第162話 故郷の道

 今回のことで、自分なりに反省した。


 相手の気持ちも考えるという、至極、当たり前のことだ。

 自分で思っているほど、成長していなかったな。


 これからは、色んな意味で、もっと対話をしよう。

 許嫁達の気持ちとか、考えを、もっと口に出して聞いてみよう。

 何かする前に、気持ちを確かめてみよう。

 聞かなくても、言わなくても、分かっているはずは、勝手な妄想なんだろう。


 それと、〈アコ〉の言っていた「母性」。

 〈クルス〉の言っていた「好きな子には意地悪をする」。


 どちらも、少し合ってて、少し違う気がする。

 どちらかと言うと、〈クルス〉の方が近いと思う。


 自分のことなのに、良く分からないな。

 難しいことでは無く、単に、僕が助平なんだとも思う。


 久ぶりに〈サトミ〉と合ったら、もう少しハッキリするかも知れない。

 〈アコ〉と〈クルス〉とは、また違っているのかも知れない。

 大きさも、形も。


 〈サトミ〉の胸を、触らさせてもらって、色々確かめてみよう。


 航海の最終日。あと半日で領地に到着だ。


 股間は、少し腫れているだけだが、自重して休息を選んだ。

 気晴らしに、甲板に出て、持ってきたリュートをつま弾いている。

 毎晩、リュートを撫でまわしていたから、少しだけ弾けるようになったんだ。


 今、弾いているのは、アニメにも使われた、有名な「カ○ト○ー○ード」の替え歌で、僕が作ったものだ。

 作ったと言っても、メロディーは丸パクリで、歌詞は適当だ。



《替歌:故郷の道》


 夢の街だよ 《ラング》の街は

 カカンの霊山 清い《ラング》川

 開拓からの暮らしがここに

 岩塩より昔 森より新しい

 川の流れが包んでいる

 故郷の道 僕を連れて行って

 僕がいるべきあの世界へ

 《ラング》の街よ 母なる川

 僕を連れて行く 故郷の道


 記憶に残るのは 許嫁のことばかり

 僕だけの淑女 海を渡っていく

 青く輝いて 空を移す

 まるで星の光の味わい 回る天使に涙

 故郷の道 僕を連れて行って

 僕がいるべきあの世界へ

 《ラング》の街よ 母なる川

 僕を連れて行く 故郷の道


 「パチパチ」「パチパチ」と、拍手が聞こえた。

 いつの間にか僕の隣に〈アコ〉と〈クルス〉が来ていたようだ。


 「〈タロ〉様、お上手です。うっとりしましたわ」


 「〈タロ〉様、良い歌詞ですね。気持ちが伝わってきましたよ」


 「そうかな。それほどでも無いよ」


 流石は、国と世代を超えて、愛されている歌だ。

 次元を超えても、人に感銘を与えるんだな。

 名曲だけのことはある。


 「いいえ。とても、リュートはお上手ですわ。

 歌声の方は、音が微妙に心をざわつかせますね」


 「そうですよ。歌詞は素晴らしく良いです。

 個性的な歌声が、どうしても、心に引っかかります」


 「二人とも、本当に褒めているの」


 「ふふふ、そう聞こえませんか」


 「うふふ、そのはずです」


 二人とも、口を押えて笑ってやがる。

 僕は、二人をキッと睨んでやった。


 「〈タロ〉様、そんな、にらまないでください。少しも、けなしてなんかいませんわ。

 もう直ぐ《ラング》に着きますから、機嫌を直して」


 「〈タロ〉様、何を怒っているのですか。本当に、褒めているのですよ。

 懐かしい《ラング》がもう目の前です。怒っている場合ではないですよ」


 二人とも、僕の歌をバカにしやがって、覚えていろよ。

 今度、大きな声で、愛の歌を朗々と唄ってやるぞ。

 それも、耳に直接口をつけてだ。


 心が、変なものに引っかかって、ざわつく何かが、湧いてくるぞ。

 僕の歌は、壊滅的に響くからな。

 心が、ただではすまないぜ。


 「二人とも、もう良いよ。

 それより、二人は《ラング》のことを、どう思っているんだ」


 「私は、まだ、《ラング》のことを、少ししか知りませんが、骨を埋める場所だと思っています。 

 《ハバ》はもう捨てましたし、王都も仮の住居です。

 〈タロ〉様のお側が、私の帰る場所です。

 横に座っていても良いですか、〈タロ〉様」


 「もちろん、僕の横に座ってよ」


 「《ラング》は、今更ですけど、私の故郷です。

 でも、《ラング》に、こだわりはありません。

 私がこだわるのは、〈タロ〉様と一緒に過ごすことです。

 何があっても、〈タロ〉様から、離れたくありません。

 私が、横にいても邪魔になりませんか、〈タロ〉様」


 「邪魔になんかならないよ。横においでよ」


 〈アコ〉と〈クルス〉が、僕の横にピッタリと寄り添ってくれた。

 女の子座りで、僕の左右に座っている。

 僕の手を両手で握ってくれて、自分の膝の上に置いている。


 少し恥ずかしそうに、微笑んで、白い歯がこぼれて嬉しそうだ。

 二人の暖かい体温が伝わってきて、ほっこりと癒される。


 僕達は、今までのことを沢山話して、これからのことをチョッピリ話した。

 これからのことは、無限に広がっているし、未来に起きることを、あれこれ考えても始まらない。


 〈アコ〉と〈クルス〉と、〈サトミ〉がいれば、どんなことも乗り越えられる。

 無計画な面はあるけれど、何とかなるんじゃないだろうか。


 「許嫁達と調和が保てれば、それで人生は成功したのも同然だ」

 と、どこかの格言にあったような気もする。

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