第284話 青と赤のストライプ
「あー、誰に頼まれたんだ」
「海方面旅団に、決まっているだろうが。そうか、副が若領主に、話を通しておいてくれって言ってやがったなぁ。わりいなぁ。すっかり、きっかり忘れてたぜぇ。わはははっ」
何がわりいだ。初めから、僕に言う気はなかったんじゃないのか。
給料の二重取りと言われるので、黙っていたんだろう。そういう、こすいジジイだ。
それにだな、本業の果物の輸送はどうなっているんだ。心配させやがる。
「「深遠の面影号」の運航は、どうなってるんだ」
「心配するなってぇ。ちゃんと考えているってぇ。俺と水夫長しか、こっちへは出張ってないぜぇ。後の連中でも、慣れた航路はバッチリだ。若けえ奴らにも、経験っていうものを積まさなくっちゃいけねぇんだよ。俺はよう、先々のことまで、ちゃんとちゃんと、考えているんだぜぇ。恐れ入ったか、蛸おろし」
ふん、偉そうに。それに「蛸おろし」って何だ。
「ふーん、人助けって言ったよな。タダでしているの」
「はぁー、タダで教える馬鹿が、どこにいるんだよ。当然お足は貰っているぜぇ。俺の金ピカの技と頭脳を、タダみたいな値段で、伝授させてあげているってことだ。これ以上の人助けが、いっていどこにあるっていうんだよ」
「それは、タダの金儲けじゃないのか。はぁ。それはもう良いけど、大型新造船の調子はどうなんだ」
「はぁー、大型新造船って何のことだ」
「あの鹵獲船を、そう呼んでいるそうだ」
「へぇー、そりゃ詐欺ってもんだぜぇ。海方面旅団は、でいじょうぶかぁ。無茶苦茶だ。上がしっかりしてねえからじゃねえのか。俺が、手下の扱い方を、良心価格で伝授してやろう。任せてみなぁ」
「心から遠慮しておくよ。さっきの質問はどうなんだ」
「けっ、儲かっているくせに、ケチ臭い領主だな。調子か。調子は、可もなく不可もなくだぜぇ。分かりやすいように言うとだな。どんくせえけど、何でもさせてくれる、小太りの娘っ子だな。ずんぐりしているから、船足は出ねえぜぇ。それによう、色がケバ過ぎるな。厚化粧過ぎるんだよ。若領主の好みか。許嫁の化粧は薄いのに、船は違うのか。とんと分からねぇな。俺は、あの船を「ケバイムチムチお尻ちゃん」と呼んでるぜぇ」
船長の話は良く分からないが、大型新造船はどうやら、まあまあの船のようだ。
大型船の経験が浅い海方面旅団には、ちょうど良いと思う。
速度が遅いのも反って良いかも知れない。ただ、ケバイらしいな。どういうことだろう。
港の方にもう少し歩くと、船のマストが見えてきた。収納されている帆は白い。
普通だ。何もケバクないな。
船の全体を見渡せる所まで来ると、船長が言っていた意味が分かった。
船体が、青と赤の細かいストライプに塗られているんだ。
こんな風に塗り分けられた船を見たことがない。
船のずんぐりとした船尾。船長の言うところの「ムチムチお尻ちゃん」は、まるで青色と赤色の横縞のショーツを、はかされているように見える。
うーん、これを僕の趣味だと思われたら嫌だな。これは、副旅団長の趣味に決まっている。
美人秘書にも、青と赤のストライプのショーツを、はかせようとしていたと推察される。
どういう趣味だ。何て、いやらしいんだろう。
「旅団長様、ここがお披露目の会場です。新造大型船、「青と赤の淑女号」の前でバーンと設営しておりますです」
「えっ、名前はもう決まっているのか」
「おー、ご承知ですよね。旅団長様のご夫人を色で例えるなら、青と赤と言っておられましたよ。それをそのまま船の名前にしたのです」
えー、そんなこと言ったか。全く覚えていないぞ。どう言うこと。
「まあ、〈タロ〉様。私が、この船の名前に入っているのですか。とても名誉なことですわ。お披露目に参列して、本当に良かったです」
「〈タロ〉様、良いのですか。この大きな船に、私の印象など付けて頂いて。嬉しくて堪りません。身に余る光栄です」
何だか、〈アコ〉と〈クルス〉が、激しく感激しているぞ。そんなに嬉しいことなのか。
船長が「ケバイムチムチお尻ちゃん」と呼んでいる、一度沈んだ船なんだぞ。
良く分からないな。でも、便乗させて貰おう。
「そうか。そうだったな。〈アコ〉が青で、〈クルス〉が赤と言ったんだ。淑女は、二人そのものだからな」
〈アコ〉と〈クルス〉が、僕の腕にしがみついてきた。もう泣きそうになっている。
二人のおっぱいが、激しく僕に押し付けられた。
遠慮なく僕の肘に、グイグイと押し付けている感じだ。
ただ、肘では感触が良く分からない。やっぱり、自分から触りに、いかなくてはいけないな。
能動的に、やらなくてはならない、何事も。そうじゃないと、本当の幸福は得られないんだ。
〈セミセ〉公爵と〈バクィラナ〉公爵と、その夫人が、僕達を微笑ましそうに見ている。
少し恥ずかしいな。
〈アコ〉と〈クルス〉も、そう思ったようで、慌てて僕の腕から手を離した。
「《ラング》伯爵、熱々ですな」
〈バクィラナ〉公爵が、またウィンクをしてきた。もう止めて。
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