第250話 ストロベリーブロンド

 《チァモシエ》嬢は、キッと睨みつけるように僕を見ながら言ってきた。


 向こうが奴隷になるのに、僕の方がオドオドしてしまう。この子気が強そうだよ。

 何だか怖いよ。でも良く見ると、身体が小刻みに震えているのが分かる。

 それはそうだよな。これから奴隷になるんだもの。

 憎い相手の僕に好きなようにされてしまうんだ。

 おまけに今は、裸に近い格好で、品定めをされている最中だ。


 はだか。良く見たら、本当に裸に近いぞ。この子、下着をつけていないぞ。

 薄い胸の先にポツンと、苺色の乳首が浮いて見えている。

 股間にも、薄く黄金色が透けて見えている。

 股間辺りが黄色く見えるのは、ちびったのかと思っていたが、全然違うようだ。

 下着をつけていないので、ストロベリーブロンドが透けているんだ。

 ちびったと思ったのは、ごめんなさい。自分を基準に考えていました。心の中で謝っておこう。


 ただ、この《チァモシエ》嬢を、どうしたもんだろう。

 この人が僕の奴隷です、と連れて帰ったら、〈アコ〉と〈クルス〉はどう思う。

 激怒するに違いない。想像したくないほどの、修羅場が前途に待ち受けていると思う。

〈サトミ〉は、泣きじゃくると思う。僕がやったことが原因では、慰めることも出来ないな。

 非常に、マズイ。著しく、ヤバイ。


 《チァモシエ》嬢は、妖精か、物語のエルフの様な姿をしている。

 まるでアニメから抜け出したようだ。現実離れしている容姿だと思う。

 一部のマニアなら、涎を垂らして欲しがるだろう。そして、実際に身体の上へ垂らすだろう。

 でも、僕は垂らしたいとは思わない。

 僕が垂らしたいのは、〈アコ〉と〈クルス〉と〈サトミ〉のだ。

 何ていやらしいんだろう。ワクワクするぞ。


 そうなんだ。贅沢を言うようだが、《チァモシエ》嬢はタイプじゃない。

 気が強そうだし、身体が細過ぎる。僕はもっと女性らしい柔らかい身体が、タイプなんだ。

 痩せているより、ふっくらしている方がずっと良い。

 身体を触るのが、心地良いからな。モミモミしたいんだ。


 それに、《チァモシエ》嬢も、好き好んで奴隷にはなりたくないだろう。

 さっきから、僕のことを睨んでいる。

 親の仇でもあるし、自分をここまで追い込んだ元凶でもあるんだから。

 恨まれているような人とは一緒にはいたくない。怖いだけだ。


 「あの、その。僕は奴隷は。ちょっと」


 「何ですって。私では不服だと仰いますか」


 《チァモシエ》嬢が、すごい形相で怒っている。妖精の怒りを買ったようだ。

 吐き出された冷気が、僕の首筋を撫でている。怖いよ。冷たいよ。


 「《ラング》伯爵様。お金では払えないから、こうされているのですよ。我儘を言われたら、皆困ってしまいます」


 銀縁眼鏡が、さも嫌そうに噛んで含めるように、僕へ言ってくる。

 奴隷を貰うのを嫌というのは、我儘なんだろうか。

 コイツは、ただ早く仕事を終わらせたいだけなんだろう。


 「あの、賠償金は、なくても良いですよ」


 「酷いです。私は無価値だと言うのですか」


 《チァモシエ》嬢が、鬼の形相になった。本気で怒っているな。

 エルフのお嬢様が、怒って顔が赤くなっている。首はまだ白いから、苺の精の様にもなっている。 今度は、炎を吐き出しているような、そんな赤さだ。

 奴隷にはしないと言っているのに、なぜ怒られるんだ。理不尽な仕打ちだよ。


 「はぁ、《ラング》伯爵様。独善的なことを言われたら、皆困ってしまいます。ただで捕虜を解放したら、これからの外交に支障をきたします。外交とは、伯爵様が勝手に決めて良いものでは無いのですよ」


 銀縁眼鏡が、無知な子供を諭すように、粘着質に僕へ言ってくる。

 言い方に馬鹿にしている感じが拭えないな、コイツ。


 「うーん、それじゃ、物納はどうですか。《ラング》伯爵家は、飲食店を経営しているので、何か農産物、名産品はないのですか」


 「名産品はあります。でも、多額の賠償金に見合うだけの量がありません」


 「それでは、分納でどうですか。〈外事局〉の見解はどうなんだ」


 「過去に分割で支払った例と、物納の例はあります。ですので、問題はないと思います。《インラ》国の貴族の方を、奴隷にするのを回避出来るなら、それに越したことはありません」


 はぁ、この銀縁眼鏡の陰険野郎め。奴隷を進めてきたくせに、今更良く言うよ。

 これが出来るなら、なぜ初めに言わない。見かけに騙されたが、融通が利かない無能なんでは。


 「決まりましたね。ところで、名産品とはなんでしょう」


 「〈ティモング〉伯爵領の名産品は、蒸留酒です。ジャガイモから作ったものです。芋臭さもなく、まろやかな喉越しだと評判なのですよ。お酒の名前は、そのまま〈ティモング〉です。どこで出しても恥かしくありません」


 《チァモシエ》嬢が、胸を張って誇らしげに語ってくれた。

 裸同然なので、乳首が余計に際立つことになっている。

 これは、分納を認めたサービスなのか。有難く目に焼き付けておこう。

 じっと見ていたら、《チァモシエ》嬢がまた顔を赤くして、後ろにかけてあった上着を羽織ってしまった。

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