第4章 忙しい下半期

第214話 海方面旅団長

 下半期が始まったと思ったら、直ぐに王宮から呼出状が舞い込んだ。


 王宮に用事だから、学舎の授業を抜け出して向かった。

 担任の先生は、気の毒そうな顔で許可してくれて、「大変だな」と余計な一言を言う始末だ。

 予言みたいなことを言うなよ。気が滅入ってくるぞ。


 授業をさぼれるのは有難いが、王宮に呼び出されるのは、少し怖い。

 呼出状には、王国直属軍の用務としか書いてない。

 まさか、また戦争に駆り出されるのか。嫌だな。


 同行する護衛の〈リク〉は、戦争ではないと思います、と言っている。

 もう一人同行する秘書役の〈ソラィウ〉も、心配しなくても大丈夫だと思います、と言う。

 二人とも、適当なことをぬかしているんじゃないのか。


 と思ったが、ネガティブになる僕を、ポジティブな方に、もっていこうとしているんだろう。

 僕を補ってくれる良い部下だと、思うことにした。

 そう思う方が、僕を含めて、皆、ハッピーになれるはずだ。


 「戦争ではないのか。それじゃ、また勲章が貰えるのかな」


 「ご領主様、お言葉ですが、それはあり得ません」


 〈リク〉が、悲しそうな顔で返事をする。僕を悲しがるとは、ちょっと失礼じゃないの。


 「ご領主様、僭越ですが、そんなわけないです」


 〈ソラィウ〉は、怒ったような顔つきだ。

 鍛錬に引き釣り込んだことを、まだ根に持っているようだ。

 あざと怪我が一杯出来て心が塞がった、だけじゃないか。執念深いヤツだ。


 王宮に着いたら、早速会議に出席して欲しいと言われた。

 「王国御前会議」という会議らしい。これって、国王が出席する中々の会議じゃないの。

 何かヤバイんじゃないのかな。

 どうかな。

 どうしよう。

 いまさら、どうしようもないね。

 あきらめよう。

 なるようになるさ。

 なにかあったら、〈アコ〉と〈クルス〉に慰めてもらおう。

 そうしよう。

 それが良い。

 決まったな。


 僕は混乱した頭のまま、「王国御前会議」に連行された。

 裁判所に連れて行かれて、判決を受ける性犯罪者のようにだ。

 僕は無実だ。合意の上で触ったんだ。

 〈アコ〉、〈クルス〉、〈サトミ〉、頼む証言してくれ。

 冤罪だと言ってくれ。


 「王国御前会議」は、幸いなことに、僕の性犯罪糾弾裁判ではなかったようだ。

 僕は被告席ではなくて、隅っこの末席にちょこんと座らされた。

 被告はある意味主役だから、隅っこには座らないはずだ。

 ホッとしたような、淋しいような気分になる。


 「王国御前会議」のメンバーは、良く分かってはいないけど、王国の重鎮が揃っているようだ。


 重厚なテーブルの左側には、宮廷貴族のお歴々が座っている。隙間なく、七人が鎮座している。

 公爵や侯爵および伯爵の当主なんだろう。中年のオッサン達だ。皆、しかめっ面をしている。

 上等な服を着て垢抜けてはいるが、所詮中年のオッサンだ、華やかさに欠けているな。


 テーブルの右側には、領地貴族の重鎮が座ることになっているらしい。

 らしいと言うのは、二人しか座っていないからだ。あっ、三人か。僕も末席に座っている。

 こちら側に座るのも、公爵や侯爵および伯爵の当主のようだ。

 座っている二人も、中年のオッサンだ。二人とも、ニヤニヤしている。気持ちが悪いな。

 上等な服を着ているが、垢抜けてはいない。田舎者感がある。領地貴族だからな。

 華やかさは微塵もない。僕も微塵もないと思う。若いくせに。


 二人のうち、一人は見たことがある。王国軍司令官の〈バクィラナ〉公爵だ。

 僕と目が合うと、軽くウインクをしてきた。

 げぇー。なんてことをすんだよ。吐きそうだ。気持ち悪い。

 今度、〈アコ〉と逢ったら、記憶の上書をして貰う必要がある。

 そうでないと、悪夢を見そうだよ。勘弁して欲しい。


 国王が着座して、会議が始まった。議題は何個かあったが、良く覚えてはいない。

 印象に残ったのは、若い女性が西部の山間部を中心に、行方不明になる事件が多発している事だけだ。

 酷いヤツいるもんだ。本物の性犯罪者じゃないか。


 議題を覚えていないのには、理由がある。

 最後の議題が、僕に関するものだったからだ。


 何と僕が、王国直属軍の旅団長を拝命したんだ。

 「海方面旅団長」という役職だ。ネーミングの収まりが悪くて、かっこ悪い。

 もう少し何とかならなかったのかと、激しく思う。


 僕が、旅団長になったのは、伯爵に昇爵したことと、宮廷貴族と領地貴族のパワーバランスに起因するようだ。


 宮廷貴族は、内政の局長を務めることになっており、「国事」「領事」「法事」「王都」「直轄「財事」「外事」と七人が就任している。


 領地貴族は、王国直属軍の旅団長を務めることになっていて、「司令官」「王都」「北部方面」「西部方面」「南部方面」と五人が就任している。

 「東部方面」がないのは、「王都旅団」がその役目を担っているためだ。


 宮廷貴族は七人も役職に就いていて、領地貴族は五人と、二人も少ない。


 これはおかしい。不公平だ。差別だ。との声を領地貴族側が言い出して、新たな旅団を作ることになったらしい。

 《ベン》島奪取作戦が大成功して、司令官の発言力が、著しく増大したことも大きいようだ。

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