第314話 天地無用は厳守

 二人はタオルで、僕の背中を洗ってくれた。前は、洗ってくれなかった。


 でも、これはこれで良いか。前を洗われたら、大きくなっているのが、バレてしまう。

 小動物なのも、バレてしまう。それは、とても悲しいことだ。


 結婚するまでに、もう少しは成長するはずだ。必ずするだろう。して欲しい。

 天地万物に、あまねく祈ろう。でも、天地無用は厳守だ。

 それを守らないと、喉ちんこが大きくなってしまう。それは、嫌だ。


 「〈タロ〉様、脇腹に青あざが出来ていますわ。でも、〈タロ〉様が悪いのですよ」


 「脇腹以外にも、沢山内出血していますね。痛みますか」


 そう言われたら、少し痛いな。裸ハプニングで、気がつかなかった。

 まあ、気づかないのは、たいしたことは、ないってことだな。


 「そうだな。少しだけ痛いよ」


 「〈タロ〉様が、許せなかったのです。でも、内出血しているのを見たら、急に可哀そうになりました」


 二人は、そっと僕の青あざと、内出血している場所をさすってくれた。

 さすることで、治るわけでもないと思う。だからなぜ、さすっているのかは分からない。

 でも、好きな様にさせておこう。さすられて、悪い気はしないのだから。

 少しピリッとして、安らぐ気もする。


 シャワーを浴びた後、「今日はここまでです」と言って、二人は先に出て行った。

 身体を拭くことまでは、してくれなかった。

 将来は、これ以上のことをしてくれるのかも知れない。あまり期待しないで、待っていよう。


 二人が着換え終わってから、僕もシャワー室を出た。二人はもういない。

 夕食までに、髪を乾かして整える必要があるんだろう。


 夕食後、二人が僕の船室に来てくれた。一人づつではなく、二人一緒だった。

 二人切りになるのを、用心しているのだろうか。それとも、なりたくないのか。


 来てくれた用事は、青あざと内出血に薬を塗ることだ。


 「〈タロ〉様、青あざに薬を塗って差し上げますわ」


 「私は、内出血しているところに塗ります」


 「そうか。ありがとう」


 「ここ、腫れていますわ。痛いですか」


 〈アコ〉の指先が、僕の脇腹をさするように薬を塗っていく。

 少しくすぐったくて、少しゾクゾクしてくる。


 「少し痛いな」


 「ここは、赤くなっています。しみますか」


 〈クルス〉の指先が、僕の太ももを撫でるように薬を塗っていく。

 少し暖かくくて、少しビックとなる。


 「少し、しむかな」


 「〈タロ〉様。私は、怒っているふりをしていましたが、もう止めましたわ」


 「ふりだったの」


 「ふふ、そうですわ。ふりです。しょうがないとは思うのですが、〈タロ〉様のしたことで、私は傷つきました。それでなにも罰がないのは、将来に影響しますからね」


 「〈タロ〉様、私はふりではなかったです。でも、もう怒ってはいません。怒ったというよりは、信じられないほどの衝撃を受けたのです。身体が乗っ取られる経験は、それは怖いものです。今でも震えがきます。誰かに、私がされたことの、償いを求めていたのだと思います。それは、〈タロ〉様にしか出来ません。私は甘えているのかも知れません。〈タロ〉様なら、私の気持ちを受け止めてく、癒してくれると思ったのです」


 うーん、憑りつかれるのは、これほど心に傷を残すんだな。自我が、侵されるんだと思う。

 言い方を変えれば、時限的な一種の殺人じゃないのか。


 〈アコ〉と〈クルス〉では、感じ方も相当違うんだな。

 〈アコ〉が憑りつかれたのは一瞬だけど、〈クルス〉は長時間だった。


 その間〈クルス〉は、怖くて悲しくて、助けて欲しかったんだろう。

 それなのに、頼りにしていた僕が、余計に〈クルス〉を苦しめたんだな。

 僕に怒るのも当然か。ただ、まだ僕を、信頼して頼ってくれているんだな。

 それに答えるのは、どうしたら良いのか。


 「〈アコ〉、〈クルス〉。辛かったんだね。助けてあげられなくて済まない。さらに追い込むようなことをして、本当に申し訳なかった。これからは、ちゃんと二人を見るよ。約束するよ」


 僕は同時に、二人の腰を抱いて引き寄せた。

 二人は、またすがるようにして泣き出している。僕は腰に、手を当てたままだ。

 泣けば泣くほど、ストレスが発散するらしいので、もっと泣けば良いと思う。

 枯れるまで泣けば、悪い夢を見ることもないと思う。

 きっと、良い夢が見れると思う。


 僕も良い夢が見れそうだ。

 二人のシャワー姿が夢に出てきたなら、僕はきっと夢精をすると思う。

 楽しみだけど、強張るな。ガシガシだな。


 次の日も、続けて守り刀の練習を行う。他にすることが、特にないだけだ。


 〈アコ〉は、変らず胸元を見せつけるし、〈クルス〉は、前以上に裾をひらつかせる。

 僕は、また脇腹と太ももを突かれた。どういうこと。


 前の日と、何も変っていない。変化があるのは、二人が思いっきり笑うことだけだ。

 僕を突くたびに、腹を抱えて笑っている。涙が出るほど、笑っている。

 何がそんなに面白いのか、僕には理解出来ない。ただ痛いだけだ。


 結婚する前から、共感不足で、将来が不安になる。

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