第240話 マンゴーと檸檬

 昼食を食べた後は、〈南国果物店〉に向かった。


 店で売る秋の果物を、決める必要があったんだ。〈リク〉が、律儀に迎えに来ていることもある。

 すっぽかそうかと思ったけど、〈アコ〉と〈クルス〉に、それはあんまりだと止められた。

 二対一では勝てない。二人は、僕とイチャイチャしたくないのか。心配になるな。


 〈南国果物店〉で、〈リーツア〉さんと協議を始めるが、中々良い案が出ない。

 秋は果物の旬だと思っていたけど、南国系の果物はあまりないことに気がついたんだ。

 二人で、「うーん「うーん」と目を瞑って腕を組んでいるばかりだ。

 〈アコ〉と〈クルス〉は、スイートポテトを食べながら、楽しそうにお茶をしている。

 そんなに、リラックスする暇があったら、君達も少しは考えなさいよ、と言いたくなる。


 色々考えた結果、マンゴーと檸檬を売ってみることにした。


 マンゴーは、秋が旬とは言えないが、秋に収穫する種類もあるらしい。

 それに、甘くて美味しいから、たぶん売れると思う。

 いかにも、南国の果物という感じもするからな。


 一方、檸檬はどうだろう。酸っぱいだけの気もする。

 他の柑橘の方が良いと思うが、蜜柑を冬に売るので、重なる感じがしたんだ。


 〈リーツア〉さんと散々悩んだあげく、失敗することを承知で選んでみた。

 王都で殆ど出回っていないことに、かけてみることにしたんだ。

 店に並べてみなくては、どうなるかは分からない。なるようになるんだろう。


 うーん、何かを忘れていた気がしていたが、今思い出した。

 そう言えば、店長の〈カリナ〉の意見を聞いていなかったな。

 〈カリナ〉が、まだ店長なのか疑問もある。

 〈南国果物店〉の店長は、〈リーツア〉さんで、〈南国茶店〉の店長が〈カリナ〉のような気がする。

 誰が決めるのだろう。

 でも大丈夫だろう。〈リーツア〉さんが、その辺は上手くやってくれるだろう。

 たぶん、僕の責任じゃないはずだ。


 長い時間、協議していたので、外はもう夕方だ。

 日が城壁に沈もうとしている。学舎町へ、帰らなくてはならない。


 今日は、〈アコ〉と〈クルス〉と一日中いたのに、どうも消化不良だな。

 もっと、色々触りたかったから、悔しい気持ちが心に充満している。

 今直ぐ二人に抱き着きたいのを、じっと我慢しなければばらない。

 欲望に負けて、路上でそんなことをすれば、犯罪者と変わらない。

 〈アコ〉と〈クルス〉も、さすがに呆れてしまうだろう。


 一時の欲望で、これからの関係を断つのは、愚か者のすることだ。

 僕は、完全に愚か者ではないので、堪えることが出来た。

 誰も褒めてはくれないので、自分で褒めよう。

 〈タロ〉は、よく耐えた。あんたは偉い。


 僕達三人と〈リク〉は、学舎町を目指して歩き始めた。

 〈アコ〉と〈クルス〉は、後ろでまだおしゃべりをしている。良く話のタネが尽きないな。

 二人の会話能力に感心してしまう。

 ただ、女の子は、皆そうかも知れない。脳の造りが、違うのだろう。


 〈リク〉は、対抗戦の話をしてくる。自分は出ないくせに、いやに意気込んでいるぞ。

 話す言葉に熱がこもっている。正直に言うと、大変鬱陶しい。

 そんなに興味があるのなら、自分が出ろよ、と言いたいぐらいだ。


 僕は、〈リク〉の問いかけを適当にあしらいながら、トボトボと歩き続けた。


 《黒鷲》の対抗戦が、始まろうとしている。

 試合会場は、「健武術場」のど真ん中だ。

 急ごしらえで作られた割には、しっかりとしたものに見える。


 一組と二組の選抜メンバーは、すでに試合会場に足を踏み入れて、試合が始まるのを待っているところだ。

 我が二組のメンバーは、〈アル〉、〈フラン〉、〈ロラ〉、〈ソラ〉となった。

 それに、僕を入れて五人だ。


 〈ロラ〉は、二組で断トツに強いから、選ばれるのは当然だ。

 〈アル〉も、子供の時から少しは武道をかじっているので、順当だと思う。


 〈フラン〉が、なぜ選ばれたのかは、良く分からない。少々頭を捻ってしまう。

 力はすごく弱いし、武道の経験も皆無だ。小柄だから、敏捷性はあるんだけどな。


 〈ソラ〉は、まあ、こんなもんだ。良くもないし、悪くもない。

 選ばれなかった人と比べても、良くもないし、悪くもない。

 選抜される、決めてもないし、落とされる理由もない。

 先生も激しく悩んだと思う。

 選ばれたのだから、運を持っているのかも知れない。

 でも、無様に負けたら運がないとも言えるな。

 結局、誰でも良いんだと思う。


 一組の選抜メンバーには、当然、「先頭のガタイ」こと、《アソント》公爵の長男〈バクィラナ〉君が入っている。さっきから、僕を熱く見つめてくる。

 僕は、許嫁一筋だから早く諦めて欲しい。

 それに、筋肉がモリモリのヤツは僕の好みじゃ全然ない。ムチッとした柔らかいのが好きなんだ。


 それに、一組の選抜メンバーは、他も結構体格の良いヤツが揃っているな。

 二組と比べると、体格差が歴然とある。これでは、二組は全滅かも知れない。

 全滅を免れるために、頑張る必要がある気がしてきた。かったるいな。

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