第233話 学舎生の拠点

 しかし、この二人はどうして部屋を借りたいと思っているんだろう。

 借り賃を決めるのは、僕だけど。高額な借り賃は、どうするのだろう。

 それより、〈アコ〉をこの窮地から救わなければならない。

 それが、重要だ。


 「お二人に聞くのですが、部屋を二年も借りる理由はなぜですか。そんなに長期間だと、借り賃も相当高額になりますよ」


 「それは、親しくしている学舎生と、より親睦を深めるためですわ。親しくしている学舎生は、《白鶴》以外にも大勢いるのです。自由に集まれる場所があれば、交友が深められるでしょう。それと、ご存じだと思いますが。私達白鶴と《赤鳩》は、学舎町から出ることに、大きな制約があるのですよ。学舎町で借りられる部屋が、他にないのです。あれば、もうすでに借りていますわ。私個人が借りるわけではありませんので、借り賃の心配は必要ないのです」


 〈ロローナテ〉は、〈アコ〉が困っているのを分かったうえで、どうしても部屋を借りたいようだ。

 なぜだが知らないが、王位継承争いに必死みたいだな。

 それと、部屋が埋まってしまうと、僕達が困ることにピンときていないのかも知れない。

 僕が、逆の立場でもそう思うかも知れない。部屋がなくても、許嫁達とデートは出来る。

 僕達以外の婚約者は、お店や公園などで、デートしているはずだ。


 イチャイチャするためだけの部屋を、所有している学舎生はいないと思う。

 良く考えなくても、贅沢なことだったんだな。


 「ふっ、お金を払って借りるのだから、理由を話す必要はないんじゃないの。でも、《ラング》伯爵に免じて言ってあげるわ。私の方も、〈ロローナテ〉さんと同じ理由よ。他に借りられる部屋はないのだから、料金が多少高くても払ってあげるわ、それで文句ないでしょう」


 なんなんだよ。コイツは、偉そうに喚くヤツだな。恩着せがましい言い方をするなよ。

 嫌な性格が、丸出しだ。〈アコ〉に、嫌がらせをするはずだよ。

 たとえ、おっぱいが丸出しでも、絶対に見てやらないぞ。


 ふーん、部屋を借りる目的は、それぞれの陣営の学舎生の拠点にするためなのか。

 すでに下見は済んでいると思うけど、隣同士でいいのか。秘密の話をするんじゃないのか。

 確かに防音効果が高い部屋だけど、本当に大丈夫なの。

 他人事ながら、心配になるな。呉越同舟と言うヤツか。


 この不都合を考慮しても、学舎町で借りられる部屋は、多分他にないのだろう。

 学舎町は狭いからな。どうしようもないのか。仕方がないな。

 継承争いがヒートアップして、暴力沙汰になったり、店が壊されないことを祈ろう。


 「話は分かりました。二部屋ともお貸しするのは、正直厳しいのです。しかし、〈アコ〉が普段からお世話になっている、お二人だ。そのことを最大限考慮して、特別扱いで、部屋をお貸ししましょう。料金のことは後で、店の者に聞いてください」


 「わぁ、《ラング》伯爵様、ありがとうございます。〈アコ〉、無理を言ってごめんね」


 「ふん、初めから、貸すと言えば良いのに。無駄な時間がかかりましたわ。《ラング》伯爵、〈アコーセン〉さん、一応礼は言っときます」


 「あっ、あっ、〈タロ〉様」


 〈アコ〉が半分泣きべそをかいて、僕の腕を引っ張ってきた。

 〈アコ〉のメロンおっぱいは、これだけの動きで僕の腕に、ボヨンボヨン当たるぞ。

 素晴らしい、大きさだ。素晴らしい、おっぱいだ。


 だけど今は、こんなことを考えている場合じゃない。

 〈アコ〉が、二人の前で泣き出したりしたら大変だ。

 〈アコ〉の誇りや立場を、僕が守ってあげなくてはならない。


 僕は、おっぱいを感じつつも、〈アコ〉の頭を優しく撫ぜた。

 そして、「心配しないで、大丈夫」と耳元に小声で囁いた。


 僕には秘策があるので、これ以上黙っていたら、後でヤバイ。

 〈アコ〉が、言うのが遅いと、怒ってしまう可能性もある。


 〈ロローナテ〉と〈ミ―クサナ〉は、そんな僕達を横目で見ながら、軽く会釈をして離れて行った。


 「うぅ、〈タロ〉様。私のために、すみません。私が〈ロロ〉に安請け合いしたばっかりに、ご迷惑をかけてしまいました」


 「〈アコ〉、もう気にするなよ。問題ないよ」


 「気にするなと言われても、気にしますわ。〈クルス〉ちゃんにも、合わせる顔がないです」


 どうも、〈アコ〉が〈ロローナテ〉に、貸せる部屋があると言ったことが、発端になったらしい。 

 〈アコ〉は、二階の隣の部屋がいつも空いているので、あまり気にせず、貸せると思うと言ってしまったみたいだ。

 それだけなら、問題なかったのだが、この話が部屋を探している〈ミ―クサナ〉の耳に入ってしまったから、困ったことになったんだな。


 「本当に大丈夫なんだよ、〈アコ〉。〈クルス〉は怒ったりしないし、秘策もあるんだよ」


 「でも、〈タロ〉様。私が勝手なことを言ったばっかりに。ごめんなさい」


 「〈アコ〉、僕の言うことを信じろよ」


 「うぅ、私は、〈タロ〉様を信じていますわ。でも、自分の迂闊さが情けないのです」

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