第201話 布団の中
ふー。見つかなくて良かったよ。僕達は、妹が出ていった後も、しばらく息を潜めていた。
布団の中で、〈クルス〉に密着するのは、苦にはならない。むしろ、望むところだ。
当然、〈クルス〉のむき出しの太ももから、指先も離さない。
〈クルス〉の肌の感触を、存分に味わいたいと思うのは仕方がない。
もう大丈夫と判断したんだろう。〈クルス〉が、僕の方へ身体を向けてきた。
「もう、〈タロ〉様。こんな時に私の足を触るなんて。それも指を微妙に動かして。私は声を押さえるのが、大変でしたよ」
「ごめん。動かしているつもりはなかったんだ。動いてた」
「えぇ、動いていました。私は、声を出した方が良かったのですか」
僕は、布団から頭を出して、〈クルス〉の顔を正面から見詰めた。
「すいません」
「はぁ、もう良いです。〈タロ〉様に、見詰められて、謝られたらもう怒れません」
「ははぁ、〈クルス〉の怒りが解けて良かったよ。それと、どうする。僕は、もう帰った方が良いのかな」
「まだです。今直ぐは危険です。少ししたら、妹が眠ると思いますので、それまで待ちましょう。それと、もう寝ると言いましたから、灯りを一旦落としますね」
〈クルス〉は、ベッドサイドの灯りも消して、部屋の中は真っ暗になった。
もう、〈クルス〉の顔も見えない。
しかし、僕の目の前に、〈クルス〉の肢体が至近距離で存在しているのは、痛いほど感じる。
〈クルス〉の身体が発する熱で、僕の身体がジリジリと焼かれていくような感じだ。
「〈クルス〉は、妹さんの質問に答えたみたいだけど、答えはなんだったの。妹さんは分かったようだけど、僕には分からなかったよ」
「それは、妹に言ったとおりですよ。〈タロ〉様に、命をかけられた霊薬を頂いたからです」
「妹さんは、霊薬ではないと、言ってたはずだ」
「妹は、ああ言いましたが、霊薬は私を劇的に変えてしまいました。私は、〈タロ〉様に霊薬を頂いたことで、壊れるほど魂が揺さぶられ、形を変えられたのだと思います。それは、美しくて幸せだけど、醜くて苦しいものです。ただ、妹が答えと思ったことは、私も理解出来ます。でもそれは、綺麗になったと自惚れているようで、私からは言い難いです。〈タロ〉様、ねぇ。言わなくても良いでしょう」
「分かったよ。もう聞かないよ」
「うふ、聞き分けの良い〈タロ〉様で良かった」
何だか、僕を、子供扱いしている気がするな。まあ、良いだろう。質問より、したいことがある。
まずは、〈クルス〉を抱きしめよう。二人とも寝転んでいるから、狙うのは首だな。
向き合っている〈クルス〉の首に、手を回そう。そして、キスしよう。
でも、首に差し入れようとしたはずの手が、〈クルス〉の鎖骨に突き当たってしまった。
暗いから、間違った。下過ぎた。
一瞬迷ったが、そのまま〈クルス〉の鎖骨を触ることにした。
今まで、〈クルス〉の鎖骨を触ったことはないからな。今が触る時だと思ったんだ。
〈クルス〉の鎖骨は、細すぎて簡単に折れそうだ。繊細過ぎる。華奢な身体だな。
僕が、守ってあげなくちゃいけないと思う。あまりにも、やわ過ぎて愛しくなってしまう。
指先で、鎖骨をなぞるように、すーっと、〈クルス〉の肌に僕の指を滑らせてみる。
「あっ、んうん」
〈クルス〉は、何かを耐えているように、小さな声で喘いだ。
〈クルス〉が、止めて欲しいとは言わないので、指先をもっと下の方で滑らせる。
「んうん、んんん」
〈クルス〉は、また、小さな声で喘いだ。
でもまだ、止めてとは言わないので、ネグリジェの中に、指を差し込んで滑らせてみる。
もう、乳房の外縁と言って良い場所だ。
皮膚の感じが変わって、柔らかくなった気がする。皮膚の下の脂肪が、厚くなった感じだ。
外縁とはいえ、〈クルス〉のおっぱいを、直に触るのは初めてだ。
でも、外縁はまだ、おっぱいじゃないだろう。
肩か。肩は確実に違う。首の下。首からは、離れすぎている。
首から胸までの、間の呼称が分からない。
僕は、どうでも良いことを考えながら、〈クルス〉のおっぱいの外縁に、ずっと指先を滑らし続けていたようだ。
「あっ、んうん。〈タロ〉様、もう止めて。ネグリジェの中まで、手を入れるなんて」
「あっ、ごめん。考え事をしてた」
「えっ、私が目の前にいるのに、他の事を考えていたのですか」
「違うよ。もちろん、考えていたのは、〈クルス〉のことだよ。さっきの答えを考えていたんだ」
「ふぅ、まだ考えられていたのですか。〈タロ〉様は、言わなくても良いと仰いましたよ。それに、〈タロ〉様は、もう答えをご存じです。私が以前から伝えています」
「えっ、そうなの」
僕が答えを知っている。妹に質問される前に、〈クルス〉が僕に伝えた。
どういうことだろう。分からんな。
「そうなのですよ。だから、〈タロ〉様が考える必要はありません」
〈クルス〉が、そう言うならそうなんだろう。
僕は考えるのを止めて、〈クルス〉の顔に手を伸ばした。〈クルス〉の声に向かって。
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