第165話 煉瓦の山

 大量の執務を深夜近くまでこなした。

 臣下の皆は、僕が帰って来るのを、待ち構えていたようだ。


 もう、いい加減に解放してくれ。延々と執務が終わらない。これじゃまるで、ブラック企業だ。

 ここのトップは、人の皮を被った鬼だ。ひどい奴だ。人殺しだ。

 あっ、トップは僕だった。


 このままでは、僕が保たない。

 半泣きで訴えたら、皆も分かってくれた。顔がもう死んでいたらしい。

 明日からは、午前中に執務、午後に気晴らしということになった。

 やれやれだ。これで、許嫁達とも遊べる。エロエロ成分が補給出来るぞ。


 午前中は、領地の現状を見て回ることになった。


 町の中に、住居が増えている。もう、立錐の余地もない状態だ。

 住民たちからも、早く何とかして欲しいと、要望が出ている状況が続いているようだ。

 住民からの要望は、住居のことが一番多いし、切迫感もある。

 早いとこ、解決しないと、本当にヤバイかも知れない。


 次に城壁の方は、どうなっているかと見に行くと。

 城壁は、ほんのちょっとしか出来ていない。


 ローマン・コンクリートが、有効か試しただけで、まだほんの一割程度だ。

 試した結果、ローマン・コンクリートは、強度・効率性・経済性とも、既存と比べて極めて優秀となったみたい。


 考案者の僕の評判も、「天才」だと、絶賛上昇中だ。

 前世の知識をひけらかしただけで、天才では無いので、ちょっとアレだが。

 実際、褒められたら、悪い気はしない。ウハハハ。


 これで良いのか。これで良いことにしておこう。

 説明出来る話じゃないからな。

 仕方が無いんだよ。


 城壁が出来るまで、とても待っていられないので、応急策を採ることになっている。


 城壁の外側に、もう一重、城壁を造ってしまえ、という計画だ。

 兵舎を移転させて、城壁都市内の土地を開けてしまえ、という窮余の策だ。

 今の城壁の長さは、短いので、建設にそれほどかからない。


 そして、二枚の城壁の間に、兵舎を移転させてしまえ、という乱暴な話だ。

 経費節約と、時間節約のため、二枚の城壁を兵舎の壁として使え、とい名案だ。


 城壁の門の左右に、三階建てを二棟造る。

 今の倍以上の戸数になるが、余った分は、一時的に領民にも貸し出す予定になっている。

 兵舎が出来れば、住居問題は一定の解決が出来る。

 僕の安全のために、一日でも早く出来欲しい。


 領民への貸し出しが終了した時には、僕の強い希望で、学校に使用する予定だ。

 〈武田信玄〉の故事にあるとおり、「人は城、人は石垣」だからな。

 人を積み上げて、壁にするわけじゃないぞ。

 長い目で見れば、教育は領地保持していく上での、礎と必ずなるはずだ。


 城壁の後は、煉瓦窯を見に行った。


 〈カリタ〉が、すす塗れになりなって、煉瓦を焼いている。

 頑張っているな。

 横の空き地には、大量の煉瓦が山のように積んである。


 「〈カリタ〉、精が出るな。すごい量の煉瓦だな」


 「これは、ご領主様。ご無沙汰をしています。


 煉瓦は、見て貰って分かるとおり、毎日、気合を入れて焼いていますよ」


 「城壁を二重して、兵舎を移転させる話は、もう聞いているか」


 「えぇ、聞いていますよ。この煉瓦の山はそれに使う予定です。

 ご領主様の了承が得られたので、明日からでも建造が始まります」


 「そうか。大変だけど、身体に気を付けて、頑張ってくれよ。期待しているぞ」


 「頑張りますとも。領民も期待しているんですよ。

 この窯までわざわざ来て、頑張ってくれって、励まされているんです。

 皆のためにも全力でやります」


 領民は、〈カリタ〉のところまで、ハッパをかけに来ているのか。

 思ったより、深刻な事態だな。

 〈カリタ〉よ、頼むぞ。

 出来上がったら、褒美をやるからな。


 「それから、〈カリナ〉にはもう合ったか」


 「えぇ、昨晩。〈リク〉さんと、お母さんと、一緒に来てくれましたよ。

 ここで、結婚式を挙げるんですね。お兄さんの方はどうなのと、五月蠅かったです」


 「〈カリタ〉、お弁当を持ってきたわよ」

 と女性の声が聞こえた。


 誰だと振り向くと、バスケットを抱えた〈ドリー〉だった。

 あれ。館にいる時と違って、少しお化粧をしているぞ。


 「あれ、〈ドリー〉。こんな所で、何をしているんだ」


 「何をって、何ですか。

 〈タロ〉様が、〈カリタ〉のところへ、お弁当を届けろと言われたのではないですか」


 「そうだったかな」


 「そうでした。忘れないでくださいよ」


 「そうだった。そうだった」


 完全に記憶から抜け落ちているな。そんなこと、言ったかな。

 まあ、どうでも良いか。


 「〈ドリー〉、いつもすまないね。

 お弁当は美味しいし、〈ドリー〉が来てくれるから、辛い仕事も苦にならないよ」


 〈カリタ〉は、〈ドリー〉の顔を見ながら、すごく嬉しそうだ。

 デレデレのにやけた顔をしている。


 思い出してきた。

 そういえば、コイツは〈ドリー〉に一目ぼれしたんだな。


 「もう、〈カリタ〉。〈タロ〉様の前で止めてよ」


 〈ドリー〉も、頬を少しポッして、満更でも無いようだ。

 目論見どおり、引っ付きそうだな。


 何か、面白いことにならないかな。楽しみにしておこう。

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