第271話 腕絡み

 〈アコ〉が、僕を見詰めてきたので、唇を重ねた。

 でも、〈アコ〉は両手で僕の腕にしがみついたままだ。

 これでは、〈アコ〉を抱き寄せられないので、キスが大変しにくい。


 〈クルス〉が前にいるから、〈アコ〉はわざとこうしているんだろう。

 腕絡み、って言う技なんだろう。仕方がないので、軽いキスを長くした。

 せめて、時間だけは僕の好きにしたんだ。


 「〈タロ〉様、こんなに長くキスをされるのは、さっきお返事なのですね。ずっと私が、隣にいて良いのですね」


 「そうだよ。ずっと僕の隣にいて欲しいんだ。〈アコ〉が、横を歩いてくれないのは、すごく寂しいよ」


 「うふ、〈タロ〉様。大好きです」


 「僕も〈アコ〉が、大好きだよ」


 〈アコ〉は、「うふふ」と小さく笑いながら、もっと身体をすり寄せてきた。

 もちろん、メロンおっぱいは、大きいから最初に当たっている。

 当たっていると言うより、腕がおっぱいに埋まっている。

 この流れなら、思う存分触れるぞ。


 さあ、触るぞと思ったけど、〈アコ〉はスウスウ寝息を立て始めた。

 えー、何だ。寝てしまっているぞ。

 さっきまで起きていたのに、安心したのか、ストンと眠りに落ちている。


 うー、寝ているけど、触っても良いよな。でも、悪くとれば、犯罪のような気もする。

 訴えられることはないけど、バレたらなんだか情けないな。

 起きている時でも触れるのに、コソコソし過ぎだよな。どうしよう。

 くだらないことを考えているうちに、僕も眠りに落ちてしまった。

〈アコ〉に大好きと言われて、 僕も心から安心したんだと思う。


 うーん、何かゴソゴソしているぞ。僕の身体を誰かが、動かそうとしているようだ。


 薄眼を開くと、〈クルス〉が、僕の身体を起こそうとしている。

 どうも、僕はベンチシートから落ちて、床で寝ていたらしい。


 「うー、腰がちょっと痛いぞ」


 僕は腰をさすりながら、ゆっくりと起き上がった。

 変な寝方をしたから、腰に負担がかかったみたいだ。


 「〈タロ〉様、すごく変な格好で寝ておられましたよ。腰は大丈夫ですか」


 「うん。少し痛いだけだ。〈クルス〉、ありがとう」


 「いいえ。反って起こしてしまって、すみません。でも、このままでは、いけないと思ったのです」


 「〈クルス〉は、眠くないの」


 「短い時間ですが。良く眠れました。眠気は、殆どなくなりましたよ」


 〈アコ〉は、ベンチシートに身体を横たえて、熟睡しているようだ。

 ひょっとしたら、僕は〈アコ〉に押し出されたのかも知れないな。


 「そっちに座っても良い」


 「もちろんです。私の横は、いつでも〈タロ〉様のものですよ」


 「そうか。それじゃ座るよ。でもこの前は、僕の横を歩かなったよな」


 「あっ、〈タロ〉様、怒っています」


 「怒ってはないけど、悲しかったよ」


 「〈タロ〉様は、あんなに注目されていましたので、私が横にいて良いのかと悩んだのです。私が〈タロ〉様に相応しいのか、また迷ってしまいました。でも、もう迷いません。お披露目をされますので、周知の事実になります。これからは、〈タロ〉様の傍を離れませんよ。だから、もっと近くに来てください」


 ふーん、〈クルス〉がそう言うのなら、思い切り引っ付いてやろう。

 僕は、〈クルス〉の腰に手を回して、グッと引き寄せた。


 〈クルス〉は、両手を自分の膝に置いて、僕の背中に手を回すことなしない。

 目の前で〈アコ〉が寝ているから、濃密なイチャつきは、したくないってことだろう。

 熟睡しているようだし、少しくらい大丈夫だと思うけどな。


 「〈クルス〉、学舎を休むことになったけど、問題はないの」


 「うーん、休みたくはなかったのですが、お披露目の方が遥かに大切です。考えるまでもありません」


 「そうか。それなら誘って良かったよ」


 僕は、腰に回した手を少し上げて、〈クルス〉の胸を触り始めた。

 このくらいなら、良いだろう。


 「んう、〈タロ〉様。こんなところで、悪戯されるのは困ります」


 〈クルス〉は、僕の手を握って、自分の膝の上に持っていってしまった。

 女性の意思に対して、力ずくで抵抗するのは格好悪い。

 しょうがない。今は、〈クルス〉の膝を触ることで満足しておこう。


 「〈クルス〉の膝は、本当に小さいな」


 「んん、〈タロ〉様。私の膝をあまり撫で回さないでください。少しくすぐったいです」


 でも、膝を触るのは許してくれている。止めようとはしていない。

 僕の自由にさせてくれるようだ。

 全てダメでは、可哀そうと思ったのだろう。僕に暴走されたら、困ると思ったんだろう。

 それに、膝は、あまり感じないのかも知れないな。


 「そう言えば、〈クルス〉と旅行するのは初めてだな」


 僕は、〈クルス〉のツルツルの膝を撫でまわしながら聞いた。


 「んん、そうですね。初めてです。王都と《ラング》を行き来するのは、旅行とは言えないですね」


 「僕は、この旅行を楽しみにしていたんだ」


 「それは、私も同じですよ。今も〈タロ〉様といられて幸せです。でも、少し怖いです」


 「えっ、何が怖いの」


 「少しずつ、色々と怖いのですよ」

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