第150話  二人ともすごい美人だ

 夏休みが、近づいてきた。

 もうすぐ、王都を一時離れて、領地へ帰ることになる。

 領地には、もう何か月も帰っていない。皆、どうしているかな。


 〈サトミ〉とも、久しぶりに会えるぞ。楽しみだ。

 「南国果物店」でお茶を飲みながら、〈サトミ〉へのお土産の相談をすることになった。


 「〈タロ〉様、この前、伝えられなかったことがあるのです」


 「何だろう」


 「お母様からの伝言なのです。王宮の最新の情報ですわ。

 一つは、新たに国内で岩塩鉱山が見つかったそうです」


 「新たな岩塩鉱山か。いい話じゃないな。うちの領地の商売仇になるぞ」


 「そうなるかも知れません。要注意とのことです。

 二つ目は、王国軍に新規の旅団が創設されるとのことです。詳細はまだ良く分かっていません」


 「軍を増強するのか。まさか、またどこかで、戦争があるの」


 「その点は心配いらないようです。今のところ、戦争の兆しは無いようですわ。

 ただ、戦争と関係は無いのですが、気になる噂があります」


 「気になる噂。どんな、噂なの」


 「最近、若い女性が忽然と行方不明になる事件が、王国の西の《アンモール山地》周辺で起きているらしいです」


 「大陸の中央部に近い、山がちの場所だな。

 若い女性を狙った犯罪か。変態の仕業かも知れない。許せないことだ。

 〈アコ〉と〈クルス〉も、十分気を付けてくれよ。

 二人ともすごい美人だから、狙われるかもしれないぞ」


 「それは、気を付けますが。〈タロ〉様、いきなり、美人と言われても、返答に困りますわ」


 「私も、これまで以上に気をつけます。

 でも、取ってつけたように美人と言われても、どこまで、真に受けてら良いのでしょう」


 「何言っているんだ。すごい美人なんだから、すごい美人と言って、何が悪いんだ。

 二人ともどうかしているよ」


 「〈タロ〉様には、私が、すごい美人に見えるのですか」


 「私も、すごい美人に見えているのですか」


 「二人とも、いい加減にしないと怒るぞ。僕の目がおかしいみたいに言うなよ」


 「〈タロ〉様を疑うようなことを言ってすみません。

 客観的に、どう見えるかは置いておいて、〈タロ〉様には、私は美人なのですね。

 信じますから、〈タロ〉様の前で、私が美しいと自惚れても、笑わないでくださいよ」


 「怒らないでください。自分ではそう思って無かったのです。

 でも、これからは〈タロ〉様といる時は、頑張って美人になります」


 二人とも、少し頬を赤くしてニマニマと微笑んでいる。

 心の中では、僕に美人と言われて、かなり喜んでいると思う。

 笑って損した者はない。褒めて怒られる者もなしだ。


 「僕の思いを分かって貰えて嬉しいよ。

 頑張ってで、思い出したけど、〈クルス〉は定期試験どうだった」


 「思ったより良い成績でした。学年で三位でしたよ」


 「学年で三位。それは凄いな。一学年、三百人もいるのに。〈クルス〉、頑張ったな。

 僕も鼻が高いよ」


 「そう言って頂けると、頑張った甲斐があります。ありがとうございます」


 僕は頑張った〈クルス〉の頭を撫ぜて褒めてあげた。

 〈クルス〉は子猫のように目を細めて、撫でられやすいように頭を傾けてきた。

 〈クルス〉の髪は、シルクのようにサラサラで、いつも触り心地が良い。



 〈クルス〉の髪を撫でていると、〈アコ〉が隣で、憮然とした表情をしている。

 焼きもちを焼いているようだ。自分も、褒めて欲しい。ご褒美が欲しいと思っている感じだ。

 〈アコ〉の頭も、撫ぜてあげよう。


 「有益な情報を聞かせてくれて助かったよ、〈アコ〉」


 〈アコ〉は照れたような笑顔で、

 「もお、〈タロ〉様。くすぐったいですわ」

 と言ったけど、逃げるようなことはしなかった。


 僕は、二人の美人の髪を触れて、朝から気分が良い。


 しばらく二人を撫ぜていたら、店先の方から、

 「コホン」と〈リーツア〉さんのわざとらしい咳が聞こえた。

 あんまりイチャイチャしているので、見てて腹が立ってきたのだろう。


 〈アコ〉と〈クルス〉は赤くなって、

 「〈タロ〉様、もういいですわ」

 「私も十分です」

 と言って僕の手から逃れていった。


 しばし、空中を彷徨よった僕の手が、哀れだ。

 二人とも、身の引き方が早すぎるよ。余韻はないのかよ。


 〈サトミ〉へのお土産選びは難航した。

 〈アコ〉と〈クルス〉は、早々に二人で、化粧品を渡すことに決めてしまった。

 王都の化粧品は、女性に喜ばれるお土産らしい。

 王都で買ったと言うだけで、地方ではブランド価値があるらしい。

 今回は、数ある王都の店の中でも、有名な店の商品にするみたいだ。

 僕には、化粧品の良し悪しは、分からないから、あまり関係の無い話だ。


 困ったことに、僕のお土産が決まらない。


 服には、好みとサイズがあるからな。下着のプレゼントは、時期尚早だ。

 玩具という年齢でも無いし、本が好きとも思えない。

 食べ物は日持ちが心配だ。

 どうしたもんだろう。


〈アコ〉と〈クルス〉は、

「〈タロ〉様がくれたものなら、〈サトミ〉ちゃんは何でも喜びますよ」

と言うけど、何か気の利いたものはないかな。

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