第232話 二階の部屋
「〈ラング〉伯爵、もう良いです。もう許してください。私は忙しいのです。そんな話はもう結構です。分かりました。賃貸借料は、一年間で引き上げ費用の半分を出しましょう。これは、良い条件だと思いますよ。いかがですか」
「うーん、五割ですか。どうですかね。後、船の艤装の費用も必要なんです。艤装がどれほど必要か、お話ししましょうか」
「あぁ、遠慮しておきます。艤装は必要だと思いますし、軍のための艤装ですから、費用は別に出しますよ。これでもう良いですね」
「艤装の話をしたかったのですが。、それで良いです。お時間をとらせて申し訳なかったですね。このへんで退散いたします。後は副旅団長と詰めてください」
「納得して頂いてほっとしました。副旅団長さんとのやり取りなら、こちらも有難いです」
二年で引き上げ費用が、回収出来るなら上出来だ。三年目からは、利益が出ることになる。
何か失礼なことを言われたようにも感じたが、まあ、良いだろう。
しゃべり過ぎて疲れた。あぁ、本当に疲れた。
今度こそ、本当に帰ろう。
財事局を出ていく時、局長も疲れた顔をしていた。
あんたは、聞いてただけだから、どうしてそんなに疲れているんだ。
納得出来ないな。
「旅団長様、疲れましたよ。もう真っすぐに帰りましょう。でも、上手く行きました。旅団長様は、ここぞという時は頼りになりますね」
副旅団長も、何を疲れているんだ。横で僕の話を聞いてただけじゃないか。
それに、普段は頼りないみたいなことを、言いやがって。
納得出来ないな。
海旅団は、旅団長への副旅団長の尊敬の念がなくて、崩壊寸前だな。
前途多難で、はぁーと溜息が出るよ。
やっとたどり着いた休養日に、思わぬ事件が発生した。
〈アコ〉を迎えに行くと、〈アコ〉はいつもと違って、暗い顔をして門を出てきた。
違っていることは、もう一つあって、友達の〈ロローナテ〉嬢と意地悪な〈ミ―クサナ〉と、一緒に外へ出て来たぞ。
〈ロローナテ〉は友達だから分かるけど、〈ミ―クサナ〉とは仲が悪いんじゃなかったのかな。
〈アコ〉は、僕の顔も見ようともせずに、泣きそうな顔で俯いている。
僕と逢えるのが、ちっとも嬉しそうに見えない。逆に、逢うのが辛いように見える。
〈アコ〉は、僕が嫌いになってしまったのか。
おっぱいやお尻を触り過ぎて、嫌われてしまったのか。そんに触っていないのにな。
どうしよう。
〈アコ〉の様子が普通じゃないので、僕はどう声をかけたら良いのか、分からなくなってしまった。
要は、どうすれば良いのか分からず、門の目でフリーズしていたんだ。
僕と〈アコ〉が、二人して黙って固まっていると、〈ミ―クサナ〉が横から話かけてきた。
「〈アコーセン〉さんが、話したくないようなので、私から話しますわ。《ラング》伯爵が、経営されている〈南国茶店〉の、二階の部屋を貸して欲しいのです」
はぁ、部屋を貸して欲しい。想像外の申し出だな。一体なんなんだろう。
僕が返事に詰まっていると、〈ロローナテ〉も話しかけてきた。
「〈ミ―クサナ〉さん、抜け駆けされては困りますわ。私の方も、お二階をお借りしたいのです。《ラング》伯爵様、いかがでしょう」
うーん、二人が〈南国茶店〉の二階を借りたいのは、分かった。
けど、どうして〈アコ〉は、暗い顔をしているんだ。
やっぱり、僕を嫌いになったのか。
「貸せないことは、ないですが、店舗のため料金が発生しますし」
僕は取り敢えず、当たり前のことを言って様子を窺うことにした。
でも、〈アコ〉が慌てて話を遮ぎってきた。
「あっ、〈タロ〉様。ダメなんです。貸して欲しいと言われているのは、ずっとなんです。卒舎するまでの二年間ずっと、貸して欲しいと言われているのですわ」
そうか。〈アコ〉は、二人に長期間貸せと言われて困っているのか。
二部屋を貸せば、〈南国茶店〉の二階はもう使えなくなる。
僕達が、過ごせる場所が無くなると思ったんだな。でも、断る選択肢もあるはずだよな。
あれかな、僕の持ち物だから、〈アコ〉が勝手なことが出来ないからか。
僕に断るという、煩わしくて嫌な役目を押し付けるのを気に病んでいるのか。
「〈アコーセン〉さん、ダメとはなんですの。〈ロローナテ〉さんには、貸すという約束をされましたよね。私達には、どうして貸せないのですか。何か、私と婚約者とその親に、良くない感情をお持ちなのかしら」
「〈アコ〉、申し訳ないのだけど、部屋を借りられると言ってしまったのよ。私が引いても良いのだけど。反って、〈アコ〉と《ラング》伯爵様が困ることにもなりかねないわよ。片方だけに貸したら、そうなってしまうわ。良く考えてください」
ひゃー、〈アコ〉は王位継承争いに、ひょんなことから巻き込まれてしまったんだ。
だから、こんなに困っているのか。
僕と〈アコ〉と〈クルス〉が、楽しく過ごせる場所を失ってしまうと思っているんだな。
自分のせいで、僕と〈クルス〉の幸せを奪ってしまうと思い詰めているんだな。
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