第152話 学舎生御用達
問題は、さらに混迷している〈サトミ〉のお土産だ。
ハンカチは、〈アコ〉と〈クルス〉にも買ってしまったので、もう〈サトミ〉への、お土産にならない。
〈サトミ〉の方が一枚多いから、「これが、お土産だ」と言うのも、何とも情けない。
また、うーん、うーんと頭を悩ませながら道を歩いていたら、〈細密宝貴石細工店〉の店主とバッタリ出くわした。
「これは、これは。《ラング》伯爵様、この前はありがとうございました。
お綺麗なお嬢様を二人も伴って、お買い物とは羨ましいですな」
「こちらこそ、ありがとう。髪飾りは良い出来だったよ」
〈アコ〉と〈クルス〉も、
「素敵な髪飾りをありがとうございます」
と店主にニコニコと笑顔でお礼を言っている。
本当に綺麗な髪飾りだったし、〈アコ〉と〈クルス〉の二人に良く似合っていたからな。
「そう言って貰えますと、頑張って作った甲斐があります。
それに、密かにあの髪飾りが、細工業者の間で評判にもなっているのですよ。
滅多とない材料で作らせて頂いて、ただただ感謝ですよ」
「へぇー、あの髪飾りが、細工業者の間で評判になっているの。
舞踏会では、チラチラ見られるだけだったけどな」
「そうなのですか。
学舎生の方々は、 まさか、《紅王鳥》の羽だとは、思わなかったのでは無いですか。
それでも、すごく印象に残ったのだと思います。大変綺麗な紅色ですからね。
舞踏会で、あの髪飾りを見た人が、何人か、大手の宝飾店に問い合わせたようですよ」
「どうして、、大手の宝飾店に問い合わせたんだろう」
「それは、同じような物が欲しいからですよ。
うちにも、周り廻って問い合わせが来ましたが、材料が手に入らないので、無理ですと断ったんです」
「それはそうだな。材料は、もう二度と手に入らないな」
「そうでしょうね。
王宮に流れた物がお披露目されたら、もっと評判になって、問い合わせが増えるのが少し面倒ですね」
「ハハ、それは大変そうだな」
「笑っておられますけど、伯爵様にも、《紅王鳥》の羽を譲ってくれって来ますよ」
「へっ、それは面倒くさいな」
「本当に、そうですね。それでは、お邪魔してはいけませんので、ここで失礼します」
「ちょっと待って。お土産を探しているんだけど、何か良い物を知らないか」
「お土産ですか。どなたに渡されるのですか」
「領地にいる許嫁なんだ」
「ムム、許嫁が三人もですか。ご領主様は大変ですね。
お土産を渡されるのは、遠く離れて暮らされている若い女性ですね。
少し変わったものですが、一軒心当たりがあります。
あまり一般的な物では無いので、気に入られるかは微妙と思います」
「それはどんな物なの」
「「自鳴琴」という細工物です。とても良い音がします。
私には、離れてしまった人を、思い起こさせる音に聞こえのですよ。
知り合いが、最近「学舎通り」で店を開いたばかりなんです。
店の名前は、確か〈金琴庵〉だったと思います。今、私が思いつくのはこれだけですね」
「「自鳴琴」か。ありがとう。助かったよ」
「いえ、いえ。このくらいなんでもありませんよ。それでは、失礼します」
〈アコ〉と〈クルス〉も、
「「自鳴琴」って聞いたことがありません」
と言っている。
どんな物だろう気になるな。これは、行って見るしかないな。
辻馬車を拾って、「学舎通り」に向かった。
が、直ぐについた。少し遠いけど歩ける距離だよ。
「この通りは、学舎生御用達の通りですから、そんなに遠くありませんわ」
と〈アコ〉がのたまわった。
もっと、早く言ってくれよ。
「僕達も学舎生だけど、なぜ、この通りへ買い物に来なかったんだろう」
「まあ、〈タロ〉様が、それを言いますか。
学用品を買わなくてはならない日に、私達を迎えに来るのを忘れていたくせに」
「〈タロ〉様、あまり反省してないようですね。
あの時、私がどんな思いで〈タロ〉様を待っていたのか、すごく心配したのですよ」
「ごめん。ごめん。決して忘れません。反省しています。もう言わないでよ」
いらないことを言って、墓穴を掘ってしまった。
「学舎通り」は、学舎生御用達だけあって、文房具や寮の日用品やらの店が、立ち並んでいる。
「武体服」や「健体服」を売っている店もあるぞ。
こちらの方が値段が安い。うぅ、何と言うことだ。
後悔先に立たずだ。立ち過ぎる部分もあるのに。
今度、学用品が必要となったら、この通りで買った方がお得だな。
「ここは学舎街から、離れているのに、どうして学舎生御用達になったんだろう」
「うーん、それは良く分かりませんわ。
ただ、学舎街以外にも学舎はありますから、そこからの距離が関係しているのかも知れませんね」
そうか、ここが、多くの学舎の中間地点辺りの可能性があるな。
通りをぶらぶらと三人で歩いていると、色々な制服の学舎生が結構歩いている。
《春息吹》の巻毛もいるし、《藍心》のごついヤツもいる。
若草色の女の子や、群青色の男の子の制服もチラホラ見かける。
若者で活気溢れる通りというところか。
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