第296話 支配

 もっとしたかったけど、〈アコ〉が譲歩したんだ。僕も、この辺で折れる必要がある。

 自分の欲望を一方的に求めるのは、褒められたことじゃない。


 「分かったよ。もうしないよ。お茶が楽しみだな」


 「ふん、〈タロ〉様は、私に無理やり言うことを聞かせて、嬉しいのですか」


 〈アコ〉は、顔を赤くして、少し怒っているように見える。

 目は潤んで、首筋が赤く染まっているのも見えた。

 怒っているのに、まだ僕にしがみ付いたままだ。離れようとはしない。


 「そう言うなよ。〈アコ〉にお茶を飲ませて貰うのが、すごく気に入ったんだ」


 〈アコ〉が言うように、僕は〈アコ〉を屈服させたことを喜んでいる。

 これは支配欲が、満たされたことなのかも知れない。

 〈アコ〉を自由に出来た、喜びなんだろうか。


 「そう言われると、しょうがないですね。飲ませてあげますわ」


 〈アコ〉は、お茶を口に含ませて、頬を膨らませている。

 𠮟かられて、頬をぷくっとしている少女の様で、とっても愛くるしい。


 僕は、その少女の様な口に唇を合わせて、口を開かせた。

 〈アコ〉は、「うんん」って呻きながら、お茶を僕へ流し込んだ。

 目はまだ潤んでいる。泣きそうな顔だ。

 〈アコ〉の中で、僕への新たな回路が開いてしまって、もう閉じれないのかも知れない。

 口を開いて、お茶を飲ましてくれたように。

 そのこじ開け方を、狡いと言ったのかな。


 僕は狡いのかも知れない。

 お茶を飲ませて貰った後も、僕は唇を合わせたままにしている。

 舌を〈アコ〉の口の中へ侵入させ、お茶の残滓を舐めとるように動かした。

 お茶の味はもうしないのに、嘗め回すことを止めない。


 〈アコ〉は、僕にまだしがみ付いたままだ。本当に離れないな。


 僕は、部屋着の間から、スリップ越しにおっぱいをゆっくりと揉んだ。

 僕の背に回した〈アコ〉の手に、一瞬力が入った気がする。

 そして、僕がおっぱいを揉む邪魔は一切しなかった。


 僕が脇の方から、おっぱいを揉んだ時に「あん」と小さな声が漏れた。

 僕が、先っちょをこねた時、「んんう」と少し悲しげな声がした。

 〈アコ〉が開いた新しい何かは、まだ、ずいぶんと狭いのだろう。


 僕が、〈アコ〉の唇を離した時、〈アコ〉と僕の間で「ちゅぱ」という音が発せられた。

 糸が少し引いて、それが一時光ったと思う。


 「〈タロ〉様。帰る前に、私のことをどう思っているか、教えてください」


 「えっ、急にどうしたの」


 「うぅ、私、少しだけ不安なんです」


 「そうなのか。でも、心配いらないよ。僕は〈アコ〉が大好きだよ。一番大切な人だと思っている」


 「うふ、とても嬉しいですわ。私も〈タロ〉様が好きです。心から大好きです」


 そう言って〈アコ〉は、より強くしがみ付いてきた。

 僕達は、最後に軽くキスをして帰ることにした。もう辺りは、ずいぶんと暗くなっている。


 僕は、〈アコ〉を屈服させたと思っていたが、本当にところはどうなんだろう。

 そんな単純なことでは、ない気がしてきた。


 僕が〈アコ〉を欲しいと思っているのは、〈アコ〉に僕の気持ちが支配されているからだとも思える。

 〈アコ〉が、僕の行動を、無自覚にコントロールしているような気もする。

 誰かを支配したいと思うのは、その相手に支配されているからするんじゃないのかな。

 人の感情っていうのは、度し難いもんなんだな。


 帰り道では、〈アコ〉が嬉しそうな顔をして、僕の腕に絡みついている。

 もう薄暗いからか、いつもより大胆な行動だ。


 僕の腕は、今、〈アコ〉に絡み取られて支配されている。自由には動かせない。

 〈アコ〉の両手も、僕の手を絡みとることで、自由はない。

 そのうえ、おっぱいが当たっているのを承知で、楽しそうに笑っている。

 僕も笑っている。


 おっぱいの柔らかな感触に支配されるのは、何も問題じゃない。

 僕は、ずっとこの支配が、続けば良いとさえ思う。


 今日のおかずは、生おっぱいで決まりだ。



 「武体術」の授業は、新たな展開を迎えた。


 二年生の上半期に、なんと〈魔獣〉を討伐する授業が、仕組まれているようだ。

 これからの授業は、そのための準備をすることになるらしい。


 「あぁ、〈魔獣〉の討伐なんて、どうして学舎生が、しなくちゃならないんだよ。死んじゃうよ」


 〈ラト〉は、今からもう頭を抱えているみたいだ。


 「はぁー、〈ラト〉は、知らなかったの。〈魔獣〉の討伐は、《黒鷲》の伝統になっているんだ。それに〈魔獣〉と言っても、一番弱いヤツなんだよ」


 〈フラン〉が、何だコイツはって感じで、説明してやっている。


 「ほー、弱い〈魔獣〉なのか」


 「ふぅ、〈タロ〉も、知らないようだな。〈タロ〉は、抜けているところがあるからな」


 〈アル〉が 、小馬鹿にした言い方で僕を貶めてきた。酷いヤツだ。〈魔獣〉にやられてしまえ。


 「はぁ、抜けているわけないだろう。僕はしっかり者だよ」


 「はい。はい。それは置いといて。討伐する〈魔獣〉は、《茶公兎(ちゃこうと》だよ。通称、《大泥ウサギ》って言われている。泥で固めた毛皮は固いが、攻撃はそれほど怖くないんだ。僕達でも何とかなる相手だよ」


〈フラン〉の僕の扱いが、軽過ぎるんじゃないか。丁寧さの欠片もないな。

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