第263話 僕は充分元気になった

 「〈クルス〉、触っても良い」


 「あっ、それは… 」


 「〈クルス〉が、嫌ならいいよ」


 「うぅ、それで〈タロ〉様が、元気になられるのなら、私は良いです」


 〈クルス〉が、首まで真っ赤になっているのが、後ろからも見える。

 触って欲しいという感じではないな。

 キスからの流れで触られるのではなく、自分で触って良いと言うのは、ハードルが高過ぎると思う。

 聞いといてなんだけど。


 〈クルス〉は、僕の元気がないことを心配して、下着を見せてくれたのだろう。

 それで僕は、元気になったのか。元気になったと思う。

 あそこは元気になり過ぎて、暴発しそうな予感がするぐらいだ。


 「〈クルス〉、僕は充分元気になったよ。また元気がなくなったら、お願いするよ」


 僕は、しぶしぶ〈クルス〉のスカートから手を離した。

 〈クルス〉のスカートは、ふはぁと風を孕みながら、〈クルス〉のお尻と太ももを覆い隠してしまった。

 次、君達を拝める日は何時なんだろう。神速で到達することを祈ろう。

 次の夢の色は、夕焼けのオレンジか。朝焼けの赤い色か。

 ひょっとしたら、夜空の黒色かも知れない。


 「ふふ、やっぱり〈タロ〉様は、私の気持ちを考えてくれているのですね」


 〈クルス〉は、僕の方に向き直り、嬉しそうに微笑んでいる。

 僕は、〈クルス〉の腰を抱いて、グッと僕の胸へ引き寄せた。

 〈クルス〉は、顔を上げて「〈タロ〉様」って呟き、僕の背中に手を回した。

 しなやかな〈クルス〉を強く抱きながら、唇を何度も吸った。十二回は吸った。

 少し元気になり過ぎたかも知れないな。


 〈クルス〉は、僕の胸を手で押し、「〈タロ〉様、元気があり過ぎです」と笑っている。

 〈クルス〉も、そう思ったのか。まあ、元気なことは良いことだよな。


 「そんな元気かな」


 「ふふふ、大変です。そうです、大変といえば、吟遊詩人の謡が、大変な人気になっていましたね」


 「そうだったな。僕はなんか嫌だったよ。〈クルス〉は、平気だったの」


 「ふふ、私は平気でしたよ。許嫁の女性の気持ちが、痛いほど分かります。それで、物語に引き込まれて、まるでその場にいるようでした。ある意味その場にいたのですが」


 「まあ、大円団だったから、まだ良かったよ」


 「ふふ、そうですね。私は、あの後、許嫁の女性がどうなったのか、すごく気になります。〈タロ〉様は、どう思われます」


 「えぇ、結婚したんじゃないのか」


 「それはそうですけど。結婚するまでの間は、どうなのでしょう。私が今いる時点と、似ていると思うのです」


 「うーん、〈クルス〉は難しいことを言うね。〈クルス〉は、どうしたいの」


 「んー、私ですか。私は… 」


 僕は、もう一度〈クルス〉をひしっと抱きしめた。


 「僕は、〈クルス〉を抱きしめることしか出来ないよ」


 「んう、それで充分です。物語の続きでも、二人は固く抱き合ったのだと思います」


 僕は、〈クルス〉を押し倒して、覆いかぶさるように抱きしめた。

 この方が、固く抱き合うことが出来る。


 「僕は〈クルス〉を絶対離さないよ」


 「あぁ、〈タロ〉様、私も絶対離れません」


 今度は、〈クルス〉の唇に唇を重ねて、舌を使った。

 唇を舐めた後、舌を入れようとしたが、〈クルス〉の歯が邪魔をする。

 耳の縁を指で丸くなぞったら、〈クルス〉は「いやっ」って言って、歯を開けてくれた。

 こうすれば、〈クルス〉がどう反応するかは、もう分かっている。

 〈クルス〉の口の中に、舌を入れてしばらく待つ。直ぐ動くのでは、乱暴過ぎる。

 何事も、タメが大事だ。


 待つだけでは、芸がないので、耳を親指で軽く触ってみる。

 〈クルス〉は、「んうん」と呻いて頭を振ろうとする。でも、殆ど頭は動かせない。

 親指を使ったのは、他の指と手の平で、〈クルス〉の頭を抱え込んで逃がさないためだ。


 そして、〈クルス〉の舌を僕の舌で、舐めていく。丁寧に優しくだ。

 〈クルス〉は、「ふぁ」「んん」と短く呻いて身体を捩ってくる。

 この辺の反応も、すでに経験済みだ。身を捩る〈クルス〉は、普段のお堅い感じと違って、思いっきり艶めかしい。

 僕は、部屋着の裾を割って、水色のショーツの上から弄った。

 〈クルス〉のお尻は、とても柔らかいけど、弾力もある。次は胸かな。

 それとも、両手でお尻を揉みしだこうか。どっちが良いかな。あはははっ。迷うな。


 「はぁろふぁん、びはぁ」


 〈クルス〉が、僕の胸を両手で押してきた。〈クルス〉のもう止めての合図だ。

 しまった。頭を極めるより、両手を極めておくのだった。作戦ミスをおかしてしまった。


 「〈クルス〉、分かったよ」


 「〈タロ〉様は、本当に。隙あれば触ってきますね」


 「あははは。〈クルス〉、そう言うなよ」


 「ふー、もう良いです。それより、既に夕方ですよ。夕食用のお弁当を作ってきましたので、食べてください。お茶も用意しています」


 「ありがとう、〈クルス〉。何時も、〈クルス〉のお弁当が楽しみなんだ。すごく美味しいからね。食べる前から興奮してくるよ」


 「ふふ、もう興奮はしないでくださいね。先程で私は、もう一杯一杯ですよ。溢れたら大変です」


 〈クルス〉の何が溢れるのだろう。気持ちが溢れるのかな。

 まあ、良いや。〈クルス〉に聞いても、絶対答えないだろう。


 「〈クルス〉、今日のおかずはなんだい」


 「ふふ、それはですね。旬の野菜の… 」

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