第157話 先っちょを触った

 今日、訪れる責め苦を思うと、とても挨拶どころじゃ無いんだろう。


 二人に、今日は僕が、護身術の相手になると伝えたら、

 二人の身体に、みるみる生気が満ちて、顔がパッと明るくなった。


 「〈タロ〉様、信じていましたわ」


 「〈タロ〉様は、やはり頼りになります」


 声も元気一杯で、すごく嬉しいようだ。


 二人は、さっきまでの元気の無さが嘘のように、

 朝食を美味しい、美味しいと、パクパク食べ始めた。

 病は気からと言うけど、元気な二人が戻って良かった。

 僕の評価も爆上がりだな。


 朝食後、〈リツ〉と〈サヤ〉は、気迫の籠った鍛錬を続けている。

 延々やっている。


 真剣にやっているが、時折、二人とも薄く笑っている。

 鍛錬を楽しんでやがる。

 気持ち悪い。


 僕達三人も、護身術の稽古を始めた。


 稽古の手順は、

 僕が背後から抱き着く。

 〈アコ〉と〈クルス〉が、膝を曲げて両足を開いて、重心を落とす。

 同時に、僕の手を掴む。

 そして、肘打ち、足の甲を踵で踏む、出来れば金的を蹴る。

 という感じだ。


 ただ、実際は、僕が〈アコ〉の背後から抱き着いても、〈アコ〉が全然動かない。


 「〈アコ〉、どうして、じっとしているんだ」


 「すみません。このまま抱きしめられていたい気持ちが、勝ってしまって、動けないのです」


 「何もしないと、〈サヤ〉が来るよ」


 「ハッ、やります。やります。ちゃんとしますわ」


 〈アコ〉は腰を落として足を広げて、僕の手を掴んだ。

 でも、掴んだというより、握った、だ。

 掴む力が、弱すぎる。


 「エイ」って可愛らしい声を出して、肘打ちをしてくるが、子供が駄々をこねているようにしか見えない。

 足の甲を踏むのも、優しくだ。

 乗せているのと言う方が、あっているな。


 これじゃ、全く稽古にならないな。


 僕が頑張って、稽古が実りあるものに、しなくてはならない。

 〈アコ〉と〈クルス〉の、護身のためなんだ。

 心を鬼にして取り組もう。

 決して、僕が望んでしたいわけじゃないんだ。


 僕は抱き着いていた手を動かして、〈アコ〉の胸の先っちょを軽く触った。

 胸を何回も触っているから、もう胸のどの辺りに、先っちょがあるのか、僕には分かっている。

 

 服の上からでも、ピンポイントで触れるんだ。

 すごいだろう。


 「あっ、〈タロ〉様、そこはダメです」


 「こうでもしないと、真剣にならないだろう。本当は僕もしたくないんだよ」


 「もう、〈タロ〉様。いやらしいお顔が、違うと言ってますわ。

 人がいるのに、止めてください」


 僕が先っちょを触り続けているので、〈アコ〉は真剣に僕の手を制止にきた。

 やっぱり、先っちょを触られるのが嫌らしい。

 計算どおりだ。


 「ンン」「ンン」と声も出ている。


 「ほら、もっと強くしないと、触ったままだよ」


 「もお、止めてて、言ってるでしょう」


 今度の〈アコ〉の肘打ちは、顎に当たって結構効いた。

 足の甲にも、衝撃が走った。


 「うごっ、〈アコ〉、それで良いんだ。今のは効いたよ」


 「大丈夫ですか。

 〈タロ〉様が止めてくれないから、思い切りやってしまいましたわ」


 「構わないよ。もっと強くても良い。それぐらいしないと、護身にならないからな。

 次は〈クルス〉だよ」


 顎と甲が、少し痛いけど、比べるまでもなく、胸の先っちょの方が圧勝だ。

 もっと、一杯触ることにしよう。

 二人の護身のためだから、しょうがないんだ。


 〈クルス〉に背後から抱き着くと、〈クルス〉も動かない。


 「〈クルス〉、どうした。なぜ、動かない」


 「ごめんなさい。〈タロ〉様に抱きしめられると、動けなくなるのです」


 仕方が無いな。先っちょを触ろう。


 「やっ、〈タロ〉様、そんなとこ、触らないでください」


 〈クルス〉は、モジモジと身体を捻って、抜け出そうとする。


 「〈クルス〉、違うだろう。腰を落として、手を掴んで、肘打ちだろう」


 「うんん、分かっていますが、身体が勝手に動くんです。はぁ」


 仕方が無いな。もっと、グリグリ触ろう。


 「もう、これ以上は、許しません」


 真剣にやったのだろう。〈クルス〉の肘打ちも、顎に当たって結構効いた。

 足の甲も痛かった。


 「うげっ、〈クルス〉、それで良いんだ。今のは効いたよ」


 「痛くありませんか。

 でも、あんなことをする〈タロ〉様が、悪いのですからね」


 「構わないよ。もっと強くやってよ」


 それからも、三人で護身術の稽古を続けた。

 〈アコ〉と〈クルス〉の、肘打ちと甲踏みは、段々鋭くなってきた。


 まともに食らうとダメージが大きいので、避けることにしたが、気を抜くと掠りそうになるくらいだ。

 触り続けているので、先っちょは、簡単に見つけられるようになった。

 柔らかい胸に、固いところが出来たからだ。


 〈アコ〉と〈クルス〉は、「あっ」とか「ふんっ」とか「やっ」とか、声を押し殺して呻いている。

 大きな声を出して、注意を引きたく無いのだろう。

 うんうん、偉いぞ。頑張っているな。


 身体中が真っ赤になって、汗も噴き出している。

 下半身にも、力が入ら無くなってきたように見える。

 まるで、激しい運動をした後のようだ。


 まあ、護身術の稽古なんだから、運動はしているのか。

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