第219話 おっぱいを枕代わり

 全てです、と言い切られてもな。

 海上兵站部隊だから、所有しているのは、戦争資材を運ぶための輸送船だけなんだと思う。

 でも、この船じゃ戦闘は出来ないし、外洋にも出られないな。

 おまけに、半減して四艘か。

 これじゃ、小規模な港湾運送業者と変わらないぞ。


 これは参ったなと、暗澹たる気持ちで四艘を見ていたら。いや、見てはいない。

 四艘の方に顔を向けているが、頭の中ではこれはどうしたものかと、考えていたんだ。


 「若領主、こんなところで何をしているんだ。艀をずっと見詰めて、艀に恋をしたわけじゃあるめぇな。変態か」


 誰かと思ったら、船長だ。〈アコ〉の母親との逢瀬を邪魔したから、根に持っているな。

 まだ、怒っているようだ。粘着質のしつこい、臭い中年オヤジだな。


 「船長こそ、ここで何をしているんだ」


 「あぁ、俺はな。若領主が言ってたように、《ベン島》で船を引き上げているんだ。もう少しで引き上げられそうだぜ」


 「そうか。ご苦労なこった。ところで、引き上げた船はどうするんだ」


 「はぁー。何言ってるんだ。若領主の鹵獲品だろうが。俺は船主じゃないからな。自分で考えろよ。引き上げ費用は、キッチリ請求するからな。結構かかったぜ」


 「えぇー、そうなのか」


 「えぇー、そうなんだ。もう直ぐ引き上げは完了だ。しばらく王都で休養するから、後は任せるぜ。サラバだ、若領主」


 嫌味な言葉を吐きながら、ニヤニヤと嫌らしく笑って、船長は去っていった。

 生きているだけで、不快を撒き散らす、無責任な中年ジジイだ。

 頭が痛くなることを増やしてくれたぞ。この世から、永遠に去れば良いのに。


 毒づいていても、しょうがいない。中年ジジイのことは忘れて、視察を早く終わらせよう。


 「副旅団長、見た感じ、海方面旅団の課題は沢山あると思う」


 「そうですね。沢山あります」


 「司令官に改善を要求するつもりだけど、全てはとても無理だと思う。海方面旅団に、何か期待をされているわけじゃないんだよ」


 「そうなのですか。まあ、この状態で、期待をされても困りますしね」


 「あぁ、そうなんだ。だから外面を優先しようと思う。本部建物の改修と船を要求してみようと考えているんだ」


 「本部建物は、身に染みて良く分かりますが。船とは、どのような船ですか」


 「外面だから、当然、大きな船だよ」


 「それは、大きな船は憧れます。でも、大きな船だと、莫大な費用と、造船に長い時間がかかりますよ」


 「まあ、当ては今出来たんだ」


 「えっ、大きな船が、今出来たのですか。どういうことですか」


 副旅団長に、詳細を説明して要求書を作成して貰うことにした。

 副旅団長は、本部建物の改修に大賛成だ。どうも副旅団長室が、ぜひとも欲しかったらしい。

 他の旅団には必ずあります、と力説が止まない。

 要求して良いから、口から泡を飛ばさないでくれ。


 やはり軍なんだから、大きな船がないと格好がつかないらしい。

 見栄えは大事です、と自説を長々と唱えだす始末だ。

 昇進を自慢したいけど、この状況では笑われるんだろう。


 僕がひねり出したwin-winの方法に感動して、涙を流さんばかりだった。

 要求が通ったら、心行くまで自慢してくれ。


 何を置いても外面だという考えは、副旅団長も僕も同じだ。

 優先するものが一緒だから、案外、上手くやっていけるかも知れないな。

 それに、副旅団長は、自分の意見が採用されたからか、ド真剣に要求書を作成してくれるようだ。

 目がギラギラ光って、やる気満々だ。


 余程、副旅団長室が欲しいんだろう。

 椅子だけじゃ嫌なんだろう。

 家族にも見せたいんだろう。

 要求書は、副旅団長室に任せて大丈夫そうだな。


 海方面旅団本部の視察から帰ってきた日の授業は、全滅だ。


 眠くて眠くて、目を開けていられない。

 馬車移動の時に、睡眠を取る計画は無謀だった。振動が酷くて、寝るどころでは無かったよ。


 全ての教科で寝ていたと思う。

 「武体術」の授業では、立ったまま眠るという離れ業まで披露してしまった。

 それでも、少しは模擬刀を振っていたそうだ。鍛錬とは、恐ろしいものだな。


 「楽奏科」の授業でも居眠りしてしまった。


 〈ヨヨ〉先生を前にして眠るとは、非常に情けないことだ。

 女体への信仰が、足らないとしか言いようがない。

 未熟者めが、と言われても返す言葉がない。一から修業をやり直したい。


 ただ、先生のお陰で、とても良い夢を見ることが出来た。

 先生、ありがとうございます。ご馳走様です。


 先生が、僕の様子を背中の方から見にきてくれた時、先生のおっぱいを枕代わりにすることが出来たんだ。

 うつらうつらして、後ろに倒れそうになった僕の頭を、先生のおっぱいが受け止めてくれたんだ。


 一時の間だけど、先生の水枕みたいなぷよぷよのおっぱいは、僕を包んで、気持ち良くしてくれた。


 僕の頭と下半身が、とろけるような快感に包まれた気がする。

 先生の溶けてしまいそうな、柔らかなおっぱいに、包まれたんだから当然だと思う。

 僕の下半身をどうやって、おっぱいで包んだかは良く分からない。

 でも、先生なら可能だと思う。だって、〈ヨヨ〉先生だもの。


 先生は、僕の頭を二つのおっぱいで包みながら、しばらくそのままでいてくれたらしい。

 しょうがいない男の子ですね〈タロ〉君は、とゾクリとする声が夢の世界で淫靡に響いていた。

 先生は、淫夢の世界を自由に出入り出来るんだな。


 さすがは、〈ヨヨ〉先生と言うしかない。エロスの女神なんだと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る