第192話 三人の守り手
〈アコ〉と〈クルス〉は、僕の左右両脇で、最初から決まりだ。指定席みたいなもんだな。
ここで、〈サトミ〉の座る場所が問題だ。どこに座らせたら良いんだろう。
三人一緒だと難しい。
悩んでいたら、〈サトミ〉は僕の股の間に、ちょこんと座った。
正確には、股の間ではない。股の延長線上の場所だ。
自分の椅子を、僕の椅子に引っ付けて、僕の方を向いて座っている。
まあ、ここが最善かも知れないな。
〈サトミ〉が、良いならそれが一番だ。
僕達は、まず塩魚から食べることにした。
鯖みたいな魚を塩付けにして、炭火で焼いた簡単な料理だ。
脂がのってて、臭みもなく、大変美味しい。鮮度が良い魚を使っているのだろう。
これは、十分商売になると思う。
少し塩辛いから、酒の肴にも最高じゃないかな。
次に、干物を食べてみた。
これも、大変美味しい。干したことによって、アミノ酸=旨味成分が増加したんだろう。
魚の種類も、大中小とバリエーションがあって、料理の用途によって選択出来そうだ。
これも、十分商売になると思う。
酒を出す店へ、売れそうだ。干物は、酒のあてにあるようなもんだしな。
「〈タロ〉様、このお魚、とても美味ですわ。あまり、お魚を食べたことはありませんが、また食べたくなりますね」
「私も、気に入りました。今度、塩魚と干物を、使った料理を作ってみたいです」
「〈サトミ〉は、お魚がこんなに美味しいなんて、知らなかったよ。〈タロ〉様は、どっちが美味しかった」
「そうだな。干物の方が好みだな。塩魚より、味が深い気がするんだ」
「あはっ、〈タロ〉様の好み、〈サトミ〉と同じだ」
「私も、干物ですわ。種類が、色々あるのが良いです」
「私も干物派にしときます。料理のことを考えると、干物の方が使いやすい気がします」
「皆、無理に、僕と合わせなくても良いんだよ」
「私は、少しぐらいの差でしたら、〈タロ〉様と合わせたいのですわ」
「それは、無理にでも、〈タロ〉様と同じ方にしますよ」
「そうだよ。〈サトミ〉は、〈タロ〉様と好みが違うのは嫌だよ」
「そうか。そう言われると、何だか嬉しいな」
「うふふ。私はこれから、〈タロ〉様と、ずっと暮らしていくのですよ。合わせられることは、〈タロ〉様に合わせますわ」
「ふふふ、私は、〈タロ〉様と同じ方が、単純に嬉しいのです。無理やりにでも、合わせてみせますよ」
「へへっ、〈サトミ〉は、〈タロ〉様が好きな方を、好きになっちゃうんだ」
三人とも、嬉しいことを言ってくれる。
何だか、胸の奥がジーンとして、涙が出そうだ。
直ぐにでも、許嫁達を抱きしめたいけど、三人一緒では難しいな。
ここでは、人の目もあるしな。
「ご領主様、こんなとこに、隠れていやしたか。あたいの自慢の魚は、どうだった」
急に話しかけられて、身体と心臓が、ビクンとした。
〈入り江の姉御〉と分かって、さらにビクビクとしてしまった。
〈入り江の姉御〉は、夜になって着替えたのか、黄色のロングドレスみたいのを着ている。
身体の凹凸が、ダイレクトに表に出るようなドレスだ。
おまけに、サイドの長いスリットから、引き締まった太ももが見えている。
漁で、強靭な下半身が鍛えられたんだろう。
姿勢がスッと伸びているのも、体幹が強いからだと思う。
この身体と厚い化粧の相乗効果で、アラサーに化けられるんだな。
単純に、効能が高い木の葉を、使っただけかも知れないけど。
「塩魚も、干物も、とても美味しかったよ。さすがは、姉御だ。素晴らしい魚だな」
「おほほっほ、よせやい。そんなに、褒められちゃ、色んなものが出ちゃうよ。ご領主様なら、あたいを、美味しく頂いてもいいんだぜ」
〈入り江の姉御〉は、付け刃のお上品っぽい呪文を吐きながら、僕に迫ってくる。
また、心臓とどこかが、ビクンビクンとしてしまった。
許嫁達は、むっとした表情で〈入り江の姉御〉を睨みつけた。
〈アコ〉と〈クルス〉は、左右から僕の腕にしがみつき、〈サトミ〉は、僕のズボンを固く握りしめている。
「ふっ、ご領主様の守り手は、三人もいなさるんだな。今日は分が悪いや。だけどな。あたいの言の葉が、最後はご領主様へ届くっていう寸法さ。いつも、色々洗って待ってるんだぜ。ご領主様は、つれねぇな」
背筋とあそこが、ぞっとするよ。心とあそこが、縮こまってしまった。
いつか、呪文の言葉で、僕の守りが突破されそうで怖い。
そうなったら、どうしよう。
「〈タロ〉様、もう大丈夫です。去っていきましたわ」
「〈タロ〉様、気を確かに。しっかりしてください」
「〈タロ〉様、負けないで。〈サトミ〉がついてるよ」
〈アコ〉と〈クルス〉は、僕の腕に乳房を押し付けて、姉御の幻術から防いでくれている。
〈サトミ〉は、僕の股間を触って、姉御の魔の手から守ってくれていた。
〈サトミ〉は、危険を察知して、無意識に敵の狙いを潰しにいったようだ。
くれぐれも、本当に潰さないようにしてくれよ。
〈サトミ〉にも、いずれ必要になるんだから。
頼むよ。お願いします。
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