第185話 怖い顔の人達に捕まった

 「あわわわわわ、〈ドリー〉が苦しんでいるのですか。私はどうすれば良いのですか」


 「正直な気持ちを伝えてください。〈ドリー〉さんは、ずっと待っていますわ」


 「これから、〈ドリー〉さんと、どうなりたいのかを、必ず伝えてください。

 〈ドリー〉さんを、安心させてあげてください」


 「〈ドリー〉さんを、優しく抱きしめてあげてね。

 〈ドリー〉さんは、今、メイドの控室で休憩中だよ」


 「〈カリタ〉、今直ぐに、控室に突進しろ。〈ドリー〉に、突撃しろ」


 「はいいいいいい」


 〈カリタ〉は、変な奇声を発しながら、大広間を走り出ていった。

 気合を入れる言葉かと思ったが、返事だったのかも知れない。


 許嫁達が、あまりに怖かったんだろう、僕の指示に素直に従ったな。

 怒り狂っている許嫁達と、直ぐに離れたかったんだと思う。

 〈ドリー〉とあって、安心したかったのかも知れないな。


 鍛冶屋の〈フィイコ〉が、ニタニタ笑いながら、〈カリタ〉を追いかけていった。

 本日のメインイベントの、〈カリタ〉の〈ドリー〉への告白を見に行ったんだろう。


 許嫁と僕とのやり取りも、ニタリニタリと笑いながら見ていた気がする。

 魔王だから、負のエネルギーが好物なんだと思う。


 メインイベントは外せないな、僕も見に行こう。

 大広間を出ようとしたら、怖い顔の人達に捕まった。


 許嫁達が強張った顔で、僕の両手と服の後ろを掴んでいる。

 手を掴んでいる〈アコ〉と〈クルス〉は、僕をきつく睨んでいる。

 見えないけど、後ろにいる〈サトミ〉も睨んでいると、容易に想像出来た。


 作戦は成功したのに、どういうわけだ。

 怖いよ。どうしょう。助けてください。またまた、少しチビってしまった。


 「〈タロ〉様、婚約解消と仰いましたね。許せませんわ」


 「〈タロ〉様は、私達を引き留めないのですか。その程度の思いだったのですか」


 「〈タロ〉様は、〈サトミ〉達とは赤の他人なんだ。前からそう思っていたの」


 「うへっ、違うだろう。説明したよな。これは作戦だ。お芝居だよ。嘘だよ」


 「お芝居でも、言って良いことと悪いことが、ありますわ」


 「説明では、ここまで酷いことを言われるとは聞いていません」


 「嘘でも、言い過ぎだよ」


 「あれ、あれ、あれれ、まさか怒っているの」


 「怒っていますわ。当然です。酷く傷つきました」


 「私も、これほど〈タロ〉様に怒りを覚えたのは、初めてです。これほど辛いのも初めてです」


 「〈サトミ〉も、ものすごく怒っているよ。それで、ものすごく悲しいんだ」


 三人は、僕にすがりつきながら、また泣き出した。

 大変困った。どうしょう。チビったパンツも代えられないぞ。


 三人は、僕にすがりついたまま、一歩も動こうとしないので、仕方なく大広間の床に座った。

 〈アコ〉と〈クルス〉を両脇に抱えて、〈サトミ〉は僕の足の間に座らせた。

 〈サトミ〉には、我慢して貰おう。


 泣き止まない三人の頭を、順番に撫でながら、

 「ごめん」「すいません」「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。

 それでも三人は、泣き止まない。


 「お芝居でも、あんなことは言いたく無かった」「〈タロ〉様に酷い言葉を言うのが辛かった」「本当になったらどうしょう」と泣きじゃくりながら、訴えてきた。


 「もうあんなことは、させないよ」「僕も酷いことを言い過ぎた」

 「本当になんか絶対しないよ」と返しながら、僕は頭を撫でることぐらいしか思いつかない。


 しばらくしたら、やっと泣き止んでくれた。

 そこへ、〈ドリー〉と〈カリタ〉が、慌てて駆け込んできた。


 〈ドリー〉も、泣いている。ただ、表情は輝いて見えた。

 作戦の成功は、ほぼ間違いないと思っていたけど、これで確信に変わった。


 〈カリタ〉も、泣いている。コイツの表情はどうでもいい。省略。

 〈ドリー〉は、泣きはらした目の許嫁達を見て、ハッとしたようだ。


 〈ドリー〉は深々と頭を下げながら、

 「〈タロ〉様、今回は私達のために、お手数をおかけしました。ありがとうございました。

 許嫁の皆様にも、助けて頂いて、大変ありがとうございます。

 それに辛い思いをさせてしまって、心よりお詫び申し上げます。本当に申し訳ございません」

 とお礼と謝罪を言ってきた。


 〈カリタ〉も、〈ドリー〉に合わせて頭を下げているが、状況を理解出来ていないようだ。

 「あ、えぇ、あ、えぇ」と意味不明の音を発している。


 〈ドリー〉の伴侶は、本当にコイツで良かったのかな。

 今なら、まだやり直せるぞ、〈ドリー〉。


 「〈ドリー〉、良かったな。僕達のことは、気にしないでくれ。心配するほどのことじゃないよ」


 「顔が輝いているよ、〈ドリー〉さん。〈サトミ〉も嬉しいよ」


 「私達は、もう大丈夫です。少し感情が、高ぶっただけですわ。

 〈ドリー〉さん、幸せになって良かったですね」


 「〈ドリー〉さんの、元気になった顔を見られて良かったです。

 私達のことは、心配しないでください」


 許嫁達は、〈ドリー〉へ、ニコニコと笑顔を向けて、上手くいったことを喜んでいる。

 やっと機嫌が直ったようだ。一時は、どうなるかと思ったよ。良かった。

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