第318話 もう一つ警告

 〈カリナ〉は、〈ドリー〉に気を使っているのか。

 自分は妊娠したから、早く〈ドリー〉に結婚して欲しいんだろう。

 小姑に、睨まれたくは、ないんだろうな。姑に、小姑と、大変だ。


 確かに〈ドリー〉は、一日でも早く出産した方が良いと思う。

 医療が発達していない世界だから、高齢出産はなるべく避けた方が良い。

 ははぁん、婚前交渉が激しいのはそのためか。


 「〈ドリー〉、励めよ」


「はぁー。〈タロ〉様。どういう意味ですか。そのようなことは、しておりません」


 〈ドリー〉は、首まで真っ赤になり、〈カリタ〉の手を引っ張って行ってしまった。

 おぉ、朝からいたすのか。子孫繫栄万々歳だな。


 続いて、〈ハヅ〉と、メイドの〈プテーサ〉が、報告にやってきた。

 〈ハヅ〉と〈プテーサ〉は、手を繋ぎながら僕の前に立っている。

 人目も気にしないで、熱々の御様子だ。

 でも、こういうカップルの方が、危ないと相場は決まっている。


 僕達も手を繋いでいるけど、僕の「せい意」で大丈夫だろう。

 僕の「せい意」の、「せい」は「性」の「せい」じゃなくて、「まごころ」の「誠」だ。

 僕は「性」に、満ち溢れているんだよ。あれ。


 「〈ハヅ〉、〈プテ〉、結婚おめでとう。若い二人だけど仲良くしろよ」


 僕の方が年下なのに、じじ臭いことを言ってしまった。


 「〈タロ〉様、ありがとうございます。へへっ、俺の方が年上なので、お先に結婚しましたよ。負けてられません」


 どうして勝負なんだよ。相手に失礼だろう。バカか。


 「ご領主様、ありがとうございます。急な話で申し訳ないのですが、五日後に式がありますので、よろしくお願いします」


 〈プテーサ〉は、ちゃんとしているし、嬉しそうな顔もしている。

 失礼なことを言われているのに、嬉しいらしい。やっぱり、男は顔なのか。

 男は見た目だけで選ばれる、消耗品ってことか。くそっ、哀しいな。


 「あぁ、出席させて貰うよ」


 二人は、報告を済ますと、直ぐに部屋を出ていった。まあ、今が一番楽しい時なんだろう。

 せいぜい、今を楽しんでくれ。まあ、実際のところ、色々準備があるんだろう。


 はぁー、僕には、楽しくない執務が待っていた。今日一日は、館で缶詰状態だ。

 書類の山と格闘することになる。冬休みで帰郷しているのに、バカみたいだと思う。


 でも明日は、まる一日自由時間の予定だ。

 王都でも、眠い目をこすって執務をこなしているんだから、当たり前だと思う。


 書類の山をうんざりと見ていたら、突然、中年猫が現われてきやがった。

 書類の山から、一mほど離れた空中に浮いてやがる。


 「また、お前か。何の用なんだ」


 「書類が一杯だョ。ヒィヒィ、大変なご様子だなァ。頑張ってくれたまえ」


 「はぁー、なんだ。僕をからかいにきたのか」


 「そう怒るなョ。偉大な生き物であるところの、「ジュジュシュ」様が、またまた警告をしてあげるんだ。感謝しろョ」


 「あぁー、また警告か。どうせ、訳の分からない。どうしようもない警告なんだろう。聞く意味がないから、とっと消えて無くなってくれ」


 「はぁ、馬鹿はお気楽で良いョ。「天智猫」の有難さを、全く理解出来ていないね。予兆は、既に現れているんだ。備えるのは、君の意識の問題だョ」


 「もう、その話はいい。自称、偉大な「天智猫」に全て任せるよ。僕は忙しいんだ」


 「警告はしたョ。後は君の問題だから、もう知らないョ。話は変わるけど、もう一つ警告があるんだョ。親切だろう」


 「あぁー、まだあるのか」


 「こっちは、大した話じゃないんだョ。変なヤツが、この町に接近しているんだ。関わりにならない方が、良いと思うョ。精神衛生上、良くないヤツなんだ。君は小さいから、すごく腹が立つと思うョ」


 「危ないヤツなのか」


 「危なくはないョ。イライラするだけだョ」


 「僕が小さいから腹が立つって、どういう意味だ。僕は小さくないぞ」


 「フハハッハハッ」


 僕の心の叫びを無視して、中年猫は忽然と消えやがった。


 最後の笑いは、なんなんだ。すごく腹が立つ。

 お前が一番変なヤツで、関わりにならない方が良いんじゃないのか。


 中年猫の言ったことは、忘れることにしよう。

 僕は小さくないはずだ。平均だよ。普通なんだよ。


 それに、中年猫の言った「小さい」は、あそこのことでは、ないかも知れない。

 それじゃ、何が小さいんだ。


 どっちしても、中年猫は酷いヤツで確定だ。もういないものとしよう。

 こだわっていたら、書類が片付かない。自由時間がなくなってしまう。


 許嫁達に、「そんなの、大きすぎます」と言って貰える機会が、なくなってしまう。

 頑張って、楽しいことだけ考えて、執務に励もう。


 次の日は、少し遅く目覚めた。これもあれもそれも、全部中年猫のせいだ。


 〈アコ〉は、〈クルス〉の家で泊まっているので、ここにはいない。

 〈アコ〉の母親も〈リーツア〉さんも、今度の帰省ではいないので、館に泊まるのは〈アコ〉一人だ。

 だから、〈クルス〉の家へ行ったらしい。


 寂しかったら、僕が一緒に寝てあげるのに。もちろん、僕は寂しいぞ。

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