第179話 〈サトミ〉との約束

 扉を叩いたら、〈クルス〉が少し驚いてから、慌てて中に入れてくれた。


 「〈タロ〉様、食事会は終わったのですか」


 「いいや。まだ、皆はお酒を飲んでいるよ」


 「〈タロ〉様、逢いにきて頂いて嬉しいのですが、夜はちょっと」


 「少しくらいなら、大丈夫だよ。

 〈クルス〉が、直ぐ上にいるのに逢えないなんて、僕は我慢出来ないよ」


 「でも、あっ」


 僕は、〈クルス〉が何か言う前に、〈クルス〉を抱き寄せて〈クルス〉の唇を少し強引に奪った。


 「もお、〈タロ〉様、お酒くさい。酔っぱらって、キスをしたくなったのですか」


 〈クルス〉は、少し拗ねたように僕の胸を押して、僕との距離をとった。


 僕は少し焦って、

 「そんなことは無いよ。お酒は少ししか飲んでいないよ。全然酔ってないよ」

 と〈クルス〉に弁解する。


 「それではどうして、私にキスをしたのですか」


 「それは、〈クルス〉のことが好きだからに決まっているさ」


 「ふふふ、私も〈タロ〉様が好きです」


 僕は、もう一度〈クルス〉を抱き寄せて〈クルス〉の唇に唇を少し強く押しつけた。

 そして、〈クルス〉の唇を少し強く愛撫した。


 「んんう、〈タロ〉様、もう戻らないと、誰かに気づかれてしまいます」


 今度は、少し悲しそうに僕の胸を押して、〈クルス〉は距離をとった。


 「そうだな。でも、もっと逢いたいな。良い方法が無いかな」


 僕は、この家の構造を思い出して、〈クルス〉に聞いた。


 「確か、北側の窓の外は路地があるんだね」


 「そうですけど。それが何か」


 僕は窓を開けて、外を見た。丁度、丈夫そうな雨樋があるから、登れそうだな。


 「今度、雨樋を伝ってこの部屋に来るよ。その前に連絡するよ」


 「えっ、そんなの、危ないです」


 まあ、良い案とは言わないよな。

 僕は、〈クルス〉の危惧に返事はしないで、食堂に戻った。

 ここで、〈クルス〉と押し問答をするわけにはいかない。


 食堂に戻ると、皆は結構酔っぱらって、ガヤガヤと喋っていた。

 僕が、そっと席に戻ったことを、気にする人はいない。

 気づかれないのは良かったけど、領主なのに、影が薄いことに気づかされた。

 僕って、そんなもんなんだ。


 次の日は、朝から鍛錬。昼から執務だ。

 夏休みも半分以上過ぎたのに、これが毎日だと思うと憂鬱だ。

 ぞっとする。


 夕方近くにやっと解放された。やれやれだ。

 背中を伸ばしたら、身体が気持ちいい。許嫁に逢いたいな。

 鼻の下を伸ばして、気持ち良くさせたいな。


 そうだ、魚が手に入ったんだから、〈サトミ〉との約束を果たさなきゃ。


 〈サトミ〉を探して、厩舎にいったがいない。

 どこにいる。〈サトミ〉の家に行くのは、この前キスしたから何だか行きにくいな。

 小屋にいってみよう。


 持ってきた魚の匂いを嗅ぎつけたのか、〈トラ〉と〈ドラ〉が、「ウミャー、ウミャー」と鳴きながら、駆け寄ってきた。

 猫の後ろから、「アハハ」と笑いながら〈サトミ〉も駆け寄ってきた。


 「〈タロ〉様、私に何かご用ですか」


 「とても、大事なご用なんだ。〈サトミ〉の顔を見に来たんだよ」


 「もうもう、〈タロ〉様ひどいよ。〈サトミ〉をからかわないで」


 〈サトミ〉は顔をピンクにして、ぷんぷんと怒っている。

 ポコッとほっぺを膨らませて、なんて可愛いヤツなんだ。


 「〈サトミ〉の顔を見に来たのは本当だよ。それと、約束の魚を持ってきたんだ」


 「えへぇ、〈サトミ〉との約束覚えていてくれたんだ。〈タロ〉様、ありがとう」


 「いや、貰ったものだから、気にしないでくれよ」


 〈トラ〉と〈ドラ〉は、待ちきれないのか、さっきから僕の脚をガブガブ噛んでいる。

 止めてくれ。結構痛いぞ。

 ハマチに似た青魚を与えたら、フーフーと興奮してかぶりついた。


 「アハハ、お魚が大きいから、〈トラ〉と〈ドラ〉が悩んでいるよ」


 〈サトミ〉は、しゃがみ込んで、〈トラ〉と〈ドラ〉を愛おしそうに見ている。

 〈トラ〉と〈ドラ〉が、〈サトミ〉の傍にいてくれて良かった。

 また、魚が手に入ったら持ってくるから、〈サトミ〉を頼んだぞ。


 今日の〈サトミ〉は、白い半袖のブラウスを着ている。

 これが、〈サヤ〉のおさがりのようで、〈サトミ〉には少し大きい。

 しゃがんでいる〈サトミ〉を上から見下ろすと、胸元から下着の白いスリップがかなり見えている。


 もっと、良く見ると、胸の膨らみの三分の一くらいが見えている。

 下着のスリップも、〈サヤ〉のおさがりのようだ。


 猫にさかなを持ってきたら、〈サトミ〉がおかずを提供してくれた。

 僕は、フーフーと興奮して、〈サトミ〉の胸元をかぶりつきで見せて貰ってた。


 「〈タロ〉様、今、〈サトミ〉の胸見てましたね」


 〈サトミ〉は、パッと胸を両手で隠して、僕をジト目で可愛く睨んできた。


 「あっ、いや。ごめん。〈サトミ〉が可愛いから、どうしても見たくなるんだよ」


 「〈タロ〉様は、〈サトミ〉の胸に興味があるんですね」


 〈サトミ〉は、胸を両手で隠したまま、顔をピンク色にして聞いてきた。


 「あります。あります」


 僕は首をブンブンと縦に振って答えた。首がゴキゴキなるほど、ブンブンだ。

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