第167話 夢のキス

 「〈サトミ〉、大丈夫」


 「うん、大丈夫。〈タロ〉様に、抱きしめて欲しいって、ずっと思っていたんだ」


 「そうなの」


 「夢にも見たんだ。〈タロ〉様が、〈サトミ〉のことをギュッてしてくれるんだ」


 僕は、〈サトミ〉をギュッと抱きしめた。

 〈サトミ〉も、僕の背に回した手にギュッと力を込めている。


 「〈サトミ〉、逢いたかったよ。いつも、〈サトミ〉の可愛い顔が、頭に浮かんでいたんだ」


 「〈タロ〉様、〈サトミ〉も、とっても逢いたかったよ。

 いつも、〈サトミ〉のことを考えていてくれたの」


 「そうだよ。〈サトミ〉のことが好きだからさ」


 〈サトミ〉は、目に涙を溜めて、上を向いて僕を見詰めている。

 僕は、腰に回した手で、少し〈サトミ〉を持ち上げて、顔を近づけた。

 〈サトミ〉は、つま先立ちになって、目をギュッと閉じている。


 僕は、〈サトミ〉に、小鳥がついばむようなキスをした。


 〈サトミ〉は、つま先立ちになって、僕の首にぶら下がっている感じだ。

 僕は、〈サトミ〉を引っ張り上げているので、自然に〈サトミ〉のワンピースも一緒に引っ張っていた。

 その結果、ワンピースの裾が上にもち上がって、〈サトミ〉の白いショーツが、見えてしまっている。


 〈サトミ〉のお尻は、小さくてまん丸で可愛い。

 〈サトミ〉のショーツも、お尻にピッタリ張り付いて、白く輝いて可愛い。


 良い物見せて貰った。

 思いがけない幸運だ。

 胸が高鳴る。嬉しいぞ。

 〈サトミ〉に感謝だ。


 「〈タロ〉様、ドキドキが早くなって、止まらないの」


 〈サトミ〉は、僕の胸にしがみついて、目から涙が一筋流れている。


 「〈サトミ〉、急にキスしてゴメン。大丈夫」


 「大丈夫だよ。でも、心臓が壊れそうなの」


 「えっ、本当に大丈夫なの」


 「〈タロ〉様に、ギュッてして貰ってたら、おさまると思う」


 「それじゃ、もっと〈サトミ〉をギュッと抱きしめるよ」


 「〈サトミ〉は、〈タロ〉様にキスされる夢も見たの。何回も見たの。

 夢の中で、〈タロ〉様にされたら、〈サトミ〉は笑って嬉しいって言ったの。

 でも本当にされたら、すごくドキドキして泣いちゃった」


 「〈サトミ〉、ごめん。もっと、待った方が良かったよ」


 「ううん、〈タロ〉様。〈サトミ〉は嬉しいの。キスして貰って、すごく嬉しいの。

 謝らないで」


 〈サトミ〉はこう言うと、顔を上げてニッコリと微笑んだ。

 僕は、〈サトミ〉の涙の跡を指先で拭ってあげた。


 「キャ、〈タロ〉様。くすぐったいよ」


 〈サトミ〉は、くすぐったそうに目を細めたが、僕が両方の頬を拭うまで、我慢している。


 「〈サトミ〉が、笑ってくれて良かった」


 「〈サトミ〉の夢が、叶ったんだもの。ちょっと、吃驚しただけだよ」


 その後、僕と〈サトミ〉は、僕は学舎のことを話し、〈サトミ〉は《ラング》の町の出来事を話してくれた。

 二人でおしゃべりしていたら、あっと言う間に夕方になって、今日はもう〈サトミ〉とお別れだ。

 もっと、〈サトミ〉といたかったな。


 「〈タロ〉様、また、〈サトミ〉と逢ってくれる」


 「何言ってんだよ。逢うに決まっているよ」


 僕たちは、もう一度、小鳥のようなキスをして、小屋を出た。

 〈サトミ〉は、今度は泣かないで、微笑んでくれた。

 頬がピンク色に染まった〈サトミ〉は、天使のように純粋で、可憐だな。


 金色の夕日が、〈サトミ〉を照らして、おくれ毛をタンポポの綿毛のように輝かせていた。

 家の方に帰って行く〈サトミ〉が、本当に小さく見えて、後ろからもう一度抱きしめたくなる。

 〈サトミ〉の伸びた影法師が、家々の影に隠れていくのが、何か物悲しい。


 あっ、しまった。お土産のオルゴールを渡すの忘れた。


 午前中の執務がようやく終わった。

 新しい城壁と兵舎の移転工事は始まったようだ。


 午後からは、教会の〈ウオィリ〉教師に会いに行くことになっている。

 信心に目覚めてわけじゃ無くて、〈リク〉と〈カリナ〉の結婚の打ち合わせだ。

 僕の結婚じゃ無いのにどうしてだ、と思ったが、〈リク〉は重臣だから、領主からの祝辞が必要らしい。

 型通りの言葉で、型通りの動きをする必要もあるらしい。


 それに、三人の許嫁も同伴だ。

 三人は式に列席するだけで、打ち合わせは必要ないが、見たいらしい。


 僕の動きを見たいんじゃ無くて、式の打ち合わせの様子を見たいらしい。

 自分の結婚式の時の参考にしたいようだ。


 「これは。これは。ご領主様。ようこそいらっしゃいました。お待ちしていましたよ。

 この教会にこられるのは、ずいぶんと久ぶりですな」


 何か、最後の言葉が皮肉っぽいな。



 「〈ウオィリ〉教師、お久しぶりです。今日は忙しいところ悪いが、よろしく頼むよ」


 「〈リィクラ〉卿と〈カリーナ〉さん、《ラング》の教会で式を挙げられるとは、大変良い心がけですな。

 《ラング》の人々も、必ず良い印象をお二人にもたれるでしょう。

 私は精一杯式の司祭を務めさせて頂きます」


 「〈ウオィリ〉教師様、無理を言って申しわけありません。よろしくお願いします」

 と〈リク〉と〈カリナ〉も丁寧に挨拶を返している。


 おまけの三人の許嫁も、それぞれ〈ウオィリ〉教師と挨拶を交わした。

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