第265話 皆違って皆良い

 「有名人って、どういうことだ」


 「知らないのか。有名で、注目されているってことだよ。ただし、学舎町で一年生限定だけどな。他の学年は、あまり知らないと思うよ」


 「ふーん、結構観客は来ていたからか」


 「そうだっただろう。俺達二組の選抜選手は、一年生の間では、将来有望と思われているのさ」


 はーん、まぐれで勝ったのに、有望なんだ。ホントかよ。

 こいつ等が、とても将来有望とは思えないな。

 運が良いのは確かだから、強運の持ち主ってことか。それなら、一理あるな。


 「そうなんだ」


 「〈タロ〉は、人一倍注目されているから、気をつけろよ。この前の休養日に瓢箪を持って歩いていたって、評判になっていたぞ。瓢箪が好きなのか」


 げぇー、そんな恥ずかしい評判が、独り歩きしているのか。

 下を向いて歩いていたから、見られていることに気づかなかった。瓢箪が好きなわけあるか。


 「僕は、瓢箪が大嫌いだ」


 「おぉ、何があったのか知らないけど、そう力むなよ。それはそうと、《インラ》国の奴隷は可愛い娘だったらしいな。裸を見たのか、どうなんだ」


 「僕も知りたいです」


 「噂の真相に興味があるんだ」


 急に横から、〈ロラ〉と〈ソラ〉が話しに入ってきた。

 瓢箪の話では入ってこずに、奴隷の方の話には、猛然と入ってきた。

 誰も瓢箪には興味がないんだな。瓢箪の方が、奴隷の方より凹凸はあったのに。

 しょせん瓢箪は、瓢箪なんだろう。


 「一刻も早く吐け」


 俺様か。命令口調で、激しく言ってくるヤツもいる。

 誰だ、コイツと思ったら、〈フラン〉じゃないか。

 コイツ、何だか僕を尋問するような怖い顔をしているぞ。言葉もキツイな。

 どうして、僕が責められなくては、いけないんだ。不条理過ぎるよ。


 そのうちに、一組のやつ等も集まってきやがった。無表情な生徒達も一緒だ。

 でも今は、暗くも無表情な顔もしてはいない。

 どうしてだが、目にランランと光が戻ってきている。

 真実を知ろうとしている厳しい眼差しだ。いや違うな。そんな良いものじゃない。

 ただ、スケベな話を聞きたいだけの、十代のガキのバカの飢えた目つきに過ぎない。

 僕は直に見たからな。羨ましいだろう。へへへっ。


 「そうだな。貴族のお嬢様だけあって、気品があったよ」


 「きひん」


 「きひんか」


 「きひんなのか」


 「きひん」「きひん」と五月蠅いな。ヒヒン、ヒヒンと興奮した馬のようだ。

 野次馬かも知れない。あそこの大きさは、遠く及ばないくせに、いななくなよ。


 「気品があるのは、良く分かった。それじゃ、美人だったんだな」


 どうして、見てもいないのに、「良く分かる」のだろう。

 気品という概念が、良く分かってないのかも知れない。

 だから、その話は、もう良いということなんだろう。そういうことなら、良く分かった。

 まあ、単純に品より見かけなんだろう。ルッキズム、外見至上主義は良くないぞ。


 「そうだな。美人だと思うよ。異国の人だから、ちょっと違う感じだ。何と言ったら良いのか。妖精みたいな雰囲気があったよ」


 「ちきしょー、美人なんて狡いぞ」


 「ひゃー、妖精みたいに可愛いのか」


 美人だと言ったら、僕を囲んでいる皆の目が、殺気を帯びてきた。

 奴隷の方を断っておいて良かった。連れて帰っていたら、本格的ヤバかったと思う。

 タダでは済まなかった気がする。


 「そ、それで、は、裸は見たの」


 「見てないよ、裸のわけないだろう。ちゃんと白いワンピースを着ていたよ」


 「そ、そうか。そりゃそうだよな」


 「うーん、やっぱり噂は当てにはなりませんね。いくら奴隷でも着てますよね」


 「無念だ」


 「がっかりだ」


 半分くらいは、本気で裸と思っていたのか。なぜ、お前らが、がっかりするんだよ。

 まあ、透けていたので、半分くらいは、裸であっている気もする。

 でも言わないでおこう。反感を買って、袋叩きにあっても困る。


 「胸は。胸は。胸は。大きいの、小さいの。どうだった」


 〈ラト〉は、胸が異常に気になるらしい。切羽詰まったような声を出している。何だか怖いよ。


 「胸はない。まっ平だ」


 「ほぇー、ないの。残念」


 「そうか。そうなのか」


 残念。お前には関係ないだろう。関係ない女の子の胸を残念とは、何様だと思っているんだ。

 お前の方が、極めて残念だ。

 ただ僕も反省しておこう。「まっ平」という表現は、笑いを取りにいっているところがありました。すいません。

 何の笑いもとれずに、ただスベリました。知らないところで、巻き込んでいます。


「ツルペタか。それは良い。すごく良いぞ」


 突然、先生が叫ぶようにおっしゃった。いつのまに、話の輪に入ってたんだ。

 授業中なのに、あんたは、私語を注意しなくても良いのか。

 それに、胸がないことに対して、「すごく良い」と言うのは、相当ヤバい発言じゃないのか。

 男子校の教師で、良かったと言うしかないな。そのうち、この先生の噂が流れそうな気もする。


 それ以外にも、何人かは、この発言に頷いているヤツもいる。

 同じ学年でも、嗜好は人それぞれだな。皆違って皆良い、だよな。

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