第211話 二人が僕を突いた

 二人が本気で突いてくるので、僕も疲れてきた。

 いくら素人の女性でも、二人同時で、かわすだけなのは結構足にきてしまう。


 これは、そろそろ危ないかな。

 そう思っていたが、〈アコ〉と〈クルス〉は、僕以上に足にきているようだ。

 もう、足取りが乱れてフラフラだ。

 そうだよな。あれだけ、一生懸命に突き続けたら、こうなるわな。


 「もう二人とも、フラフラじゃないか。もう止めようよ」


 「まだ限界ではないですわ。一太刀入れたいのです」


 「一矢報いたいです。諦めません」


 何だか恨みを晴らすような言い方だ。

 恨みを買うようなことを、僕は何もしてないはずだよな。


 二人は疲れているからか、ピタッと動きを止めた。


 〈アコ〉は、汗をかいて熱いんだろう。

 シャツの胸元を開けて風を入れているようだ。


 〈クルス〉も、身体が熱を持ったんだろう。

 スカートの裾をパタパタして熱を逃がしているようだ。


 おっ、何だか仕草がエロいんじゃないの。


 〈アコ〉は、胸元を大きく開けて、もう上乳が見えそうだ。


 〈クルス〉も、スカートの裾を大きく捲から、太ももの根元の方までチラチラ見えている。


 僕は、当然二人を凝視した。

 二人いるので、どちらも見ようとキョロキョロしなくてはならない。

 左右の目で同時に見ようとしたら、どちらも良く見えなかった。

 人間の目は、そんな風には出来ていない。

 貴重なエロい時間の無駄使いだった。


 その時、「えいっ」「やぁー」と気合の入った声と共に、僕の両わき腹に衝撃が走った。


 僕は身体を二つ折にして、その場でうずくまってしまった。

 脇腹が、左右共にすごく痛いぞ。

 「ゲェ―」と吐き気もする。何が起こったんだ。


 「〈タロ様〉、大丈夫ですか。スッキリしましたわ」


 「〈タロ様〉、痛くはないですか。晴やかな気分です」


 「ぐぇ、二人が僕を突いたの」


 「そうですわ。〈タロ様〉、全く分からなかったのですか。呆れてしまいますわ」


 「〈タロ様〉は、私達しか見ていなかったのですね。私達に集中し過ぎです」


 二人がかけた罠に、まんまと嵌まってしまったようだ。

 こんな罠なら、毎回引っかかる自信がある。避けることは到底不可能だ。

 自分から進んで、かかりにいってしまうだろう。確実だ。


 その日の夕食後も、脇腹は少し痛かった。

 僕は脇腹をさすりながら、過去の行動を振り返ってみた。

 〈アコ〉と〈クルス〉に、腹を思いっきり突かれるようなことをしたかな。

 憎まれるようなことをしたのか。記憶を探っても、何も出てこない。


 少しエッチなことをしただけだ。許嫁何だから、当然、許容範囲だろう。

 結婚することは確定しているんだから、少しくらいは良いはずだ。

 コミニケションの一環に過ぎない。


 それに、〈アコ〉と〈クルス〉も、一回、思いっきり突いて、気が済んだみたいだ。

 だから、終わったことは、もう気にしないでおこう。


 船室のベッドの上で、自己正当化を図っていたら、〈アコ〉が部屋に入ってきた。


 「〈タロ様〉、こんばんは。お腹はどうですか。痛みますか」


 「〈アコ〉、こんばんは。ううん。大丈夫だ。そんなに痛くはないよ」


 「そうですか。少し痛むのですね。ごめんなさい。張り薬を貰って来ましたので、痛い所に張りますね」


 「薬を張るほどのことはないよ」


 「そうはいきませんわ。痛いのでしょう。服を脱いでください」


 そう言われたら、しょうがない。僕は服を脱ぎ出した。

 〈アコ〉も、僕の横にきて、服を脱ぐのを手伝ってくれるようだ。

 骨を折っているわけじゃないんだから、手伝って貰う必要はないんだけどな。


 「〈タロ様〉、シャツを持っていますから、袖から手を抜いてくださいな」


 「えっ、自分で脱げるよ」


 「ダメです。大人しく、私の言うことを聞いてください。痛くないように、私が脱がして差し上げますわ」


 「分かったよ」


 こんなことで、〈アコ〉に逆らっても意味がないので、〈アコ〉のしたいようにさせよう。

 〈アコ〉は、慎重に僕の服を脱がしてくれて、僕は上半身裸になった。


 「うふ、〈タロ様〉。裸になられると、すごく男らしいですわ。引き締まって鍛えられた身体なのですね。少し眩しいですわ」


 「えっ、眩しい。そんな大したことはないよ」


 「眩しいのは本当ですよ。私、少しクラクラしました。それに、青あざや古い傷が一杯ありますわ」


 「ふぅ、鍛錬でつけられたんだ」


 「まあ、お可哀そうに。私も、あざを増やしてしまったのですね」


 「〈アコ〉の練習の成果だから、名誉なことだよ」


 「うふふ、ありがとうございます。それじゃ張りますわ。ここが痛いのですか」


 「もう少し上なんだ」


 「ここですか」


 「そうだ。そこだよ」


 〈アコ〉は、細くて柔らかな指で、丁寧に張り薬を張ってくれた。

 ただ、薬を張るのはこれで、終わりみたいだ。


 「〈アコ〉、反対側は張らないの」


 「そちらは、私が突いていませんわ」


 えー、自分が原因じゃなくても、普通は張ってくれるんじゃないの。

 手間はそんなに変わらないはずだよな。


 「どういうこと」


 「もう直ぐ分かりますわ」


 「へぇ、そうなの」


 「はい」

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