第316話 背負う

 入り江に着いたら、今回も大勢の人が迎えてくれている。

 《ラング領》の人達は、温かい人ばかりだな。


 迎えの最前列に、〈サトミ〉が見える。

 僕達を見つけて、大きく手を振っているようだ。

 まだ、聞こえないけど、大きな声も出していると思う。


 僕達が手を振るのが、遅れたためか。ピョンピョンと飛び跳ねだしている。

 あーぁ、あんなに飛び跳ねたら、周りの他人に太ももが見えてしまうぞ。


 〈サトミ〉に、気づいているのを、早く知らせよう。

 もっと、大きく手を振って、存在をアピールしよう。ピョンピョンを阻止しなくては。

 〈サトミ〉に貰ったハンカチも振ってみよう。この方が分かりやすいだろう。


 あれ、ハンカチを振ったら、〈サトミ〉が見えなくなった。あれれ、どうしたんだろう。


 僕は、〈アコ〉と〈クルス〉の手を持って、桟橋に降り立つ。

 ちゃんと、エスコート出来るように、なってきたんだ。すごい進歩だろう。


 桟橋を渡ると、大勢の人が「お帰りなさい」と出迎えてくれた。


 執事の〈コラィウ〉、兵長の「ハドィス」、小作頭の「ボニィタ」が見える。

 メイド頭の〈ドリー〉と、煉瓦職人の〈カリタ〉が、寄り添うにように立っている。

 御用商人の「クサィン」と〈クルス〉のお母さんも、並んで待っていてくれた。


 それと、「ハパ」先生がいる。にこやかに笑って、後ろの方で凛と立たれている。

 出迎えているだけなのに、無駄に隙がない。さすがは「ハパ」先生だ。


 〈ハヅ〉は、メイドの〈プテーサ〉と、手を繋いでいやがる。もう、公認なのか。

 とんでもなくスケベなヤツだ。


 でも、〈サトミ〉がいないな。ピョンピョンと跳んでいたのに。


 出迎えの人達は、「お先に館に帰っています」と、言い残していってしまった。

 僕達の荷物を持って、先にぞろぞろと帰っていく。

 「ゆっくり帰ってきてください」と笑いながら言っていた。


 出迎えの人がいなくなり、寂しくなった入り江を後に、僕達三人は館へと向かう。

 すると、道端でうずくまっている〈サトミ〉を見つけた。


 「〈サトミ〉、どうしたんだ」


 「…… 」


 〈サトミ〉は、うずくまったまま動かない。


 「〈サトミ〉、帰ってきたよ」


 僕は、両脇に手を差し入れて、〈サトミ〉を抱え起こした。

 差し入れた手には、〈サトミ〉のおっぱいの感触が伝わってきた。プルンってしている。


 「うぅ、〈タロ〉様、〈サトミ〉は… 」


 〈サトミ〉は、声を押し殺して泣いていた。嗚咽で言葉にならないようだ。


 「帰ってきましたわ。〈サトミ〉ちゃん、顔を見せてください」


 〈アコ〉は、ここを故郷にしようとしているんだな。


 「〈サトミ〉ちゃん、ただいま。もう泣かないで」


 〈アコ〉と〈クルス〉が、左右から〈サトミ〉の腕を抱えている。

 〈サトミ〉は、僕に後ろから抱えられて、左右の腕は〈アコ〉と〈クルス〉に支えられている状態だ。まるで、合体ロボットのようだ。

 それでも、〈サトミ〉の身体はぐんにゃりしていて、力が入っていない。腰が抜けたのか。


 「〈サトミ〉、どうしたんだ」


 「うぅ、力が入らないの」


 「しょうがないな。背負ってやるよ」


 「うぅ、〈タロ〉様、恥ずかしい…… 」


 僕は、〈サトミ〉の膝に手を入れ、背中に背負った。

 〈サトミ〉は、抵抗はしないけど、僕の背中で、クスンクスン泣いている。

 小さな〈サトミ〉は軽いな。


 今度は、〈サトミ〉のおっぱいを、背中で感じてしまう。背中だから、大して感じないけど。


 「それじゃ、館に帰ろう」


 「はい。〈タロ〉様、帰りましょう」


 「分かりましたわ。ゆっくりと帰りましょう」


 入り江から、《ラング》の町までの景色は、何というものではない。

 ありふれた、どこでもある景色だ。でも、何だか嬉しくなる。どうしてなんだろう。

 背中に〈サトミ〉が、いるせいかな。僕には、良く分からない。

 〈アコ〉と〈クルス〉も、嬉しそうだから、一緒の気持ちなんだろう。


 「〈タロ〉様、降ろして」


 〈サトミ〉が、背中でモゾモゾして言ってきた。泣き止んで、力が入るようになったみたいだ。


 「〈サトミ〉、遠慮するなよ。館まで、背負ってやるよ」


 「あっ、そんなの嫌です。恥ずかしいから、早く降ろして」


 「〈サトミ〉、気にするなよ」


 「もうもー、〈タロ〉様。〈サトミ〉は、子供じゃないの。ちゃんと一人で歩けます」


 「そうなの」


 「むっ、〈タロ〉様は、〈サトミ〉をからかっているでしょう。〈サトミ〉の気持ちを知らないくせに」


 「ははっ、怒るなよ、〈サトミ〉。今、降ろすから」


 〈サトミ〉は、もうしっかりして普通に立っている。

 顔が少し赤くなって、泣いた跡がついていた。


 「はぁ、〈サトミ〉は、もう大丈夫だよ。さっきまで、嬉し過ぎておかしくなっていたの。気持ちを押さえられなかったんだ」


 「そうなんだ。僕も〈サトミ〉に会えて嬉しいよ」


 「へへっ、〈タロ〉様もそうなんだ。改めまして、〈タロ〉様お帰りなさい。〈アコ〉ちゃんも、お帰りなさい。〈クルス〉ちゃんも。お帰りなさい。〈サトミ〉は、とっても嬉しいんだ」


 「ふふふ、〈サトミ〉ちゃん、私もとっても嬉しいわ」


 「うふふ、嬉しくって泣いちゃったのですね」

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