第195話 私のスキルは《遠聞》

 「うーん、それは嫌です。私からするのは、恥ずかしいですわ。〈タロ〉様から、してください」


 「こんなに暗いんだから、何も恥ずかしくないよ」


 「暗くても、私からは嫌なんです。私、して頂けるのを待ってますわ」


 そう言いながらも、〈アコ〉は、僕の顔間際まで、自分の顔を近づけてきた。


 〈アコ〉の顔は、月光に照らされて、淡く輝いている。

 薄くだが、お化粧もしているようだ。

 淡く赤く塗られた唇が、待ちきれないのか、僅かに開いて吐息を漏らしている。


 どうして、〈アコ〉は自分からは、しないのだろう。恥ずかしいだけが、理由でないように思う。

 もっと僕と親密になれば、〈アコ〉から、してくる時もあるんだろうか。

 女性の考えていることは、皆目分からないな。


 今、分かるのは、〈アコ〉が僕のキスを待っていることだけだ。


 僕は、〈アコ〉の唇を遠慮なしに吸った。

 暗いからか、待たされたからか、怒っているからか、とにかく遠慮せずにだ。


 「チュッパ」「チュッパ」っていう、〈アコ〉の唇を吸う音が、夜の屋上に響いていた。

 僕は、月光に照らされて、〈アコ〉の唇を何回も吸って、何度も音を響かせた。


 「はぁっ、はん、〈タロ〉様。そんなに強く吸わないで。激し過ぎますわ。それに音が。音が誰かに聞かれそうで心配です」


 〈アコ〉の言うとおり、確かに音が、いやに響いていたな。

 暗くて、遮る物が何もない、屋上のせいもあるんだろう。


 念のためだ、声も落として話そう。

 僕は、〈アコ〉の耳元に、声を低くして話しかけた。少し湿った、囁くような声だ。

 「待たされたから、抑えが効かなくなったんだ」


 「あっ、んんんん、キスしたら、許して下さるのでは、なかったのですか」


 僕が囁くと、〈アコ〉の身体がピクンとなって、鼻にかかった、辛いような、悩ましいような声を出した。どうしたのだろう。


 「それは、許しているよ。でも、抑えられないんだ」


 「んん、情熱的にされるのが、嫌なわけじゃないのですが。もう少しだけ、優しく扱って欲しいですわ」


 また、〈アコ〉の身体がピクンとなって、もっと、辛いような声になった。

 身体も熱くなった気がする。

 湯冷めして、風邪でも引いたのか。


 「分かったよ。でも、情熱的と優しいの、割合が分からないな」


 「んん、それは、気持ちの問題ですわ。先程の〈タロ〉様は、優しくなかったです。少し怒っていらした気がします」


 「〈アコ〉に、怒ってはいないけど、少しイライラしてたかも知れないな。気をつけるよ。それと、〈アコ〉の身体が熱くなってきた気がするけど、大丈夫かい。風を引いたんじゃないか」


 「んん、私の身体、熱くなっていますの」


 「うん、熱いよ。どうしたんだ」


 「んん、私のスキルは《遠聞》なので、声に敏感なのですわ。大好きな人に、低い声で耳に響くように囁かれたので、私の身体が反応してしまったようです。だから、〈タロ〉様のせいなんです」


 「そうなんだ。知らなかったよ」


 「んん、私もこれほど弱いとは、今、知りましたわ」


 風邪じゃないのなら、続きをさせて貰おう。優しくと言われたから、少しは遠慮するか。

 大切な〈アコ〉の言うことを、無視するのは良くない。


 「〈アコ〉、好きだよ。〈アコ〉とキスが、もっとしたい」


 「んん、私も〈タロ〉様が好きですわ。もっと、してください」


 今度は、ゆっくりと〈アコ〉の上唇と下唇を、交互に唇で挟むように愛撫して、吸ってみた。

 ゆっくりだけど、何度も繰り返し、繰り返しだ。


 繰り返すうちに、〈アコ〉も僕の唇を、恐る恐るだけど、少し吸ってくれた。

 〈アコ〉の反応が嬉しい。身体もすごく熱くなって、手は僕の背中を切なそうに弄っている。

 〈アコ〉との親密さが、一気に増したような気がするな。


 「あっ、あん、今度はそんな。あん、唇を責めないで。堪らなくなりますわ」


 〈アコ〉は、分かって言っているのかな。

 堪らないと言われたら、僕も堪らなくなる。


 〈アコ〉の唇を、繰り返し愛撫しながら、僕は〈アコ〉のおっぱいに、手を伸ばす。

 目の前に、どーんとあるんだから、辛抱できるはずがない。

 自制心は月光に溶けて砕けて、もう欠片しか残っていない。

 野獣じゃないから、欠片はあるんだ。欠片だけど。


 欠片を頼りに、乱暴にならないように慎重に触っていこう。

 まずは、おっぱいの外側から、円を描くように触っていこう。

 両手を使って、左右同時に左右平等にだ。

 右利きだからといって、右のおっぱいだけを、依怙贔屓してはいけない。

 左右で大きさが、違うようになったら悲しい。


 先っぽを最後に触る感じで、螺旋を描くことを意識しよう。

 〈アコ〉にも、最後は先っぽを責められことを、意識させたい。

 超大なバベルの塔の円周を回り、最後は神への頂きに達するごとくだ。


 螺旋を意識して、おっぱいをサワサワと触っていって、最後は先っぽを触った。

 しこりのように固くなった、先っぽのそのまた、先端を優しく撫でてみた。


 「あはん、いやっ、いやっ、〈タロ〉様。そんなとこ、触らないでください。私、困りますわ」


 〈アコ〉は、少し息遣いを荒くして、切なそうな声で言った。


 「困りますわ」が、色っぽい声になっているけど、何を困っているのかな。

 もっと、困らせてみたいぞ。


 続けて触ろうとしたら、〈アコ〉は、両手でおっぱいを隠してしまった。なぜだ。

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