第212話 僕の身体をさすっている

〈アコ〉は、明確に返事をしてくれたが、手は僕の身体から離していない。

 少しふっくらとして手で、僕の身体をさすっている。

 僕の身体は、〈アコ〉の手で撫でまわされている。お腹や胸板をゆっくり撫でられている。


 「〈アコ〉、僕の身体を、さすってくれているの」


 「はい。さすっても効果はないと思いますが、青あざや古い傷を見たら、さすりたくなりました。いけませんか」


 「好きにすれば、良いよ。何だか癒される気もするし」


 「そう言って貰えると、さすりがいがありますわ。もっとさすりますね」


 〈アコ〉は、腕や肩など上半身をくまなく、手でさすってくれた。

 〈アコ〉の、少しふっくらとした柔らかい手で、素肌を撫でまわされるは、とても気持ちが良い。 

 過去の打撲や傷跡が、心と一緒に癒される感じだ。

 〈アコ〉は、上半身を全てさすった後、最後に残った乳首もさすってきた。

 そこには、青あざや古い傷はないんだけれど。


 「ひゃぁ、そこは、くすぐったいよ」


 「うふふ、〈タロ様〉も、ここはくすぐったいのですか。こうして、お身体をさすったら、〈タロ様〉の気持ちが、少しだけ分かりました」


 「へぇっ、僕の気持ち」


 「はい。でも、少しだけですよ」


 どう言うことだろう。多分、僕も触っても良いということだろう。

 僕は、〈アコ〉のメロンおっぱいに手を伸ばして、両手でサワサワと触った。

 いつもと同じで、大きくて柔らかい。大変素晴らしい触り心地だ。


 「んうん、〈タロ様〉、私の胸、少しなら触っても良いですけど。それより、抱きしめて欲しいです。ダメですか」


 「分かったよ」


 メロンおっぱいと、お別れするのは寂しい。けれど、抱きしめるのも、嫌いじゃない。

 僕は、〈アコ〉を引き寄せて強く抱きしめた。


 「あん、〈タロ様〉」


 〈アコ〉は、艶のある声で僕の名前を呼んで、顔を見詰めてくる。

 これはもう、するしかない。僕は、〈アコ〉の唇に唇を重ねた。

 しばらく、〈アコ〉のプリッとした唇を、僕の唇で堪能する。

 〈アコ〉は抵抗しないと思うので、もう一度、メロンおっぱいを触ってやろう。


 「はぁん、〈タロ様〉。私は、もう出ていかなければなりません。服を着せてあげますので、手を離してください」


 えー、短いよ。短すぎるよ。

 僕は不満だけど、〈アコ〉は断固とした態度で取り付く島もない。


 ただ、冷たい態度でもない。

 甲斐甲斐しく、服を着せてくれて、ボタンまで留めてくれた。

 至れり尽くせりだけど、もう帰るのみたいだ。

 〈アコ〉の気持ちが読めないな。


 「ふふ、ちゃんと着られましたね。それでは、私は出ますね。〈タロ様〉、お休みなさい」


 〈アコ〉は、お休みの挨拶をして、部屋を出て行ってしまった。

 あぁ、もう少し居て欲しかったな。


 またベッドの上で、〈アコ〉とのやり取りを考えていたら、誰かが扉をノックしてきた。


 「どうぞ。入って」


 「〈タロ様〉、こんばんは。お加減はどうですか。まだ痛いのですか」


 「やあ、〈クルス〉、こんばんは。心配いらいないよ。もうあまり痛くないよ」


 「すみません。まだ痛むのですね。治療をしますので、服を脱がしますね」


 想像していたとおり、〈クルス〉が突いた方の脇腹は、〈クルス〉が治療してくれるらしい。

 自分がしたことは、自分で責任をとるってことか。


 「〈タロ様〉、両手を上にあげてください。シャツを脱がします」


 「分かったよ。こうかい」


 僕は、〈クルス〉の言うとおり、抵抗せずにバンザイした。

 〈クルス〉は、僕のシャツを素早く上に抜き取って、脱がしてくれた。


 「ふふ、〈タロ様〉の裸を見るのは初めてです。何だか照れてしまいます。想像していたより、筋肉が凄いですね」


 「えっ、凄い。そんなに、筋肉はついていないよ」


 「〈タロ様〉は、精悍なのですね。頑張っておられます」


 「そんなに、頑張ってはないよ。無理やりやらされているだけさ」


 「ふふ、謙遜しますね。もう言いません。それでは、膏薬を塗りますね。ここが少し赤くなっています。ここですか」


 「うん。そこの辺りだよ」


 〈クルス〉は、細くて華奢な指で、丁寧に薬を塗ってくれた。

 触られると、少し痛い。

 けれど、ここは我慢して顔に出さない方が良いな。〈クルス〉が、気にするだろう。


 「やはり、痛いのですね。我慢されても、私には分かりますよ」


 〈クルス〉は、にこやかに笑って、得意げな顔をしている。


 「そんなに、痛くはないんだよ」


 「ふふ、分かっていますよ。手にまだ膏薬がついていますので、他も塗りますね」


 〈クルス〉は、嬉しそうに笑いながら、あざや傷に薬を塗っていく。


 「〈クルス〉、そこはもう治っているんだけど」


 「ふふ、見たら分かりますよ。でも、私は塗りたいのです。私に触られるのは嫌ですか」


 「そんなことはない。もっと塗って良いよ」


 「ふふ、それなら、私の自由に塗らせてください」


 〈クルス〉は、僕の古いあざや傷の全てに、薬を塗りたいようだ。

 楽しそうな顔をして塗っている。ただ、手にはもう薬はついていないと思う。

 ただ、僕の身体を触っているだけだ。

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