第203話 お休みのキス
〈クルス〉は、「はぁ」「はぁ」と荒い息を漏らしながら、僕の胸にしがみついてきた。
僕も、〈クルス〉をしっかりと抱きしめる。
〈クルス〉が、僕の胸へすがりついてきたのに、抱きしめない理由がない。
片方の手で、〈クルス〉を強く僕に押しつけ、もう片方はお尻に添えた。
〈クルス〉は、まだ動悸が激しいのか、僕の胸におっぱいをリズミカルに当ててくる。
身体をくねらせた時、もっと捲れてしまったのだろう。
お尻は、もう、ネグリジェに覆われてはいない。木綿のショーツの、感触に変わっている。
薄い布一枚では、お尻の柔らかさと弾力を隠しきれていない。
「はぁ、はぁ、〈タロ〉様。また、私に意地悪されましたね。声を出せないようにされました。ベッドの中で、こんなにされたら、私はどうすれば良いのですか」
「ごめん。声を出せないように、したわけじゃないんだ。指を入れてみたかったんだよ」
「お分かりですか。口の中へ指を入れられたら、声は出せません。〈タロ〉様に、色々されるのが、決して嫌ではないのですよ。ただ、毎回言っているように、少し待って欲しいのです。今も、お尻を触っていらっしゃるし。私の限界を試しておられるのですか」
「すいません。でも、止まらないんだ」
僕はこう言いながらも、強引に〈クルス〉の唇を奪った。
〈クルス〉は、抵抗をする素振りはみせない。僕が、したいようにキスをさせてくれるようだ。
舌を口に中へ、差し入れても、一切抵抗がなかった。
〈クルス〉の舌を、何度も舌で愛撫しても、手は僕の背中に回されたままだ。
ただ、その手に力が入ったり、抜けたりするだけだ。
身体を、ピクピクと動かして、「あんん」「はぁん」と喘いでいるだけだ。
身体を僕に押しつけて、こすりつけて、くねらせているだけだ。
僕は、ショーツ越しにお尻を揉みながら、さらに、ネグリジェの胸元に手を挿し入れようとした。
「あん、はあん、〈タロ〉様、私は、もう身体に力が入らなくなりました。もう止めて、とは言いませんので、私の身体を自由にして良いですよ。最後までされても、私、怒ったりしません。ただ、怖いです。それに、少し悲しいです。どうかお願いします。優しくしてください」
僕は、キスを止めて、揉んでいる手も止めて、差し入れようとした手は引っ込めた。
〈クルス〉が、声を殺して泣いているようだ。また、やっちゃったな。
〈クルス〉の目尻を指で触ると、涙で少し濡れている。頬に流れた涙も、指で拭ってあげた。
「〈タロ〉様、私は良いのですよ。どうぞ、お好きなようにしてください。私にとっては、早いか遅いかの違いだけです」
「ごめん、またやり過ぎたよ。〈クルス〉が泣いているのに、これ以上出来ないよ。〈クルス〉が、悲しまないように、泣かないようにするのが、僕の役目なのに、すまない」
「うぅ、〈タロ〉様、ごめんなさい。もう少し、もう少ししたら、私、平気になりますから。もう少し、もう少しだけ、待っててください」
「〈クルス〉、無理しなくても良いんだよ。はっ、そう言いながら、僕が無理させているんだけど、ごめん。〈クルス〉が傍にいると、止まらないんだ。段々止まらなくなるんだ。でも、〈クルス〉を、怖がらせることや、悲しませるようなことは、決してしないと誓うよ」
「〈タロ〉様、私…… 」と僕にしがみつきながら、〈クルス〉は、もう少し泣いた。
僕は、〈クルス〉を抱き寄せながら、〈クルス〉の髪を撫でることしか出来ない。
〈クルス〉が、どうして泣いているのかは、僕はハッキリと分かっていない。
初めての経験が怖いのと、自分の意思を無視されるのが、原因だと思う。
僕が〈クルス〉を、どれだけ大切に扱っているかも、関係ある気がする。
ただ、〈クルス〉をこれ以上、泣かせるわけにはいかないのは、理解出来た。
「〈タロ〉様、私、泣き止みました。もう大丈夫です。誤解のないように、言っておきますが。私が泣いたのは、〈タロ〉様に酷いことをされると思って、泣いたのではないです。色々な感情が膨れ上がって、心が処理しきれなかっただけです。だから、〈タロ〉様、あまり気にしないでください。〈タロ〉様が、私に何も意地悪をされないのは、それはそれで、淋しくて悲しいのですよ。複雑なのです」
〈クルス〉が、難しいことを言うよ。本当に、女性の心は複雑で、分からないな。
これから、〈クルス〉の心が分かるようになる日が、果たして訪れるのだろうか。
「〈クルス〉、分かったよ。〈クルス〉が泣かない範囲で、意地悪をするように気をつけるよ」
「うふ、本当の意地悪は、しないでくださいね。ずいぶん時間が経ちましたので、灯りを点けますよ」
灯りがつくと、一番初めに〈クルス〉の顔が、浮かび上がってきた。
僕が、早く見たいと、望んでいたからだと思う。
〈クルス〉は、もう、泣いてはいない。ニコニコと笑っている。
ついさっきまで、泣いていたのにな。
僕は、〈クルス〉に啄ばむような軽いキスを、三回して、〈クルス〉の部屋を後にした。
回数に深い意味はない。〈クルス〉の表情が、そのぐらいと言ってた気がしたんだ。
〈クルス〉は、「お休みのキスですね」と笑って、僕を見送ってくれた。
ただ、帰っていく僕の背中に、〈クルス〉の手が、ずっと添えられていた。
何の合図だったんだろう。分からないな。
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