第228話 もっとゆっくり

 その後、〈アコ〉は僕の胸に顔を埋めて、「私、幸せです」って言っていた。

 〈アコ〉は、こういう風に過ごすのが好きなのか。

 僕は、この先へ進みたい。結婚すれば、一度に進むわけだけど。

 婚約中でも、最後の方までいきたい。


 結婚すれば全てが出来るのでは、とても味気ない気がする。

 お預けをされて、ダラダラと涎を垂らしている犬みたいのは、御免だ。

 もっと、婚約期間を楽しみたいと思う。婚約期間は、もう二年と少ししかないんだから。


 〈アコ〉と話していたら、直ぐに夕方になってしまった。時間が経つのが、早過ぎる。

 大して話をしてないのにな。


 テイクアウトで買った夕食を済まして、〈南国茶店〉を二人揃って出ていく。

 汚れたコップは、ちゃんと返しておいた。

 〈カリナ〉は、無言で仏頂面だ。〈リク〉は、困ったように苦笑いしている。

 新婚夫婦なのに、もうバラバラだ。これから先、ちゃんとやっていけるのかな。心配になるな。


 僕の隣には、〈アコ〉が歩いている。

 僕と身体が、引っ付くような近さで、笑って話しかけてきてくれる。

 しばらく歩いた後、僕の袖を引っ張って、「もっとゆっくり」と呟いた。

 まだ、話足りないのかも知れないな。

 僕は、出来るだけゆっくり歩いて、〈アコ〉の方を見ることにした。

 〈アコ〉は、満足そうに「あはっ」と大きな声で笑ってた。


 遅い夏の夕日が、〈アコ〉の夏服を透過していく。

 夏服の下の、〈アコ〉の短いスリップが、透けて見えている。

 薄いスリップの下の、胸とお尻の、大きさと形が浮き上がっている。

 〈アコ〉の女らしい太ももは、そのまま見えていると言えるぐらいだ。

 〈アコ〉の豊満な身体の線と下着が、ハッキリと見えてしまっている。


 「〈タロ〉様、どうして、私の身体を見詰めているのですか」


 「夕日に透けて見える〈アコ〉の身体が、すごく綺麗なんだ」


 「きゃっ、服が透けているんですか。〈タロ〉様、なぜ早く言ってくださらないんですか」


 〈アコ〉は、慌てて夕日が当たらないように、僕の反対側に移動した。


 「〈アコ〉が透けて見えて、すごく綺麗だったのに。もっと見ていたかったな」


 「そんなのダメですわ。他に人にも見られてしまいます。〈タロ〉様は、それでも良いのですか。ふぅ、機会があれば、〈タロ〉様だけには見せてあげますから、それで良いでしょう。綺麗と言って頂いた、ご褒美ですわ」


 〈アコ〉は、夕日のせいなのか、顔を赤くして、僕の隣を歩いてくれている。

 時々、僕の方を見る〈アコ〉顔は、誇らしそうだった。


 僕が、綺麗と言ったからなのか。僕を休息させることが、出来たためか。

 僕の心を晴やかにしたためか。いづれにしても、僕が関係しているな。


 〈アコ〉は、僕のことを優先して考えてくれていると思う。

  僕は、〈アコ〉のことをどれほど考えているのだろう。正直、心もとないな。


 〈アコ〉は、さっき幸せと言ったけど、無理に言ってはいないだろうか。

 〈アコ〉は、苦しいと思ったことはないのかな。機会があれば聞いてみたい。

 ショーツが、何色なのかも聞いてみたい。捲ってみた方が良いのかな。

 どちらが良いのか、これも機会があれば聞いてみよう。


 海旅団の要求活動に、進展があったとの報告を受けた。

 副旅団長が、精力的に根回しを進めてくれたようだ。

 何とか、要求が大筋で通る目途がついたらしい。

 副旅団長室が、かかっているので、意気込みがすごかったからな。

 旅団長は、若くて何も知らないから、実務がバリバリ出来る有能な副を、つけてくれたのだろう。 

 王国もそこまで、バカじゃないんだろう。


 最後の一押し、ひと粘りをかますため、僕も王都旅団長と司令官に会うことになった。

 軍も、休養日は原則休日だ。そのため、平日に訪ねる必要がある。

 また、授業を抜け出すことになるが、休養日が潰れるより何倍も良い。

 お貴族様だから、期末試験も卒業試験も無い。だから、授業は適当でも何とかなる。

 休養日は、おっぱいとか、お尻とか、もっと有意義なことに使う日だ。


 王都旅団の本部に赴くと、本部の建物は大きくてすごく立派だ。

 攻められた時に、砦代わりとなる機能を、持たせているのだろう。

 むやみやたらに、丈夫に造られている。見るからにゴッツイ建築物だ。

 重厚な扉に、分厚そうな壁が、来るものを拒んでいる気がする。

 建物は、ほとんど黒色だけど、部分的に金色が使用されているので、豪華さもある。

 海旅団の本部とは、雲泥の差に笑ってしまうな。本当に同じ旅団なのか。同じとは言えないな。

 海旅団は、この旅団の単なる一補給部隊にすぎなかったのだから。


 気を取り直して、建物の中へ入ると、そこも黒色が基調になっていた。

 金色が効果的に、使われているので、中も豪華に見える。

 質実剛健だけど、貧乏臭さはない。

 王都旅団は、黒と金が、シンボルカラーなのかも知れないな。


 副旅団長の必死さが分かる。差があり過ぎて、あまりに惨めだ。

 僕は軍に何も思い入れはないから、そんなに気にしていなかったが、なんとかしてやりたいと強く思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る