第276話 臭くても、隣にいるしかない
「えっ、二人と結婚するのに、覚悟なんていらないよ。自然とそうなると思うんだけど。違うの」
「うふふ、〈タロ〉様の中で、私達と結婚するのは、ごく自然なことなのですね。自然には、何も勝てません。そう思うと、大変心強い言葉ですわ」
〈アコ〉は、安心したような、穏やかな微笑みを浮かべている。
今晩、同じベッドで寝るっていうのに、安心するとは、いかがなものか。
僕をあまり信用していると、痛い目に遭うぞ。
「覚悟は、必要ないのですか。〈タロ〉様が、私と結婚するのは、簡単なことなのですね。私が、〈タロ〉様にぞっこんなので、そういう面では簡単なのは分かります。〈タロ〉様のお気持ち次第なのですよ」
〈クルス〉の方は、少し安心出来ない気持ちを持っているようだ。まだ、笑顔にはなっていない。
それに、もてあそんだとは、どういうことなんだ。人聞きが、とんでもなく悪いぞ。
そんなことをした覚えは、これっぽっちもないよ。ぽっちを、ちょっと触っただけじゃないか。
「僕は、二人と必ず結婚するから、お披露目に呼んだんだよ。これで、僕から離れられないだろう。少し臭くても、隣にいるしかないよな」
後から知ったことだけど、こう言った方が良いだろう。二人の話に、乗せて貰おう。
「うふふ、〈タロ〉様が臭かったら、私がちゃんと洗ってあげますわ。そんなの心配いりません」
「ふふ、〈タロ〉様のお気持ち、お聞きしました。もう迷いません。臭くても離れないですよ。我慢します。それに安心してください。ハンカチを一杯持ち歩きますね」
やっと、〈クルス〉も笑顔になった。〈クルス〉は本当に慎重な娘だな。
一歩一歩、僕の心を確かめてくる感じだ。
臭くても、我慢するし、ハンカチも常に準備してくれるんだな。
僕が、ちびってしまうことを、前提にしているんだな。
良く分かったよ。〈クルス〉は、僕をそう思っているんだ。
〈アコ〉も、臭い僕を洗うと言っているし。有難いとは思う。
でも、僕は臭くない。臭いって言うなよ。臭くないって、言って欲しかったのに。ああぁ。
「良かった。これで安心して寝られるよ」
くそっ、布団の中で臭いのをかましてやろうか。
「うーん、私は少し不安ですわ。〈タロ〉様、二人切りじゃないのをお忘れなく。エッチなことは、許しませんよ」
「〈タロ〉様、先ほど深い仲とは言いましたが、今日そうなるとは言っていません。決して誤解しないでください。恥ずかしいことは、断固拒否します」
「あっ、そんなことはしないよ」
「ふふ、本当ですか。そうは見えませんよ」
「うふ、お顔に残念と書いてありますわ」
酷い言われようだな。本当のことだけど、最初に釘を刺されてしまった。
でも、〈アコ〉と〈クルス〉が、良い笑顔になって良かった。とても嬉しそうに話している。
僕も二人につられて、嬉しくなってしまう。
僕と一緒に泊まることになったけど、全く嫌がっていないのも嬉しい。
臭いと言われたことは、不問にしてあげよう。僕は、ケツの穴が大きいんだ。
夕食は旅館の広間で、王国軍司令官の〈バクィラナ〉公爵と、「王都旅団長」の〈セミセ〉公爵と同じ食卓を囲んだ。
〈セミセ〉公爵の側室と子供も一緒だ。〈バクィラナ〉公爵の夫人もいる。
互いの夫人と、僕は〈アコ〉と〈クルス〉を紹介し合って、和やかに食事が進んでいく。
〈セミセ〉公爵夫人は、〈クルス〉と話が弾んで、〈バクィラナ〉公爵夫人は、〈アコ〉と話が弾んでいるように見える。
置かれている立場と、育った環境が近いのかも知れない。
〈バクィラナ〉公爵夫人は、〈アコ〉の母親を知っているようで、貴族家のゴシップ的な話題が多いようだ。
〈セミセ〉公爵夫人は、〈クルス〉が《赤鳩》に在学と知って、しきりに感心している。
自身も《赤鳩》の試験を受けたが、合格出来なかったようで、〈クルス〉の優秀さを手放しで褒めていた。
〈セミセ〉公爵夫人は、《春息吹》出身らしい。そう言えば、髪形が今でも少し縦ロールだな。
子供が面白がって、縦ロールを触るから、殆ど真直ぐになってしまっているけど。
僕に聞こえないところで、奴隷の噂も話題にされていたようだけど、「キッパリと否定しました」と二人は言っていた。
まあ、準夫人なんだから、否定するよな。そうじゃないと困る。
「否定したら、残念そうでしたよ」とも言っていた。
何を否定したかは、教えて貰えなかった。何なんだろう。
吟遊詩人の話も出たようで、「あなた方の恋は、まるで物語なのですね」と言われたらしい。
それでどう答えたのと聞いたら、「現実は十倍ですと答えました」と返答された。
「えっ、十倍ってなんのこと」と聞いても、「うふふ」「ふふふ」と笑ってばかりで答えてくれない。
その笑いは何なんだよ。結婚する前から、言えないことがあるのか。
これは由々しき問題なのでは。教えてくれよ。
夕食が終わって、部屋に帰る時。
〈バクィラナ〉公爵夫人と〈セミセ〉公爵夫人が、「《ラング》伯爵様は、お二人の英雄でもあるのですね」と溜息をつきながら言われた。
どうして、溜息をつくんだろう。意味不明だ。
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