第225話 枕は私の膝

 「〈タロ〉様、こんにちは。前の休養日は逢えなかったので、久ぶりの気がしますわ」


 「〈アコ〉、こんにちは。そうだな、そんな気もするな」


 〈南国茶店〉は、お昼を過ぎて、今が一番忙しい時だ。

 もう満席で、立って待っている人達や、諦めて帰る人もいる。

 思っていた以上に、流行っているな。理由は良く分からない。

 お菓子と飲み物を楽しみながら、会話出来る場所を皆が求めていたんだろう。

 ひょっとすると、飲み物と場所だけで、良かったのかも知れないな。


 〈カリナ〉は厨房で、汗水を垂らしながら、きりきり舞いで働いている。

 これだけ満員だと、忙しいのだと思う。僕の儲けのために頑張れ。

 でも、今日は隣に〈リク〉がいるせいだろう、顔が輝いている気もする。


 でもそれは、もうしばらくだけだと思う。

 もう少ししたら、きっと隣にいるだけで不機嫌になるはずだ。

 夫婦とはそういうもんだと、隣のおばちゃんが言っていた。

 確かに、隣のおばちゃんは、いつも、おっちゃんに文句ばかりだった。

 おっちゃんが、特別酷いとは思えないのに。


 要は、過度に一緒にいると、ストレスが溜まるということだ。

 人間だもの、同じことの繰り返しは辛い。

 同じ人だと、嫌になるんだろう。


 その点僕は、三人と結婚するから、一緒にいる時間が分散出来て、良好な結婚生活を送れるに違いない。

 ただ、四、五人と多い方が良いとは思わない。四人もいると、僕が持たないと思う。

 僕の体力、精神力、精力が、枯渇してしまう自信がある。キャパオーバーだ。


 旅団長になり、改めてそう感じた。学舎と国務と執務で、ヒイヒイ言っている。

 許嫁と過ごすのは、これらと違って楽しいことだけど。人数が多いと負担感の方が強くなる。

 逢わなければならないと、義務になったら、そこで終わりだ。


 それに、許嫁の間で、差をつけるのは避けたい。

 トラブルの原因にもなるし、そもそも差をつけたら可哀そうだ。皆平等が一番なんだ。


 だから、三人が一番良いという結論になる。

 しかし待てよ、三人でも厳しいかも知れない。僕は少し自信がない。

 夜のお勤めは、僕の小動物では心もとないぞ。


 そういうことで、ちょうど二つ厨房に置いてあった、バナナジュースをまた拝借しよう。

 後で、汚れたコップだけ返そう。


 〈カリナ〉は、「あー」って言って、僕をじっと見詰めていた。

 〈リク〉は、悲しそうな顔で、僕を見て〈カリナ〉を見た。

 〈リク〉は、〈カリナ〉が僕をじっと見詰めるので、きっと悲しいのだろう。


 忙し過ぎるのが、いけないんだ。僕が、罪を犯したような目で見るなよ。

 〈カリナ〉は、僕がからかうために、雇ったことを自覚して欲しい。後付けだけど。


 「〈タロ〉様、〈カリナ〉さんと〈リク〉さんが、怒っていましたわ」


 「そうかな。見られているとは、思ったけどな」


 「〈タロ〉様、わざとやっていらっしゃるのね」


 「うん」


 「真面目に働いている人を、からかってはいけないですわ、〈タロ〉様」


 「大したことじゃないよ」


 「それでもです。お店が暇になってから、取りに行けばいい事なのに」


 「分かったよ」


 「ふぅー。飲み物は、これから私が持ってきますわ。〈タロ〉様は、お店の物を盗ってはダメですよ」


 「はい。分かりました」


 「結構です。良いお返事ですわ。〈タロ〉様は、国務と執務の両方で、疲れていらっしゃるのですね」


 「そうなんだ。二つとも大変なんだ。すごく疲れたよ」


 「それはいけませんわ。私が休息させてあげます」


 休息させるって、どうするんだろう。


 「どうしてくれるの」


 「この長椅子で、お休みなったらいかがでしょう。枕は私の膝がありますわ」


 「膝枕をしてくれるの」


 「そうですわ。遠慮されないで、どうぞ使ってください」


 「それじゃ、甘えさせて貰うよ」


 僕は、ソファーに寝転んで、〈アコ〉の膝に頭を乗せた。正しくは、〈アコ〉の太ももだ。

 〈アコ〉の太ももは、柔らかくて温かくて、もっちりとしている。とっても良い枕だ。


 「〈タロ〉様、ゆっくり休んでください。このまま眠っても良いのですよ」


 〈アコ〉は、僕の頭を優しく撫でながら、ニコニコと微笑みが絶えない。

 頭を撫でられると、気持ちが落ち着いて、眠ってしまいそうになるな。

 それに、〈アコ〉の表情は穏やかで、何だか慈愛に満ちた顔に見えるぞ。


 これじゃまるで、ママに良い子良い子、されている幼子だ。

 いつから僕は、〈アコ〉の子供なったんだ。これは、どういうことだろう。

 〈アコ〉に子供を産ませるのが、僕の大きな役割のはずだ。これじゃ、いけない。


 〈アコ〉に、僕は子供じゃなくて、作る方だと分からせて、僕が眠ってしまわないように行動を始めよう。

 僕は、手始めに顔を〈アコ〉のお腹の方へ向けた。


 「〈タロ〉様、こちらを向いても良いですけど。前みたいに、私のお腹を摘まんではいけませんよ」


 「分かっているよ。お腹は摘ままないよ」


 触れる体勢になったので、僕は〈アコ〉のおっぱいを寝転んだまま触った。

 何回触っても、〈アコ〉のおっぱいは柔らかい。フニュフニュ。プルンプルン。

 適当な表現が見つからないけど、とにかく柔らかくて触り心地が良い。

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