〉はね。少し恥ずかしいんだ」


 「何が」


 「〈タロ〉様の顔を見ると、照れてしまうの」


 「どうして」


 「しばらく逢っていなからだと思うの。〈タロ〉様が眩しいの」


 えっ、眩しい。僕は頭に手をやった。ほっ、大丈夫、頭は禿げていない。

 なら、どうして眩しいんだろう。


 僕が近づくと、〈サトミ〉は顔を真っ赤にして、下を向いてしまった。

 照れるのは、本当みたいだ。


 「〈サトミ〉、ごめん。長い間逢えなかったのが、悪いんだな」


 「ううん、〈タロ〉様は悪くないよ。〈タロ〉様に慣れるまで、少し時間がかかるだけなの」


 「そうか。それじゃ、早く慣れて貰おう」


 僕は〈サトミ〉の手を握って、小屋の中へ入って行った。


 「あっ、〈タロ〉様。〈サトミ〉は、まだ慣れてないよ」


 〈サトミ〉は、首まで赤くなったが、何も抵抗はしない。

 僕に手を引かれて、トボトボとついて来る。

 そうしたら、〈トラ〉と〈ドラ〉の威嚇が激しくなった。

 〈サトミ〉を、変質者から守ろうとしているのか。

 うーん、自分を変質者呼ばわりしてはいけない。僕は、愛の使者なんだ。たぶん、きっと。


 「〈トラ〉と〈ドラ〉、忘れちゃったの。この人は、〈タロ〉様だよ。〈サトミ〉を虐めたりしないよ」


 〈サトミ〉が、言い聞かせたからか、〈トラ〉と〈ドラ〉はどこかへ行ってしまった。

 単に猫の、気まぐれかも知れないな。


 「〈サトミ〉、これは王都のお土産なんだ。気に入ると良いんだけど」


 「あっ、〈タロ〉様。ありがとうございます。〈サトミ〉のこと、覚えていてくれてたんだ」


 「〈サトミ〉のことを、忘れるわけないだろう。悩みに悩んで、決めたお土産なんだ。開けてみてよ」


 「そんなに悩んでくれたの。嬉しいな。それじゃ、開けてみますね」


 「〈サトミ〉への、お土産なんだから、遠慮はいらないよ」


 「わぁ、お馬さんですね。大きい方が〈タロ〉様で、少し小さいのが〈サトミ〉ですか」


 親子と思っていけど、そういう見方もあるのか。〈サトミ〉が、言うならそうなんだろう。


 「そうだよ。二人仲良く、草原を走っているんだよ。どこまでも、二人で走っていくんだよ」


 「あはぁ、二人で、どこまでもなんですか」


 「そうさ。永遠にだ」


 良い雰囲気になったので、僕は〈サトミ〉を抱き寄せようとした。

 でも、〈サトミ〉は少し後ろに下がって、僕を避けてしまう。

 はぁー、どういうことだ。


 もう一度、抱き寄せようと近づくと、また〈サトミ〉は、後ろに逃げた。

 顔は真っ赤で、下を向いている。僕は意地になって、〈サトミ〉に、また近づいた。


 〈サトミ〉は、また逃げて、小屋の壁にドンとぶつかった。

 フフッ、〈サトミ〉を追い詰めることが出来た。もうこれで、僕から逃げられない。

 そう思うと、僕の下半身が猛り、心の奥がキューとなってしまう。

 

 暴力的な衝動が、沸き起こってくるぞ。

 下を向いて、僕を怖がっている〈サトミ〉を、無茶苦茶にしたくなる。

 小さくて可愛い〈サトミ〉に、エッチなことをしてやろう。

 恥ずかしがっている〈サトミ〉を、もっと恥ずかしい目に合わせてやろう。

 

 まずは、抱きついてやろう。〈サトミ〉は、僕のものだ。いつでも、抱きついて良いはずだ。

 僕は、壁で逃げられない〈サトミ〉の、腰に手をやり抱き寄せた。

 

 「あっ、〈タロ〉様、待ってよ。〈サトミ〉を抱きしめないで」


 僕は、〈サトミ〉を無視して、きつく抱きしめた。

 〈サトミ〉の身体は、温かくて柔らかい。柔らかいけど、弾力がある感じだ。

 胸にも弾力があるけど、今はドキドキする音が聞こえてきそうなほど震えている。

 僕が、怖いのだろうか。

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