第230話 老害には負けないぞ
「〈ボツ〉副旅団長、心配するな。悪い事にはならないよ」
「本当にそうでしょうか」
そんなことは、知らないよ。悪い方に転ぶ可能性が、高いんじゃないのかな。
自分でも分かっているよね。
僕と副旅団長は、トボトボと肩を落としながら、帰っていった。
海旅団は、旅団長と副旅団長との信頼関係が崩れかけて、前途多難だな。
思わず、溜息が出るよ。
海旅団要求活動の仕上げだ。
王宮の司令官室にやってきた。司令官室だけあって、王都旅団長室よりさらに豪華だ。
壁紙も、家具も数段上の値段なんだろう。いかにも高級そうに見える。
ここのシンボルカラーは、黒色と紫色だ。
黒色と紫色は、類似している色だから、少し微妙な組み合わせだ。
たぶん、何か決まりがあるのだろう。
紫色の革張りの椅子に、座らせて貰って要求の開始だ。
紫の皮が、ちょっと異様な感じがするけど、気にしないでおこう。
「〈バクィラナ〉司令官、ご無沙汰しております。お変わりがないようで安堵しております。王都旅団長よりお聞き及びと存じますが、海旅団の要求に参じました。何卒宜しくお願い致します」
「うむ、〈ラング〉旅団長、良く参られた。旅団長も元気そうで、何よりだ。まだ、若いから羨ましいよ。儂は、最近腰が痛くてな。肩も痛いのだよ。国王への直談判は心労がきつくてな。胃も痛みだした。満身創痍なんじゃよ」
はぁー、このじいさんは、自分の身を削って要求したから、もうこれ以上言うなと言っているのか。
体調が優れないのに、頑張ってやったから、感謝しろと言っているのか。
両方何だろう。最初にかましておこうと思ったんだろうな。
しかし、言うことは言ってやるぞ。じいさんには、負けないぞ。老害には負けないぞ。
「ご尽力頂きありがとうございます。王都旅団長のお話では、海旅団の本部の改修は了承して頂けると聞いておりますが」
「おぉ、本部建物は、改修するぞ。部下から聞いていたが、アレは、本部とはとても言えないらしいな。王国軍の恥になるとまで言われたよ。改修しようとは、考えていたが、間に合わなかったんじゃよ」
海旅団の本部は、とうとうアレ呼ばわりか。王国軍の恥なのか。
僕は恥のトップ=頂点と言うわけか。
いくらなんでも、もう少し言い方を変えろよ、この糞ジジイ。
「感謝いたします。船の方はどうでしょうか」
「船の方も、大方大丈夫だ。国王からの了承は取れている。王国の威容を、内外に存分に示せとのお言葉だったよ。それと、旅団長の案に、随分感心されていたぞ。戦争の英雄は、頭も切れるから、英雄になったのだな、とべた褒めだ。旅団長は、国王から著しく評価されているから、誇っていいぞ。後は「財事局」と賃貸借の料金を決めるだけだ」
えぇー、「財事局」とのやり取りが残っているのか。嫌な予感がする。
「「財事局」との交渉は、どうされるのですか」
「それは、〈ラング〉旅団長にお任せするよ。何と言っても、貴殿の持ち船だからな。儂が勝手に料金を言えないだろう」
それはそうかも知れないな。勝手に賃貸料を、安くされたら適わないからな。
僕は、海旅団長で船を借りる側だ。そして、〈ラング〉伯爵で船を貸す側でもある。
どちらを優先すべきであろう。決まっている。当然、〈ラング〉伯爵側だ。
海旅団長には、なりたくて成ったわけじゃないし、もう相当嫌になってきている。
そして、海旅団長の席に永遠にいるとも限らない。人事異動もあるかも知れない。
第一に損をするのは、絶対許せない。儲けたいと心が叫ぶんだ。
でも、同時に邪魔くさいなと、魂が叫ぶ。
鹵獲したものだから、引き上げ費用が回収出来たら良い気もする。それで、損は出ないからな。
「お力添え、ありがとうございました。「財事局」と話してみます」
「そうか。「財事局」は、すごくケチな奴らだから、検討を祈るよ」
司令官も、「財事局」に予算を酷く削られたことが、あるのだろう。
心の底から、憎んでいる顔だった。
財事局長は宮廷貴族なので、何かと因縁があるのだろう。
僕はそこと、これから交渉か。気が滅入るな。
儲けたいという心が、ポッキリ折れそうで、もう七十度に傾いている。八十度かも知れない。
交渉に行きたくないな。ずる休み出来ないかな。副旅団長に、全て任せられないかな。
「旅団長、今から気に病んでも仕方がないぞ。当たって砕けろ、の精神だ。それに良いこともある。増員要求は、叶えてやれそうだ。王都旅団長が、張り切っていたぞ」
「司令官様、ご配慮ありがとうございます」
砕けることが、前提なのかよ。どうにかしてくれよ。
もう他人事だな。このジジイは、軍のトップの司令官のはずだよな。
それと、王都旅団長が張り切っているのも、嫌な予感しかしないな。
なんで、海旅団の増員を、王都旅団が喜ぶんだよ。どんな計略に嵌まってしまったんだろう。
怒りに任せて、増員なんか言わなきゃ良かった。
航海先に立たずだ。いや違う。後悔先に立たずだ。
航海しようにも、後悔する船の交渉はこれからだ。
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