第189話 オレンジ色のワンピース

 「それでは、〈タロ〉様。私、帰りますね」


 「帰る前に聞きたいんだけど。二人で逢える時間を、何とか作れないかな」


 「私も、二人切りで逢いたいのですけど。うーん、そうですわ。

 そういえば、この間、母が〈クルス〉ちゃんの家へ、遊びに行きました。

 また、遊びに行くかも知れません」


 「そうのなのか。どのくらいの時間に行ったの」


 「夕食後直ぐですね。お酒も飲んで、結構遅くまで、帰ってきませんでしたわ」


 「それは良いな。お母さんが、遊びに行ったら、館の屋上で逢えないかな」


 「はい。分かりましたわ。母が遊ぶに行く時は、お伝えます。楽しみです」


 心の傷が治ったためか、また二人で逢えそうなためか、〈アコ〉は上機嫌で、ニコニコしている。

 でも、僕の部屋を出て行く時は、嬉しそうにしていたが、少し悲しそうでもあった。


 僕も、嬉しい。やっと、パンツが着替えられる。

 でも、部分的に湿ったパンツが、やけにいじらしい。


 今日は、塩魚と干物の試食会だ。

 昼食を食べて直ぐに、夜の試食会へ向けて、皆が準備を始めている。


〈入り江の姉御〉と母親が、大量の塩魚と干物を持ち込んできたんだ。

〈入り江の姉御〉と母親は、手ぶらで、血反吐を吐かされた兄弟が、大量の魚を運ばされている。

 陸の上でも容赦がないな。可哀そうで、見てられないよ。

 妖狐に、使役されているゾンビにしか見えない。


 《ハバ》の町から追い払われた女性達も、ワイワイ言いながら、炭をおこしている。


 〈アコ〉の母親と、〈リーツア〉さん、〈クサィン〉の奥さんの三人も、真っ白な割烹着みたいのを着て、何だかとても張り切っている。

 学園祭のようなノリに、なっているみたいだ。

 同年代の友達が、新たに出来て、同窓会みたいなノリになっているのかも知れない。

 どちらにしても、どうでも良い。

 ただ、また三人で遊んでくれたら、〈アコ〉と逢えるから、仲良くして欲しいと思う。


 元ハバの女性達と合流して、おしゃべりがもうバリバリの騒音だ。

 五月蠅くて、とても近くにはいてられない。これは、さっさと逃げるしかないな。


 〈入り江の姉御〉に、また魚を貰ったので、小屋の方へ行ってみよう。


 早速、魚の匂いを嗅ぎつけた、〈トラ〉と〈ドラ〉が、「ウミャー、ウミャー」と鳴きながら、駆け寄ってきた。

 その後ろから、「〈タロ〉様」と僕を呼びながら、〈サトミ〉も走ってきた。


 〈サトミ〉は、顔に笑みがこぼれて、高原に咲く可憐な花のようだ。

 〈トラ〉と〈ドラ〉は、犬歯を口からむき出して、森に住む獰猛な獣のようだ。


 僕の足に、爪を立てて、ガシガシと噛んでいる。普通に痛いぞ。止めてくれよ。

 爪で引っかかれて、犬歯も刺さって、多分血が滲んでいると思う。


 「〈タロ〉様、お魚を、また持ってきてくれたのですか」


 「そうだよ。また、貰ったんだよ」


 「〈タロ〉様、ありがとう。それじゃ、〈トラ〉と〈ドラ〉に、あげるね」


 〈トラ〉と〈ドラ〉は、「フギャー」と唸りながら、鯛に似た魚にかぶりつきだした。


 「アハハ、大きなヒレに棘があるから、気をつくて食べなさいよ」


 〈サトミ〉は、〈トラ〉と〈ドラ〉の母親みたいだな。

 しゃがみ込んで、見ている様子が、慈愛に満ちているよ。


 しゃがんだからか、足が一杯見えているぞ。

 これは、ちょっと見え過ぎだろう。


 「〈サトミ〉、今着ている服は、初めて見るな」


 「あはっ、〈タロ〉様、気づいてくれたんだ。

 雑貨屋のおばちゃんが、この服は〈サトミ〉に似合うって、取っておいてくれたんだよ。

 〈タロ〉様も、きっと気に入るだろうって言ってたの。〈タロ〉様、気に入った」


 〈サトミ〉の服は、鮮やかのオレンジ色で半袖のワンピースだ。

 襟や裾にフリルがついていて、胸元に白いリボンがあしらわれた、キュートなデザインになっている。


 ただ、丈が極端に短い。膝上十五センチ以上、あるんじゃないのか。

 許嫁のミニ姿を、見れるとは思わなかった。皆、結構スカートの丈は長いからな。

〈サトミ〉のキュートな足が、一杯見られて、超ラッキーだ。


 でも、こんな短い服を着た人を、他で見たことがないぞ。

 いや、ヨヨ先生と、〈華咲服店〉の〈ベート〉は、これぐらいの丈のを、着ていた気がする。

 ただ、あの二人は、ちょっといってしまっているからな。比較対象には、なりえないな。


 〈サトミ〉は、雑貨屋のおばちゃんに、騙されていると思う。

 いや、確かに似合っているし、僕が気にいったのも合っている。

 騙されたと、までは言えないか。


 でも、王都の古着を取っておいって言うのは、違うと思う。

 売れ残りを押し付けたのは、間違いないんじゃないのかな。


 〈サトミ〉が着ている、オレンジ色のワンピースは、多分子供用の服だ。

 子供だけど、大柄な女の子が着ていたんだと思う。

 それで、色やデザインが、少し子供っぽくて、丈が短いんだ。

 〈サトミ〉は、小っちゃいから、ちょうどサイズがあったんだろう。


 問題は、極端に短い丈だ。〈サトミ〉の太ももを、他のヤツらが見るのが気に入らない。

 激しい動きをしたら、この丈では下着も見えてしまう。


 僕の独占欲がキリキリ軋むんだ。

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