第151話 〈サトミ〉のお土産

 うん、うん、と唸って考えているところに、〈アコ〉の母親がやってきた。

 西宮の門番のおっちゃんが、護衛についてきている。


 「お母様、どうされたのです」


 「〈タロ〉様、お久しぶりです。今日はお願いがあってやってまいりました」


 「〈ハル〉様、お久ぶりです。お願いってなんですか」


 「夏休みに帰られる時、私も、ご領地に連れて行って欲しいのです。

 一度、《ラング》領を見せて頂きたいのです」


 娘が嫁ぐところを見ておきたいのだな。それはそうかも知れない。

 望んだこととはいえ、色々心配なんだろう。


 「もちろん、良いですよ。近々船で帰りますので、連絡します」


 「まあ、即断して頂き、ありがとうございます。今から、大きな船に乗るのが楽しみですわ」


 〈アコ〉は、

 「急に来て」「来るなら来ると言っておいて欲しかった」

 と文句を母親に言っている。


 母親も、

 「急でありません」「〈アコ〉に言う必要はないです」

 と応戦している。


 ハハッハ、母娘だな。


 門番のおっちゃんの方を見ると、〈リーツア〉さんと話し込んでいる。


 「〈リツ〉さん、お体を悪くしたと聞いていましたが、

 元気になられて本当に良かった。

 大恩ある〈ハィクラ〉兵士頭の奥様に何かあったらと、私も心配しておりました」


 「心配して頂いてありがとうございます。

 私は、もうこのとおり元気に働かせて貰っていますよ。これも、ご領主様のお陰です」


 「流石は、《ラング》伯爵様だ。初めて見た時から、ただ物じゃないと思っていましたよ」


 本当なのか、おっちゃん。調子が良すぎるんじゃないのか。

 〈リク〉の親父さんも、兵士頭だったのか。面倒見の良い、情に厚い立派な人だったようだな。


 話していたらお昼時になったので、店からお昼ごはんを配達して貰って、皆で食べることにした。

 配達して貰ったのは、ピザに似た料理だ。


 固く焼いたパンに、切ったソーセージや野菜を乗っけて、ピリ辛のトマトのソースをかけてある。 

 カリカリのパンには、ガーリックが塗ってあるようだ。

 全体を焼いて無いけど、これはこれで美味しく頂けた。

 ピザと言うより、オープンサンドに近いのかも知れない。

 この料理が良いのは、手軽でどこでも食べられて、人数が多い時に重宝することだ。

 今日みたいに、急なお客が来た時に最高だな。


 大勢で賑やかにお昼を食べてから、お茶を飲みながら、歓談した。

 デザートに、「甘いおイモ」も出して貰った。


 〈アコ〉の母親が、「自然な甘さが美味しい」とパクついていた。


 〈アコ〉が、

 「食べ過ぎです」「皆の前で見っとも無い」

 と、また文句を母親に言っている。


 〈アコ〉も、この前は一杯食べてたくせに、良く言うよ。


 母親も、

 「適量です」「見っとも無くはありません。優雅に食べていますわ」

 と、また応戦している。


 ハハッハ、何をしても、母娘だな。


 〈アコ〉の母親と挨拶をして別れる時、

 門番のおっちゃんは、ただ黙って、王国軍式の敬礼を僕に向かってしてきた。

 軍で〈リク〉の親父さんに世話になった大勢の人達の分まで、礼を言おうとしたのかも知れないな。


 午後も、〈サトミ〉へのお土産を考える。

 考えても良い案が出ないので、近くの店で聞いてみることにした。


 まずは、〈華咲服店〉だ。

 〈ベート〉が、良い案を出してくれるかも知れない。期待しよう。


 「〈ベート〉、領地にいる許嫁のお土産を探しているんだけど、何か良い物は無いかな」


 「ふへー、ご領主様は、三人も許嫁がおられるのですか。それはそれは」


 今日も〈ベート〉は、ごく普通の髪形に、ごく普通の服を着ている。

 普通のアラサーになってしまった。面白味が無くなったな。


 「〈ベート〉、お土産は」


 「そう、そう、そうでしたね。うーん、そうだ。ハンカチはどうですか。

 豪華な刺繡のハンカチです。他の子と差がついて、絶対、女の子が喜びますよ」


 「そうか。そうだな。ハンカチ、良いかも。一番、豪華なやつをくれ」


 「はい。はい。分かりました。この引き出しの中から、選んで下さい」


 引き出しの中には、沢山のハンカチが整然と並べられている。

 確かに、豪華なハンカチだ。繊細な刺繡が見事だ。

 ただ、繊細過ぎて実用性はどうだろう。これで汗は拭けないな。


 「〈ベート〉、もっと実用的な物はないかな」


 「ありますよ。この引き出しの中から、選んで下さい」


 今度のは、一隅だけに刺繍がされたハンカチが並んでいる。

 色もカラフルだ。こっちの方が良いな。普段使いも出来そうだ。


 「〈ベート〉、この黄色の花と、猫の柄を貰うよ。贈り物用に包んでくれないか」


 「〈タロ〉様、私はこの白い百合が気に入りましたわ」


 「私は、この赤い薔薇が良いです」


 えぇー、〈アコ〉と〈クルス〉は何をほざいているんだ。

 これは、〈サトミ〉のお土産だぞ。


 「〈タロ〉様、お願い」


 「私も、欲しいです」


 二人が、僕の腕にすがりながら、少し甘えた声でおねだりをしてくる。

 僕の腕を胸で挟むようにしているぞ。これでは、抵抗出来ない。

 四つのおっぱいに、スリスリされたら、陥落は必至だ。


 こんな特性の攻撃に対する、僕の耐久力は極めて低いんだ。

 そう言えば、この前のどこかで、おねだりされる予感がしてたな。

 この二人は、こんな迫り方をどこで覚えたんだろう。謎が深まる。


 「もお、分かったよ。降参だよ。二人にも買ってあげるよ」


 「うふふ、〈タロ〉様、大切にしますわ」


 「ふふふ、〈タロ〉様、ありがとうございます」


 ハンカチを四つ買って、店を出た。

 〈ベート〉は、また深々と頭を下げていたけど、僕をこのド助平野郎と鼻で笑っていやがるのに、違いない。

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