第289話 夕食会
〈アコ〉と〈クルス〉と、一緒に部屋へ一旦帰った。二人が顔を整えるためだ。
今は、斑だからな。いくら僕が馬鹿でも、このまま夕食会へ行こうとは言わなかった。
自分ながら大した進歩だと思う。エッヘンだ。
「〈タロ〉様、何変な声を出しているのですか。〈タロ〉様も、お顔を洗ってください。お顔が汚れていますわ」
「私達は、もう少しかかります。〈タロ〉様も、身なりを整えた方が良いですよ」
さっきまで、ベッタリ僕に抱き着いていたくせに、今はあれこれ指図するんだな。
態度が、コロコロ変わり過ぎるよ。女性の気持ちは、やっぱり分からないな。
これも、振り子の原理なのかな。
僕は顔を洗って、ベッドに座ってぼーとしてた。
死にそうな目にあったから、案外疲れているみたいだ。
「〈タロ〉様、用意が出来ましたわ。また、同じドレスなので、悲しいですけど、仕方ありません。変り映えしませんが、〈タロ〉様見てください」
「〈タロ〉様、どうですか。ちゃんと整っていますか。変じゃありませんか。同じドレスなので、見飽きたと思いますが、もう一度確認してください」
「二人とも、とても美人だよ。ドレスを気にする必要はない。何を着ていても美人は、美人だよ。ドレスも綺麗だけど、それ以上に二人が綺麗なんだから」
「うふふ、〈タロ〉様、ありがとうございます。でも、ドレスも大切ですわ。裸ではいられませんもの」
僕は裸の方が見たいけどな。
「ふふふ、美人ですか。嬉しいです。でも、違うドレス姿も見て欲しかったです」
美人と連呼しただけで、喜ぶのは、とても安上がりだな。全く費用がかからない。
元手がゼロだ。でも、新しいドレスを、おねだりされている気も大いにする。
結局、高くつくんだな。世の中、そんなに甘くはない。
夕食会のメンバーは、僕と〈アコ〉と〈クルス〉の他に、〈リク〉と船長と水夫長と副旅団長夫婦だ。副旅団長の子供は、預かって貰っているらしい。
副旅団長は、また、小島の捕り物の判断ミスを謝ってきた。
でも、もう気にするなって言っておいた。
副旅団長のミスは、充分、奥さんが取り返してくれたからな。
それを言うと、副旅団長が苦い顔になった。
美人秘書の夢が、遥か遠くいってしまったからだと思う。副旅団長、潔く諦めろ。
夢は夢のままにしておく方が良いんだ。おまえが、奥さんに敵うわけがない。
見るからに強大なお尻なんだから、這い出すことは決して出来ないだろう。
せいぜい揉むことしか、出来ないと思うよ。
一生懸命に揉んだら、何か良いことが起こるかも知れない。
そして、赤と青のストライプのショーツも、はかせてみろよ。
ストライプが、どれほど太くなるか気になるじゃないか。
それを見たら、二人目、三人目が出来るだろう。それも、最高の幸せの一つだと思う。
「まあ、奥様は以前、王都旅団で秘書をされていたのですか。それは心強いですわ」
「えぇ、〈アコーセン〉様。若い時の話ですが、一定の評価は得ていましたのよ。おほほほ」
「さぞかし、優秀な秘書でいらしたのでしょうね」
「〈クルース〉様、それは褒め過ぎです。普通ですよ。普通の秘書です」
奥さんの口ぶりは、横で聞いてても分かる。自信に満ち溢れている。
自他ともに認める、優秀な秘書だったのだろう。
あの体力と判断力と一途さがあるのだから、そりゃそうだろうと思う。
副旅団長は、完全に詰んだな。
その後も、〈アコ〉と〈クルス〉は、奥さんに秘書の心得とかを熱心に聞いている。
将来、僕が美人秘書を持ちたいと言ってきた時に、自分がなると言いそうだな。
僕の美人秘書の夢も、脆くも崩れ去っていく。
「若領主、もっと酒を飲まねぇか。男なのに情けぇねぇな」
「何言ってるんだ。飲んでるだろう」
「チビチビ飲むんじゃねぇよ。こんな風に、グビリ、グビリとやるんだょ」
「高い酒なんだから、もっと味わって飲めよ」
「フン、そんな飲み方じゃ、ちっとも酔わねぇよ。副も飲んでるか」
「はい。頂いております」
「固てぇな。飲み足らねぇから、そんな固てぇんだ。もっとガバガバいけよ」
「〈リク〉さんよ。おめぇわょ。飲まなくて良いょ。飲んでも何も変わらねぇ。水と変わらねぇから、もったいねぇ」
船長は、高い酒を何の遠慮なく、飲んでくれている。
払いが僕だから、余計に美味しいんだろう。自腹なら、チビチビ飲むくせに。何て卑しいんだ。
船長に量を飲まされたこともあるが、空きっ腹に飲んだせいで、酔いが急激に回ってきた。
何だか床が、波打っているぞ。この旅館、料金の割に安い造りだな。
副旅団長を見ると、既にテーブルに突っ伏している。船長にしつこく絡まれていたからな。
船長は、椅子の背にそっくり返って、意地汚く眠り込んでいる。
百舌の早贄にされた、茶色が強いトカゲのようだ。
腐りかけのまま、干からびていく運命だと思う。
ただ酒だと思って、意地汚く飲み過ぎるからだ。大きな、いびきもかいているな。
血圧が、高いんじゃないのか。その内、くも膜下出血するぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます