第207話 手探り

〈サトミ〉の手は、僕の首に回したままで、目は固く瞑って開かない。

 何かに耐えているようだ。

 顔は、濃いピンクに色づき、息も「はぁっ、はぁっ」と艶を帯びてきた。


 〈サトミ〉の身体を蹂躙しているようで、とても興奮するな。

 優しくゆっくりを、心に言い聞かせないと、力任せ揉んでしまいそうだ。

 〈サトミ〉の様子を見ながら、お尻とおっぱいを堪能する必要があるな。


 〈サトミ〉のおっぱいから視線を外して、表情を窺うと、また涙を溜めているぞ。

 もうダメか。〈サトミ〉の耐性は、低いんだな。


 「〈サトミ〉、ごめんよ。嫌だった」


 「うぅ、〈タロ〉様、嫌じゃないけど。胸とお尻を一緒に揉まれたら、〈サトミ〉は、どうしたら良いの。〈サトミ〉、どうにかなっちゃうよ」


 「〈サトミ〉、ごめん。もうしないよ」


 「〈タロ〉様がしたいなら、〈サトミ〉は我慢出来るよ。〈サトミ〉は、〈タロ〉様のお嫁さんになるんだから。でも…… 」


 「〈サトミ〉、嫌なら嫌と、ハッキリ言って良いんだよ」


 「良いの。それじゃ、本当のことを言うよ。〈サトミ〉は、ギュッと抱きしめられて、〈タロ〉様に一杯キスして欲しかったんだ。だって、明日はお別れだもの」


 僕は、〈サトミ〉を思いっきり抱きしめて、〈サトミ〉の顔中にキスをした。

 〈サトミ〉の顔に、雨粒のようにキスを降らして、〈サトミ〉の顔を濡らしていった。


 「いやん、そんなに強く抱かれたら、〈サトミ〉は〈タロ〉様の中に入っちゃうよ。そんなに一杯キスをされたら、〈サトミ〉は溶けて、〈タロ〉様に吸い取られちゃうよ」


 〈サトミ〉の表情を窺うと、今は嬉しそうに笑っている。

 切なそうに、くすぐったそうに、首をすくませているのが、すごく可愛い。


 〈サトミ〉の唇に、五回啄ばむようなキスをして、この夜は終わりにした。

 もう、夜遅くなってしまっているから、しょうがない。


 僕は、〈サトミ〉を家の玄関まで送った。手を繋いで、手を絡ませて、二人で歩いた。

 夜道が危険なことより、〈サトミ〉と少しでも、長くいたかったんだ。

 〈サトミ〉は、ニコニコ笑いながら話かけてきたけど、話足りないと不満そうな顔になっている。


 〈サトミ〉の家の前で、無理やり、長いキスをした。


〈サトミ〉は、「家の前では嫌だよ。家族に見られたら、死ぬほど恥ずかしいよ。〈タロ〉様、止めて」って真剣に抵抗してた。

 でも、〈サトミ〉の言うことを無視して、強引に唇を奪ってしまった。


 「うふぁ、無理やりされちゃった。〈タロ〉様は、〈サトミ〉を自由に出来ると思っているでしょう」


 「〈サトミ〉、ごめん。お別れのキスだから許してくれよ」


 「あはっ、怒ってないよ。恥ずかしいけど、お別れのキスだから、嬉しい気持ちも大きいんだ。〈タロ〉様は、〈サトミ〉を自由にして良いけど、酷いことはしないで。恥ずかしいことは、許せるけど、弄ぶようなことは、しないでください。お願い、約束して」


 「分かったよ。約束します」


 「あはっ、〈タロ〉様、ありがとう。それじゃ、お休みなさい」


 「〈サトミ〉、お休み」


 一人で館に帰る道すがら、夜空を見上げた。

 赤い大きな星と青い星が、天頂で一際輝き合っている。

 赤い星は、泣いて瞳を赤くした、〈サトミ〉みたいだな。

 青い星と結ぶと、何かの星座を形作るのだろう。


 さっきの〈サトミ〉との約束は、星に届いたのだろうか。

 決して届くことはないよな。届いたところで、星は何もしてくれないだろう。


 約束は、僕と〈サトミ〉の視線の交わりの中に、あるのだから。

 僕と〈サトミ〉との、絆の一部だと思う。

 約束の内容は、その日その日で変わってしまう、緩やかで、定まっていないものだと思う。


 手探りで、絆を深めるしかないな。


 お尻とおっぱいも、〈サトミ〉が怒らない、気持ちが良くなるところを探そう。

 これも手探りだ。頑張ろう。おっぱいー、おー。おしりー、おー。



 「深遠の面影号」から、見送ってくれている人々に手を振る。

 臣下を始め、沢山の人達が見送りに来てくれた。

 沢山の人が、僕のことを気にかけてくれている。誠に有難いことだ。心がジーンと熱くなる。


 当然、〈サトミ〉も見送りに来てくれている。


 僕達が、船に乗る前から、泣きっぱなしだ。

 脱水症が、心配になってしまう。

 僕達が、船に乗ってからは、手をずっと振り続けている。

 手が千切れないか、心配になってしまう。


 横にいる〈アコ〉と〈クルス〉も、泣きながら手を振っている。

 涙を拭うより、手を振ることを優先しているから、頬に涙が流れ落ちてしまう。

 許嫁達、三人の涙が、日の光を反射して、煌めいているのは陽炎みたいだ。

 夏の終わりを告げる妖精が、現れたのかも知れない。


 ハンカチで拭いてあげようかと思ったけど、二人ともハンカチは持っているはずだ。

 今は、三人とも涙を流したい気分なんだろう。

 同じ行動をすることで、友情を確かめ合っているのかも知れない。

 絆を深め合っているのだろう。


 邪魔しないでおこう。

 〈サトミ〉だけ、拭けないのも良くない。

 〈サトミ〉だけ、仲間外れになって悲しむのは避けたい。

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