第291話 がっつき過ぎ

 帰りの馬車で、〈アコ〉と〈クルス〉は眠り続けた。

 怖いことがあったし、昨晩も熟睡出来なかったのかも知れない。

 夜中に身体を触ったから、半分起きてしまった可能性もある。

 二人とも、僕の膝に頭を乗せて、可愛い顔をして眠り込んでいる。

 これじゃ、起こすようなことは出来ないな。


 昼食休憩の後も、二人は眠り続けた。

 この様子では、二晩ともあまり眠れなかったのかも知れない。

 僕と一緒じゃ、そうなんだろう。気が張ってしまうのだろう。

 まだ、本当の夫人じゃないからな。


 また二人とも、僕の膝に頭を乗せて、可愛い顔で眠り込んでいる。

 ベッドの中じゃないので、安心しているのだろう。このままに、しておいてあげよう。

 昼食は、二日酔いもあるけど、量を控えめにしたから、もうあんな悪夢のような下痢にはならない。

 二人を起こして、馬車から降りなくても良い。少しずつだけど、僕は賢くなっているんだ。


 今日は休養日だ。


 でも〈クルス〉は、二日学舎を休んだので、友達にとって貰ったノートで、勉強の後れを取り戻すらしい。

 〈クルス〉は、勉強中毒なんだと疑ってしまう。良くそんなことが出来るな。

 偉いことなんだろうけど、とてもじゃないが、理解出来ない。


 そのため、今日は〈アコ〉と一日過ごすことになった。


 〈アコ〉の希望を聞くと、午前中は演奏会に行きたいらしい。

 素晴らしいと評判の管弦楽団が、劇場で演奏会を催しているようだ。

 僕も、特に行きたい所はないので、希望どおり行くことにした。

 辻馬車を拾う前も、通りから劇場に行く時も、〈アコ〉は僕の直ぐ横を歩いてくれた。


 「〈アコ〉、今日は横を歩いてくれるんだな」


 「うふ、私はもう、お披露目されました。だから、〈タロ〉様との仲を、もう誰にも隠すつもりはありませんわ。もっと引っ付いた方が良いのですか」


 そう言って、〈アコ〉は腕を巻き付けてきた。

 止めてくれよ。おっぱいも当たって、顔がにやけてしまうじゃないか。


 評判通りの素晴らしい演奏だった。

 強烈なアルファ波が奏でられており、僕は一瞬で眠りに落ちたらしい。

 お披露目の疲れが吹き飛んだと思う。有意義な演奏会だった。


 「リュートの参考になると思って、せっかく演奏会に誘ったのに。直ぐ眠っておられましたわ。もう、〈タロ〉様は」


 「そう言うなよ。〈アコ〉のお陰で、疲れが取れたよ」


 「はぁ、それで良かったのでしょうか」


 「良いに決まっているさ」


 「もう良いですわ。お昼頃になりましたので、次は、お食事に行きましょう」


 昼食は、少しお高めのお上品なお店にいった。演奏会の帰りだから、そんな気分だ。

 僕は殆ど寝ていたけど、気分だけはそうなんだ。ついでに、お夕飯の用のお弁当も買った。

 午後からは、待ちに待った、秘密の屋根裏部屋へ行こう。グヘヘヘッ。上品だろう。


 「〈アコ〉、それじゃ行こうか」


 「はい。でも、その前に一度白鶴に、寄ってください。取ってきたいものがあるのですわ」


 《白鶴》の門の前で待っていると、〈アコ〉が大きい方の鞄を抱えてきた。

 この鞄に、何を入れているんだろう。


 「〈タロ〉様、お待たせ」


 急な階段を上がる時、〈アコ〉に先制をくらった。


 「〈タロ〉様、私から離れたら嫌ですよ。直ぐ近くにいてくださいね」


 「えー、そうなの」


 「うふ、〈タロ〉様と私は、離れたりしませんわ」


 こんな風に言われたら、離れて昇れないな。下着が覗けないな。狡い言い方だよ。


 屋根裏部屋に入って、部屋着に着替えるのが、もう待てない。

 二人切りになるのが、ずいぶんと久ぶりの気がする。

 〈アコ〉の成分を、今直ぐに補給したいんだ。手から、鼻から、口からだ。


 僕は、着替えている〈アコ〉の傍に近づいた。

 〈アコ〉は、着替えている最中で、スリップ姿だ。

 僕が見ているのに気が付いて、胸を手で隠している。


 「うぅ、〈タロ〉様。旅館では、この姿を沢山見せましたが、もう待てないのですか」


 「うん。待てないんだ」


 「良いですわ。どうぞ、私を抱きしめてください」


 僕は、〈アコ〉を抱きしめた。

 〈アコ〉の足元に、丸く制服が落ちているのが、何か煽情的だ。興奮してしまう。


 「〈タロ〉様。私も〈タロ〉様に抱きしめて欲しいと、ずっと思っていましたわ。今は、すごく幸せな気分です」


 〈アコ〉な、僕の胸に顔を埋めて、背中に手を回している。

 おっぱいが、押し付けられて、僕にその大きさと柔らかさを、雄弁に語っているようだ。

 〈アコ〉の顎に人差し指を添えて、顔を上げさせた。


 「あぁ、〈タロ〉様の吐息は、こんなに熱いのですね。火傷してしまいそうですわ」


 〈アコ〉が、静かに目をつむったので、僕は優しく唇を重ねた。

 そして、唇どおしを優しくこすり合わせた。


 「あっ、んんう。〈タロ〉様。やっぱり火傷しそうですわ。唇が燃えるように熱いです」


 「〈アコ〉の唇も、とっても熱いよ」


 「ふぅ、〈タロ〉様、二人切りの時間は、今からたっぷりとありますわ。一度落ち着きたいのです。この姿でずっといるのは、やっぱり恥ずかしいですわ」


 まあ、そうだよな。がっつき過ぎだよな。焦り過ぎは禁物だ。


 「そうだな。少し落ち着こうか」

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