第199話 二回目
結婚式は、少しアレだったが無事終わり、〈リク〉と〈カリナ〉は晴れて夫婦となった。
目出度いことなんだろう。
大勢いた参列者は、もう殆ど帰っていった。
残っているのは、〈リク〉と〈カリナ〉夫婦に、その他となっている。
その他は、許嫁達と、〈アコ〉の母親と、〈リーツア〉さんと、〈カリタ〉と〈ドリー〉だ。
女性陣は、〈カリナ〉を囲んで、おしゃべりが止まらない。
〈リク〉は、横でニコニコと話を聞いている。
〈カリタ〉も、横でぼーとしている。泣き疲れたのか。
〈ウオィリ〉教師が、僕に早く帰れと、目で合図をしてくる。
皆が帰った後に、教会の後片付けと掃除が待っているのだろう。
「皆、迷惑だから帰るぞ。話の続きは、館に帰ってからしよう」
僕が、皆を促すと「はーい」という返事があって、やっと出口へ歩き出した。
歩きながらも、女性達はおしゃべりが止まらない。
館に着くのは、いつになることやら。はぁー。
午後からの執務の時間に、嬉しい報告が一つあった。
募集していた兵士の増員に、応募者が現れたとのことだ。
《ハバ》の町から、追い出された人の息子さん達だ。
人数は3人と少なく、十五歳以下の若者だけど、大変有難い話だ。
これで、王宮からの増兵要請に、確かな実績が残せる。
全く増えないのと、少しだけでも増えるのは、天と地ほど違う。
王宮の要請を無視してはいない。
少しずつでも応えようとしていると、好意的な印象に変わるはずだ。
ゼロは、何を掛けても、ゼロにしかならない。
ゼロでは、どうしようもないって言うことだ。
年齢が若いのは、これは逆に都合が良いことも多い。
年若で経験はないが、生半可な経験なら要らない。変な癖がついてて、邪魔になるだけだ。
何も染まってなくて、白紙で素直な方が、良い兵士になると思う。
「何も知りませんので、先輩教えてください」っていう態度なら、古参兵からも、可愛がられるんじゃないかな。
ただ、三人では少ない。もっと、増やす方法はないものか。悩むな。
夜の路地を忍び足で、〈クルス〉の部屋へと向かう。
二回目だけど、夜、女の子の部屋に忍び込むのは、やっぱりドキドキする。
少しの罪悪感と、これから起こること、今からすることへの期待で、興奮が治まらない。
〈クルス〉が、部屋に招き入れてくれないという、恐れも心をかき乱してくる。
鼓動を鎮め、冷静さを取り戻すため、何回か深呼吸を行う。
精神が落ち着いた後、積み木の階段から、雨樋に移って〈クルス〉の部屋の窓まで行った。
窓をコンコンと小さく叩くと、〈クルス〉がカギを外して、窓を開けてくれる。
〈クルス〉は、待っていてくれた。安堵感が僕を包む。
前回と同様、小さな灯りが一つ、ベッドサイドに置かれてあるだけで、薄暗い部屋だ。
〈クルス〉の顔も、着ている寝間着も薄っすらしか見えない。
〈クルス〉が今着ているのは、前回着ていた、青っぽいパジャマではないようだ。
〈クルス〉に近づいて、良く見ると今着ているのは、ネグリジェと呼ばれるタイプの寝間着のようだ。
ワンピース型で、ゆったりとしたシルエットになっている。半袖で、丈は膝ぐらいだ。
身体を締め付けないためか、夏用のためか、胸元は開いて、薄い生地で作られている。
「〈タロ〉様、こんばんは」
「〈クルス〉、こんばんは。寝間着が前とは違うね。今日のも良く似合っているよ」
「あっ、似合っていますか。ありがとうございます。でも、〈タロ〉様、あんまり見ないでくださいね」
「どうしてなの」
「先ほど、やっぱりこれを着ようと、着替えたのですが。思った以上に透けているのです。それに胸元が空きすぎています」
「本当」
〈クルス〉の胸元を、もう一度良く見ると、確かに空いてはいる。
でも、ゆったりとしているだけで、乳房が見えるほどは空いていない。
この程度でも、〈クルス〉にとっては冒険なんだろう。
透ける方はというと、透けてはいるが、透けて見えるのは下着のスリップだ。
そもそも薄暗くて、ハッキリとは見えない。
そんなに、大したことでも無いな。
「〈タロ〉様、見ないで言ったのに。逆に見るなんて酷いです」
「ごめん。出来るだけ、見ないようにするよ。それより、〈クルス〉の顔を見せてよ」
「はい」
〈クルス〉は、少しもじもじしながら、僕に顔を近づけてきた。
〈クルス〉は、白粉を塗ったのか、顔は白く浮き上がって、中心に赤い唇を咲かせている。
僕は、〈クルス〉の顎を、指で上に向かせて言った。
「お化粧してくれたんだね。〈クルス〉、とても綺麗だよ」
「私、お化粧して、ずっと〈タロ〉様のことを、考えながら待っていました」
僕は、〈クルス〉の唇に軽く唇を押し付けて、優しく唇を吸った。
角度を変えながら、何回か繰り返した。繰り返したけど、優しいままだ。
優しく吸ったので、音は「チュ」「チュ」という、軽く乾いた音になった。
最初は、これ位から始めるのが、適切なんだろうか。
僕は、もっと〈クルス〉を求めている感じの、濃厚なキスがしたいな。
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