第267話 高身長のきざったらしい優男

 早朝練習では、王族の〈サシィトルハ〉先輩に声をかけられた。


「おっ、〈タロスィト〉君、大活躍だな」


 うーん、大活躍か。奴隷の方の話なのか、対抗戦の話なのか。どっちのことだろう。


「〈サシィトルハ〉先輩、言っておきますが、裸ではありませんでしたよ」


「ハハハ。そう言えば、君は、噂をばら撒く方でも大活躍だな」


「あっ、すいません。奴隷の方の話では、なかったのですか」


「そちらの方も興味深いが、海方面旅団の話だ。王宮では、戦争の英雄は交渉力もあると評判になっているぞ。武だけじゃなくて、頭も悪くないと言われているよ」


「そうなのですか。でも、買い被り過ぎだと思います」


「そうかな。君は普通の人とは違うと思うな」


〈サシィトルハ〉先輩は、長い髪をサッとかき分けながら、嫣然と微笑んでいる。

 高身長のきざったらしい優男だ。

 自分が周りからどう見られているかを、良く分かってそれを利用するタイプだ。

 僕とは正反対だと思う。極端に言えば敵だと言える。

 許嫁を盗られないように気をつけよう。

 何にしても、怒らせないように気を付けないといけない。王族だからな。


 「ははは。僕は至って普通ですよ」


 「ハハハ。君が言い張るのなら、今はそうしておくよ」


 「〈タロスィト〉君、対抗戦でも大活躍だったらしいな。おめでとう」


 二学舎生で男爵家の〈チモフィセ〉先輩は、対抗戦の話題だ。

 この人は、筋肉ムキムキマンだから、武道方面の関心が強いのだろう。


 「いやー。まぐれですよ」


 「そうでもないだろう。《アソント》公爵のところの〈バクィラナ〉君を、子供扱いしたそうじゃないか」


 「はぁ、子供扱いはしていませんよ。あいつは真面目なヤツですよ」


 「ふーん、真面目だから真面目に相手をしたって言いたいの」


 「うーん、言い方が難しいですけど、必要とされる真面目さです」


 「わははは。それは手加減したって、普通は言うんだよ。でも、まあ角は立つよな。君の見解は良く分かったよ。色々羨ましいと思っているけど、少しは苦労もしているんだな」


 少しじゃないぞ。この短髪筋肉単純野郎。でも、この人は、人は良いと思う。

 僕に少し嫉妬しているようだけど、それを隠さないで正直に話している。

 少し嫉妬しているのは、奴隷の方の裸の噂だろう。

 たぶん、この先輩はツルペタが好みなんだと思う。

 自分は大胸筋が発達しているから、正反対の胸の小さな女の子を志向しているはずだ。

 好みは置いといて、心が湿ってないで、晴れている感じがする。

 悪く言えば、駆け引きが出来ない単純な頭なんだろう。


 「見えないと思いますけど、これでも色々大変なのですよ」


 「まあ、そうしとくよ。それにしても、〈バクィラナ〉君のしょぼくれている顔を見たかったよ。惜しいことをした」


 「君と一度試合をしてみたいな。その時は必要以上の真面目さを出してくれよ」


 先輩達は、勝手なことを言いながら、早朝練習を終えて帰っていった。

 最終学年だからか、最近は全く見なかったのに、今日はどうしたんだろう。

 僕をからかいにきたのか。僕の様子を探りにきたのか。

 どちらにしても、あんまり話したい相手ではないな。


 それにしても、僕は年上からも、羨ましがられているんだな。

 年上だから、余計に羨ましがられているのかも知れない。

 海方面旅団、奴隷の方、吟遊詩人。最近立て続けに、他の人にしたら羨むことが起こっている。

 これは、反感を買わないように注意する必要があるな。

 僕が望んだことじゃないんだけど、他人はそうはとらないだろう。

 奴隷の方を断っていなかったら、一体どうなっていたんだろう。

 何回考えても恐ろしいな。


 領地の執務が溜まっている。

 授業が終わった後に〈南国果物店〉裏の館に向かった。だるいことだ。


 〈南国果物店〉で、〈リーツア〉さんに果物の売れ行きを聞いてみた。

 これでも少しは、店の経営状態に関心はあるんだ。

 マンゴーは、そこそこ売れているらしい。値段が高いからそこそこらしい。

 王都の住民には、まだ馴染みがない果物だからか。長い目で育てていく必要があると思う。

 僕の考えは、〈リーツア〉さんの今後の方針とも合致した。


 心配していた檸檬の方が、売れ行きが良いということだ。

 料理のアクセントに使う需要が、思ったよりあったらしい。何が売れるか、事前には分からい。

 今更だけど、商売とは難しいもんだな。予想した結果にはならなかった。

 まあ、僕は貴族で、素人だから大目に見て貰おう。


 〈南国茶店〉でも、近々檸檬を添えたお茶を売り出す予定となっている。

 簡単に言えば、レモンティーみたいな感じになる。

 甘いものだけではなく。サッパリとしたものも提供しようという試みだ。

 甘いイモのお菓子を食べた後に、爽やかなお茶で口の中を流して貰おうという企てだ。

 甘いとサッパリを、交互に繰り返せさせて、売り上げを伸ばそうと考えている。

 太ったとしても、それは個人責任で、僕の関知するところではない。


 〈リーツア〉さんによれば、これは固いらしい。

 目尻が欲深げに下がって見える。含みを笑いをしているようだ。

 そんなに悪い顔をする必要はどこにあるんだよ。

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