第197話 花冠

 〈リク〉と〈カリナ〉の結婚式が始まった。

 空は青く晴れ渡り、上空を雲がゆっくりと流れていく。

 これからの二人が、明るい気持ちを持ち続けていけそうな、式を挙げるのには最高の日となった。


 〈リク〉は、黒っぽい軍服みたいなのに、〈カリナ〉は純白のドレスに身を包んでいる。


 〈カリナ〉の髪を彩るのは、黄色の小花で作られた、自作の花冠だ。

 式の前日に、思いを込めて作ったものだと、聞いている。

 許嫁達も、お手伝いを申し出て、花を集めるのを手伝ったそうだ。

 他の人の結婚式であっても、それは、それは楽しいものらしい。


 この花冠は、〈カリナ〉を、今この時だけ、物語のヒロインに仕立て上げている。

 〈カリナ〉の晴れの舞台だ。

 〈リク〉の方は、何て言うのかな。花嫁だけでは、収まりが悪いから、単に添え物だな。


 僕の領主としての祝辞は、さっきようやく終わって、やれやれの気分だ。

 二か所ほど噛んだけど、多分、許容範囲だろう。


 今は、〈ウオィリ〉教師の先導で、誓いの契約書にサインをしているところだ。

 結婚するための契約書か。何だかすごく恐ろしい。雁字搦めに縛られる気がするな。


 大勢の人が、参列している。多過ぎるくらいだ。

 教会は、ギュウギュウ詰めで、暑苦しくて汗が出てきた。


 〈リーツア〉さんと、〈カリタ〉は肉親だけど、なぜか、〈ドリー〉が肉親の席にドーンと座っている。

 〈ドリー〉のお尻は、〈アコ〉より一回り大きいという、超横綱級だ。

 ドーンという表現になってしまうのは、許されると思う。


 重臣達と臣下の大部分は、同僚ということで出席しているし、鍛冶屋の〈フィイコ〉は友達枠だ。

 魔王が、教会に存在していいのか。自分のキャラクターを見失っているな。


 当然、許嫁達も参列している。

 三人とも、花嫁より目立たないように、落ち着いた感じのドレスを着ているし、お化粧や装身具も控えめだ。


 ただ、それでも、三人ともすごく綺麗で、人目を引いていると思う。


 「まずいぞ、三人とも綺麗過ぎて、花嫁が霞んじゃうよ」と思わず言ってしまった。


 「私が自分で言うのも、何ですが。〈タロ〉様、さすがにそれは、違いますわ。〈カリナ〉さんは、とても美しく輝いていますから、決して霞んだりしていません」


 「〈タロ〉様に、綺麗と言って貰えるのは、嬉しいのですが。今日の主役は〈カリナ〉さんです。私達は、脇役ですから、目立ったりしていませんよ。〈タロ〉様は、〈カリナ〉さんをちゃんと見てあげてください」


 「〈タロ〉様は、私達しか目に入っていないの。それは嬉しいんだけど、ちょっぴり心配になるよ。〈カリナ〉さん、あんなに綺麗なのに、それが分からないんだ。〈タロ〉様、目は大丈夫」


 許嫁達に言われて、良く見れば、〈カリナ〉はキラキラした目になって、輝いている気もする。

 華やかさが増して、いつもより、倍綺麗かも知れない。


 許嫁達も、それほど目立っていない。もっと、派手な晴着を着ている女性も、チラホラ見える。

 でも、許嫁達が、飛び抜けているのは、事実だからしょうがない。

 まあ、本人達に、面と向かって綺麗だと言っても、「そのとおりです」とは言えないからな。

 あまり気にしないでおこう。


 式は、クライマックスを迎えて、〈リク〉と〈カリナ〉が、向かい合って互いを見つめ合っている。

 これから、相手の誓いの契約書をロウソクの炎で、燃やす儀式を始めるようだ。

 相手の契約書を燃やすことで、「私は契約書がなくても、あなたを信頼します」という意味になるらしい。

 反対に、契約書を燃やすことで、神に契約書を奉納するという意味もあるようだ。


 一体、契約書はあるのか、ないのか、どっちなんだろう。

 まあ、単に儀式だから、どちらでも良いと言うことか。


 二人が、ロウソクで火をつけると、契約書は紅蓮の炎に包まれて、驚くほど大きく燃え上がった。 契約書の紙に、何か細工がしてあるようだ。

 教会が、演出効果を高めるために、長年研究してきた成果なんだろう。


 参列者から、「わー」「おー」という歓声が起こって、やがて大きな拍手に変わった。


 〈カリナ〉は、感動して泣いているし、良く見ると〈リク〉も目尻に涙が溜まっている。

 えっ、〈リク〉も泣くのか。そんなに、感動するものなのか。


 僕は、絶対泣かないでおこう。こういうのは、クールに決めたいものだ。

 泣けば、負けたような気になる。


 〈リーツア〉さんと、〈カリタ〉と〈ドリー〉も泣いている。

 〈カリタ〉は「おんおん」と五月蠅いくらいに泣いている。

 自分の式でもないのに、邪魔になるヤツだよ。本当に、コイツは困ったもんだ。


 それと、〈ドリー〉が泣いているのはなぜだ。

 自身も結婚がほぼ決まったから、もう悲しくないはずだ。年の順番を抜かされたからか。

 女性の思いは、皆目分からないな。


 あとの参列者は、皆にこやかに笑っている。

 〈リク〉と〈カリナ〉の結婚式は、皆に祝福されて、良い式になったよ。有難いことだ。


 式の最後は、花嫁が着けていた花冠を、投げ渡すという儀式だ。

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