第297話 《大泥ウサギ》

 「そうですよ。囲んで叩けば何とかなります。ただ、生息地が泥なんですよ」


 〈ソラ〉も、《大泥ウサギ》のことを知ってたみたいだ。《黒鷲》では有名な話なんだな。

 僕と〈ラト〉が、困ったヤツなのかも知れない。

 とうとう、僕は困ったちゃんに、成り下がっちまったか。


 「泥って」


 今更だ。疑問は聞いておこう。


 「泥が多い所に生息しているんです。まじで、ドロドロらしいですよ」


 〈ソラ〉の情報は、あまり正確ではないな。又聞きのまた聞き程度か。


 「肉は、高級品で美味しいらしいよ。沢山討伐して、腹一杯食べてみたいな」


 〈アル〉が、遠い目をして夢見るように呟いた。


 「いや、一匹でも大変らしいよ。とにかく、泥だらけらしい。辺り一面ドロッドロッでぬかるみだって。心を病む泥だという話みたい。身体を洗うのや洗濯で、体力も疲弊するらしいんだ」


 〈フラン〉が、〈アル〉の夢を完膚なく打ち砕いていく。

 夢見る目をしてた〈アル〉が、今は自分の足元をただ見詰めている。


 今日の授業は、板で作られた細長い箱を、組ごとに棒で突くというものだ。

 板箱は、《大泥ウサギ》を模しているらしい。板箱全体の大きさは、一m二十cmほどだ。

 大きめの箱の上に、小さな箱が乗っている。小さな箱は頭のつもりか。

 頭の部分に突き出た二本の棒は、《大泥ウサギ》の長い前歯を表しているようだ。

 こうして見ると、若干愛らしい気もするな。


 ウサギにしては大きいが、〈魔獣〉にしては小さい。この大きさなら何とかなりそうだ。

 棒は、討伐本番では槍に変るみたいだ。ただ、危険を考慮して、練習では棒を使っている。

 練習で危ないといってて、討伐本番は危なくないのか。

 討伐本番の方が、何倍も危ないんじゃないの。根本的な疑問が残るな。

 長い前歯は危険だから、それを避けて棒を突けと言われた。

 でも、板箱ですから、ちっとも動かないんですけど。



 最近の「楽奏科」の授業は、〈ヨヨ〉先生のコスプレショーとかしている。


 本日の装いは、水夫をモチーフにした服のようだ。

 マリンルックと言うのか、セーラー服と言うのか。

 ちょっと〈ヨヨ〉先生の年齢には、そぐわない服だと思う。


 大きなセーラータイプの襟と、胸元の大きな青いリボン。

 ミニ丈の裾に、膝の上まである長くて黒い靴下を履いていらっしゃる。

 服は、眩いばかりの白一色で、青いストライプが一本、襟にも裾にも袖にも入っている。

 おまけに、水兵がかぶるような白い帽子が、ちょこんと頭に乗せられているもポイントだ。

 この配色で、なぜ靴下が黒なんだろう。


 一見それほどは、エロ要素がないと思われる服ではある。

 しかし、そこは〈ヨヨ〉先生だ。黒靴下と短い裾の間が、魅惑のゾーンになっている。


 〈ヨヨ〉先生のムッチリモッチリとした太ももが、ヤバイんだ。

 〈ヨヨ〉先生の少しだけ張りを失った太ももが、黒靴下で締め付けられている様子がエロいんだ。 

 ふにゅっとした太ももが、黒靴下の上で若干膨れている様子が堪らないんだ。

 張りを失いつつある太ももを、短い裾から惜しげもなく晒しながら、恥ずかしそうに裾を気にしている様子がプリティだ。


 要するに〈ヨヨ〉先生は、何を着てもエロいってことだ。


 〈ヨヨ〉先生は、こんな十代の娘が着るような服を着ても、おばさんが良い年をしてとはならない。

 若向きの服を着こなしているというより、そのアンバランスさを、全てエロさに昇華させている。 

 まさにエロの化身と言えよう。


 張りを失う前の太ももを、どうしても今直ぐに、触らなくっちゃと思わせてしまう。

 脅迫観念に追い込む魅力を、同心円状に撒き散らしているんだ。

 化け物じみている女性なんだよ。


 生徒たちは、〈ヨヨ〉先生の太ももを、舐めるように見詰めている。

 吸い寄せられて、目が離せないんだ。吸いついて、すすりたいんだと思う。

 ふにゅっとしているから、すすれそうなんだもの。


 今日の「楽奏科」は、〈ヨヨ〉先生の太ももを愛でる会となり果てた。


 「先生は、海上での冒険活劇を聞きましたわ。最近のことですが、海賊を海旅団が退治したそうですの。勇敢な行為だと思いませんか。わたくし、大変感銘を受けまして、本日このような服を着ておりますの。おほほほ」


 先生は、どこからこの話を聞いたのかな。

 先生の幅広い交友関係には、王都旅団の兵士もいるのだろう。

 ただし、「交友」の交はそうだが、友ではないと思う。

 先生は、ピロートークで話を聞いたのかも知れない。情報が誤っているぞ。

 「海旅団」じゃなくて「海方面旅団」だし、「海賊」ではなく「強盗団」だよ。


 先生への質問はなかった。

 僕が、海方面旅団長と知っているから、嫉妬もあるのだろう。

 〈ヨヨ〉先生を盗られてなるものかと、思っているのかも知れない。


 心配しなくても良いのにな。

 〈ヨヨ〉先生は、とてもじゃないが、僕が手を出せる女性じゃない。僕の手の負える人ではない。 

 手でも、舌でも、あそこでも、〈ヨヨ〉先生に出してはいけない。

 あらゆる液体が、全てズズズッと、先生の色んな部位で吸い取られてしまうだろう。

 僕はミイラとなって、ユラユラと永遠に先生を、追い続けるかも知れない。

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