第256話 二つの瓢箪

 昼食は、「中央広場」にある洒落た料亭で済ませた。

 高級店で綺麗な内装だったけど、味はお上品なだけだ。

 でも、たまにはこんな店も良いか。何事も経験になるだろう。

 広く場慣れしておくことは、必要だと思う。伯爵なんだし。


 辻馬車を拾って、学舎町へ帰ろうとした時、〈アコ〉が飲み物を買いたいと言い出した。

 学舎町に帰った後、〈南国茶店〉の屋根裏部屋で飲む、飲み物が必要ということだ。

 このまま帰ったのでは、お茶を用意する時間がないからな。

 僕と〈アコ〉は、瓢箪に入った冷やし飴を買った。

 お茶と迷ったけど、せっかくだからと、冷やし飴を買ったんだ。

 どんな味がするのか、少しでも楽しみがあった方が良いからな。


 〈クルス〉を《赤鳩》に送り、〈アコ〉と〈南国茶店〉の裏口へ回った。

 手には、冷やし飴入りの瓢箪を持っている。


 ここでハタッと気づいた。階段を昇るのに、手に持っている瓢箪が邪魔だ。

 手すりを片手でしか持てない。これで、急な階段を昇るのは危険だ。

 〈アコ〉と二人で、考えた結果。二つの瓢箪を紐で結び、僕の首にかけることにした。

 これで、両手は自由に使える。簡単だけど、必要十分な方法だ。

 でも、一つ失敗があった。紐の長さが、長すぎた。


 二つの瓢箪が、僕のあそこを痛打するんだ。

 二つの瓢箪が、僕のあそこを左右同時に挟み潰すんだ。

 僕のあそこは、自慢じゃないが、ふにゃふにゃで、いたいけな可哀そうな物なんだ。

 猫の様に繊細で、兎の様に敏感で、小鳥の様に華奢なんだ。

 ただでさえ、保護してあげる必要があるんだ。


 それを冷やし飴入りの瓢箪で、ぶつなんて、なんて酷い虐めなんだ。それも二つ同時だ。

 小動物への虐待だよ。必ず、訴えてやる。


 仕方がないので、僕は少し前屈みになって、二つの瓢箪の攻撃を避けることにした。

 僕のは小さいから、これであそこには当たらないんだ。少し悲しいな。


 ただ、今度は二つの瓢箪がぶつかる「コツ」「ゴツ」という音が、リズミカルに鳴り出した。

 〈アコ〉は、後ろを振り返って、「まあ、〈タロ〉様、楽しそうな遊びですね」と笑いながら言いやがった。

 前屈みになって、股間で瓢箪をぶつけている男が、楽しいはずがない。

 必ず、仕返ししてやる。あぁ、悲しい。


 こんなことを考えている場合じゃない。

 階段を昇っている〈アコ〉を見なくてはならない。


 スカートの奥を観察するのを怠ってはいけない。

 機会損失も甚だしい。利益の最大化を図る必要がる。

 僕は、一心不乱に〈アコ〉のスカートを見詰めた。もう、二つの瓢箪は意識からなくなった。

 「コツ」「ゴツ」という音も消えた。スカートの奥に持てる力を結集したんだ。

 マイクロ波レーダーのようなもんだと思う。全く違う。赤外線カメラの方が近いか。


 〈アコ〉のスカートは、急な階段のために、最早その役目を果たせてはいない。

 僕の視線から守られるべき、秘すべき下着を隠すことを出来ないでいる。

 薄いピンク色のショーツの下半分が、見えているということだ。


 白も良いけど、ピンクもまた趣がある。〈アコ〉に相応しい色だと思う。

 何色がダメだというわけではない。何色でも良いんだ。見えたら何色でも良いんだ。


 それしても、〈アコ〉のお尻は丸いな。ピンク色のショーツが、パンパンに張っている。

 小さ過ぎるんじゃないのか。お肉が零れそうだよ。いや、もう零れている。

 お尻の下部、太ももとの境のお肉が、はみ出しているぞ。


 〈アコ〉のお尻が大きいんだな。雄大で良いお尻だ。

 階段を昇る度に、左右にブルンブルンと揺れるのが、何とも良いな。

 生命の根源を感じる。偉大な女性の象徴だよ。

 割れ目で生じる皺でさえ、お尻の魅力を増加させている。


 皺が出来る原因を、探らせしようとしているのか。あざと過ぎると言いたい。

 〈アコ〉のブルンブルンお尻は、僕の理性を試そうとしているのか。むしゃぶりつきたい。


 そう思っていたら、股間に痛みが生じて、瓢箪の音が止まった。

 僕の小動物が起き上がり、瓢箪同士がぶつかるのを阻止したようだ。


 こんな刺激はいらない。もっと、優しくして欲しい。僕には、こんな痛い性癖はない。

 辛い苦役にしかならない。猫の様に繊細で、兎の様に敏感で、小鳥の様に華奢なんだから。


 あぁ、これ以上屈んだら、〈アコ〉のお尻が見えなくなるよ。泣きたいよ。


 「〈タロ〉様、昇り切りましたわ。この階段は、本当に急ですね」


 楽しい一時の、終わりを告げられた。唐突に終わってしまった。


 「そうだな。本当に急だな」


 「さあ、〈タロ〉様。お部屋に入りましょうよ。〈タロ〉様に一杯話したいことがあるのですわ」


 僕達は、部屋着に着替えて、絨毯の上に座った。

 クッションを背にして、並んで座り、瓢箪を一つずつ手にしている。

 この瓢箪ってヤツは、困るな。底が丸いから下に置けないぞ。

 手に持っているしかないのか。


 「〈タロ〉様、おめでとうございます。対抗戦の団体戦は全勝ですし、大将戦も見事に勝たれましたわ。かっこ良かったですよ」


 「ありがとう。でも、そうでもないよ。たまたまだよ。運が良かったんだよ」


 団体戦が全勝出来たのは、運以外何物でもないと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る