第268話 アンテナショップ
〈リーツア〉さんと店の従業員に、奴隷の方と吟遊詩人の話を根掘り葉掘り聞かれた。
裸は全く見ていないと、強調して説明した。なぜだが、必死の弁明だ。
そういう雰囲気に持っていかれたんだ。
「奴隷を断っておられなかったら、私達は店を辞めていました」と口々に言ってきた。
許嫁達が、気の毒過ぎるとの主張だ。僕は、何も悪いことをしていないじゃないか。
ストロベリーブロンドを見ただけだ。それも、ワンピース越しだよ。毒にも薬にもなってないよ。
健気に僕に尽くしているのに、あんまりですと言うしまつだ。
へぇっ、僕は断ったのに、何かなじられている気がしてくる。これは全くおかしな話だぞ。
断ったことを、「良く言いました」とか、何とか、もっと褒めてくれても良いはずだ。
奴隷の方を見ただけで、こんな風に言われるのは、全く持って承服しがたいな。
激しく分かったのは、女性にとって、奴隷を所持されるのは我慢出来ないことらしい。
性奴隷を所持するのは、許嫁や嫁を馬鹿にしている行為のようだ。
分からないでもない。逆だったら許せないし、絶望的な気持ちになると思う。
うーん、ある種の夢だったが、将来も奴隷が持てそうにないな。
どこかで、ワンチャンないかな。ワンチャンス、ってどういうことだ。未練がましいってことだ。
片や吟遊詩人の方は、手放しで賞賛された。僕が語ったわけじゃないんだけどな。
皆、見に行ったらしい。近所の人も皆行ったらしい。皆良かったって言っているらしい。
僕がモデルらしいと聞いて、「すごいです。ご領主様を尊敬します」と言っている。
今までは、尊敬していなかったんだね。
〈リーツア〉さんは、私もあんな恋がしたかったですと頬を染めている。
まだ、娘気分が抜けていない。元気で前向き過ぎて、少し心配だ。
それと、掏り未遂犯の〈アィラン〉君が花を配達してきたらしい。
そう言われて見れば、歩行器のオブジェに、こんもりと花が飾られている。
意味がなくなった歩行器の用途が生じて、〈リク〉と〈カリナ〉も喜んでいると思う。
悲しい思い出が、綺麗な花の器に昇華したんだ。きっと歩行器の成れの果ても本望だろう。
〈リーツア〉さんも、「やっぱりお花は心を華やかにします」と喜んでくれている。
買い物客にも好評のようだ。確かに、店頭が前より華やかになった気もする。
〈リーツア〉さんに、「〈リーツア〉さんだけでも、充分華やかですよ」と言ったら、背中を思い切りはたかれた。
「ご領主様のバカ」って言われたよ。僕はどう反応したら良いんだろう。
今度から、〈リーツア〉さんを褒める時は、細心の注意をはらおう。
掏り未遂犯の〈アィラン〉君も、代金を貰って「ありがとうございます」と深々と頭を下げていたそうだ。
花を買っただけで、沢山の人が幸福を覚えた。一時的なことだけど、安い買い物だといえよう。
僕は、秘書役の〈ソラィウ〉に抱えきれないほどの書類を渡され、不幸せな気持ちを覚えた。
夜遅くまで働なくてはならない。
僕に幸福を覚えさせてくれる人は、どこに隠れているのだろう。今直ぐ出てきて欲しい。
書類と終わりが見えない格闘していると、〈ソラィウ〉が塩漬魚の話を切り出してきた。
塩漬魚と干物は、量産体制が整いつつあり、今度王都にアンテナショップを開店させる手筈になっているようだ。
前に処理した書類で、僕が許可を出しているらしい。はぁー。
そんなことを覚えているはずがないだろう。
僕は眠いんだ。勝手に上手くやって欲しい。そして、僕に金貨をもたらして欲しい。
海方面副旅団長から、連絡が入った。海方面旅団本部の改修が出来たそうだ。
同時に《ベン》島の入り江からサルベージした船の艤装も終わったようだ。
僕の知らないところで、副旅団長は頑張っていたんだな。
それで、この二つのお披露目をすることになった。
海方面旅団の発足を、少しは世間に知らしめる必要があるからな。少しだけだけど。
副旅団長は、とても張り切って、僕に説明してくれた。
僕は他人事のように考えていたが、聞くと、どうも僕が主役らしい。
それはそうか。痩せても枯れても、細くて短くても、海方面旅団長だからな。
お披露目の参加者だが。来賓に、王国軍司令官の〈バクィラナ〉公爵と「王都旅団長」の〈セミセ〉公爵を呼ぶ手筈になるようだ。
後の参加者は、当然だけど海方面旅団員になる。ただ、海方面旅団員は少数しかいない。
少数だが、精鋭ではない。精鋭かどうかは、この際無視出来るが、数が少な過ぎてあまりにも寂しいお披露目になってしまう。
寂しさを回避するために、海方面旅団員の家族も参加させることになった。
要は、モブ要員をただで動員するってことだ。
海方面旅団本部も立派になったし、大きな船も出来たから、家族に見せても恥ずかしくないんだろう。
「海方面旅団長様、我々も家族を招待しますので、ぜひ旅団長様も然るべき方と同伴してください。お披露目ですから、華のある方が望ましいです」
副旅団長が、崩れそうな笑顔で僕に言ってきた。
悲願の副旅団長室が完成して、家族に自慢出来るのが、嬉しくて堪らないのだろう。
嬉し過ぎて、顔が崩壊する一歩手前になっている。何とかここで踏み留まることを祈ろう。
新たな、副旅団長を選出するのは、何かと面倒だ。
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