第237話 床に座る
「わぁー、ここからだと、学舎町が良く見渡せます。こうして見ると、意外に小さいのですね、〈タロ〉様」
〈クルス〉さんよ。意外に小さいのは、僕か学舎町かどっちなんだ。
僕のが、小さいと言われているとしか、思えないぞ。酷い。
僕は、とても傷ついてしまっていますよ。〈クルス〉さん、よーく分かっていますか。
人の身体の欠点を攻撃するのは、やってはいけない虐めです。
猛反省してください。
そして、〈タロ〉様のは、意外と大きいと言ってやってください。
「そうかな。そう見えるだけで、そんなに小さくはないよ」
「そうですか。どう見ても、小さく見えますよ。玩具みたいで、可愛らしく見えますね」
お、おもちゃ。言うに事欠いて、玩具だと。実用性がないほど、小さいと言うことですか。
私は玩具じゃ嫌だ、と言っているのですか。酷い。酷過ぎますよ、〈クルス〉さん。
猛反省してください。
ただ、玩具の方が好きなら、それはそれで対応してみせます。
「この部屋は、しばらく閉め切っていたのですね。窓を開けて風を通したら、一気に清々しくなりましたわ」
「えぇ、それに。窓から太陽の光も入って、一度に明るい部屋に変わりましたね」
「本当だ。部屋の印象が、すごく良くなったよ。でも、〈アコ〉と〈クルス〉が、いることの方が大きいと思うな」
「んー、〈タロ〉様。それはどういう意味ですの」
「〈アコ〉と〈クルス〉みたいな美人がいると、部屋が一辺に華やかになるって言うことだよ」
「はぁ、〈タロ〉様。どこでそんな、お世辞を覚えてきたのですか」
「まあ、〈タロ〉様。お口がお上手ですわ」
二人とも、あまり喜んではいないな。言い方が、悪かったようだ。
取ってつけたような感じになってしまった。
やっぱり、二人切りじゃないと、心がこもらないな。
照れもあって、冗談めかした感じになってしまう。
それに二人切りじゃないと、〈アコ〉も〈クルス〉も、自惚れたような態度はとれないのだろう。
美人と言われて、顔を赤らめたり出来ないよな。半分自分で、そう思っていることになるからな。
「お世辞じゃないんだけどな。まあ、良いか。それより、ずっと立っているのはなんだし、座ろうよ」
「そうですね。座りましょう。階段を昇るのに、少し疲れましたわ」
「それでは、〈タロ〉様、横に座りますよ」
「もちろん良いよ。それと、その辺りにある背もたれを自由に使ってよ」
〈アコ〉と〈クルス〉は、クッションを背中に当てて、僕の左右に座った。
両足を投げ出して、リラックスしている体勢だ。
スカートから、覗いている膝小僧が可愛らしい。
「床に座るのは、子供の時以来ですが、結構落ち着くものですね」
「直に床へ座るのは、少し不思議な感覚になりますね。さっきより、天井が高くなって、部屋が大きくなった気がします。圧迫感がなくなりましたわ」
「そうだろう。床に座るのも良いもんだろう。背もたれもあるから、ダラって出来るよ」
「だらけるのは、どうかと思いますが、伸び伸びしますね」
「寛ぎ過ぎて、眠らないように、しないといけませんわ」
「構わないよ。寝ても良いんじゃないか」
「うふ、それは出来ませんわ。〈タロ〉様に、寝顔や寝ぼけた顔を見せたくないのです」
「そうなの。気にし過ぎだよ」
「でも、変な顔を〈タロ〉様に見られて、嫌われたら悲しいです」
「嫌ったりしないから、ぜひ見てみたいな。二人とも、可愛い寝顔だと思うけどな」
「それは、叶えてあげられませんわ。結婚したら、私は〈タロ〉様より、早く寝ないと決めていますわ。朝も〈タロ〉様より早く起きますから、無理ですね」
「私も同じですから、〈タロ〉様、諦めてください。寝顔など見る必要はありません。起きている時に、一杯見れば良いじゃないですか」
うーん、良く分からないけど、寝顔を見られるのが嫌らしい。
寝顔くらい大したことじゃないのにな。それに、結婚したら、いずれ僕に見られるぞ。
疲れた時や病気の時は、僕が起きていても眠ることになる。
心がけは立派だが、しょせん無理な話だと思う。
まあ、こんなことで言い争っても、粘っても仕方がない。
「二人とも分かったよ。寝顔以外を一杯見せて貰うよ」
「そうしてください。起きている間なら、問題ありませんわ」
「ただ、一杯と言われると、少し恥ずかしい気もしますね」
ふふふふ、寝顔以外には、身体も含まれるのだぞ。起きている間なら、良いんだな。
恥ずかしがっても、隅々まで舐めるように一杯見てやるぞ。
いや、そうじゃない。舐めるようにではなくて、隅から隅まで舐めながらだ。
はぁー、何だか思考と志向が、中年オヤジのごとくになってしまっている。
腐ってひん曲がった妄想が、グルグルと飽きもせずに、色ボケした頭の中を駆け巡っているようだ。
これは良くないぞ。清潔さと溌溂さが、皆無だ。未来に向かって、開いていない感じだ。
淫靡で陰惨な、ぬめった考え方に陥っているぞ。頭の先まで、ズッポリと嵌まっている。
この醜悪なヘドロの沼から、一刻も早く抜け出さなくてはならない。
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