第229話 有能な副旅団長
「〈セミセ〉旅団長、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。今日は、海旅団の要求の話で参りました。よろしくお願いします」
「やぁ、〈ラング〉旅団長。久ぶりだな。君も元気そうで良かった。お手柔らかに頼むよ」
王都旅団長室は、同じように黒色と金色がベースとなっているが、金色が増えてより豪華さが増している。
悪く言えば成金趣味だ。
大きさも必要以上にあって、大人数の会議も余裕で出来るだろう。
副官も大勢いる。僕には、副旅団長が一人いるだけだが、王都旅団長には五人もいる。
パリッとした軍服に身を包んだ、優秀そうな旅団員達が、後ろにズラッと待機しているぞ。
ここでも、大きな差をつけやがって。
何がお手柔らかにだ。自分は、こんな豪華な部屋を使って、補佐する人員も沢山いるくせに。
要求は貫徹してやるぞ。
「要求は至極普通のことです。当たり前のことしか言っていません。すでに、内容はご存じだとは思いますが、確認のため申し上げます。海旅団本部建物の改修と大型船の所有です。それと、旅団員の増員もお願いします」
増員は、今付け足してやった。
建物の改修と大型船の二つを、押して押して押しまくる作戦だったが、我慢出来ずに言ってしまった。
副旅団長と話し合って、二点完全突破を目指すことにしていたが、作戦微変更だ。
副旅団長が、慌てているが、気にしないでおこう。もう、言っちゃったよ。
あっちは、五人もいるんだから、一人くらいくれるだろう。
「海旅団本部建物の改修の件は、了解したよ。どうにかしなくては、いけないと考えている。実際に見たわけじゃないが、アレらしいな。王国の威信にも関わるから、司令官にも話をつけてある。安心してくれたまえ」
「アレ」ってなんだ。「アレ」、には、「倉庫」か「ボロボロ」が入るのか。
威信が傷つくほど、酷いってあんまりだ。そう思うなら、最初から改修しておけよ。
本当に、安心して良いのかな。今一つ、不安が拭えないな。
「大型船の所有の方は、どうなんでしょう」
「そちらの方は、少し大変だったよ。司令官が国王に掛け合ってくれて、何とかなりそうだ。君が提案した案が、現実的で功を奏したよ。《ラング》伯爵家が所有している船を、軍に貸し出すとは、良く思いついたね。これなら、当初造船にかかる莫大な予算が不要だし、費用が毎年均一化出来る。予算がつきやすくなる良い方法だ。おまけに、直ぐに用船することが可能ときた。君は結構優秀なんだな」
結構か。海旅団と一緒で、僕も軽んじられている気がするな。
けっこう、コケッコー、コッコッコッ、こらこらこらだよ。
若くて、経験も浅いから、仕方がないんだろうな。
「最後の増員の話はどうでしょう」
「うーん、その話は要求書には無かったんじゃないのか。急に言われてもな」
〈セミセ〉旅団長は、渋い顔をして唸っている感じだ。
まあ、僕も今思いついて、急に言ったからな。まず無理だろう。
僕のガス抜きだ。言いたいことは言っておかないと、胸に溜まって身体に悪い。
今は布石を打っておいて、長い目で回収出来たら良い話だ。
「そうですね。急に言いましたから、今後の課題ということで」
僕が幕を引こうとすると、王都旅団長の横にいる副官が、王都旅団長に何やら耳打ちをしだした。 この場面で、ヒソヒソ話とはなんだろう。
「ふーん、そうか。〈ラング〉旅団長、増員の件も何とかしてやれるかも知れんな。〈ラング〉旅団長のはなむけのためだ、こちらも骨を折ってやるよ」
はぁー、急に風向きが変わったな。さっきのヒソヒソ話が、原因のようだが。
何か裏があるのに違いない。でも、今は断れない。
王都旅団長の面子をドロドロに潰す事に成るし、僕の信用もガタ落ちだ。
不信感しか生まない。
これは、用心深くしつつ、相手の心証も壊さないようにしないといけないな。
どうにも、僕の手に余る事態だぞ。結構程度の優秀さだからな。
実務がバリバリ出来る有能な副旅団長に、任せることにしよう。
「そうですか。ありがとうございます。詳しい話は、ここにいる副旅団長に伝えてください」
「そうか。そうだな。こちらも直ぐには、用意出来ないから、そうするよ」
何を用意するんだろう。考えても分からないな。
副旅団長を見ると、彼にも分からないのだろう。困惑した顔をしている。
それほど、困らなくても良いと思うけど。どうして、そんなに困っているのかな。
僕と副旅団長は、王都旅団の本部を後にした。
要求活動は、これで終わりではない。数日後に今度は、司令官と会わなくてはいけないんだ。
疲れることだよ。
副旅団長も、疲れ果てた顔をしている。
お互い大変だよな。
「〈ボィツカア〉副旅団長、次は司令官だ。よろしく頼むよ」
「旅団長様、呼び名は〈ボツ〉で良いです。それより、急に増員を要求されたので焦りました。ちゃんと打ち合わせを守って頂けないと困ります。おまけに、尻拭いまで私に押し付けようとされているでしょう」
そのとおりだよ。でも、僕のお尻は、あんたには任せないよ。
僕がお尻を自分で拭けなくなった時は、〈アコ〉と〈クルス〉と〈サトミ〉に、優しく拭いてもらうんだ。
そらそうでしょう。
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