第149話 僕たちは、どう見えているのかな

 これがいけなかったのか、〈アコ〉が、僕の唇から逃れて、また文句を言ってきた。

 抱きしめていた手を離したから、拘束も緩くなってしまった。これも敗因だ。


 「はぁん、〈タロ〉様。そんなところ触っちゃダメです。もう、止めて。それに動かないで」


 〈アコ〉は、首も顔も、まピンク色だ。上気した肌が色っぽい。


 「えー、もう少し」


 「えー、じゃないですわ。以前、「少女のままでいさせて下さい」って頼みましたよね。

 お忘れですか」


 「いやー、これは、まだまだ少女だよ」


 「もお、どこの少女が、膝の上で胸を揉まれるのですか。そんな少女はいませんわ」


 「そう言うなよ。〈アコ〉の赤い唇が、とても色っぽいので止まらなかったんだよ」


 「えっ、そんなに、私、色っぽいですか」


 「すごく色っぽいよ。それに、〈アコ〉は、すごく綺麗になっている。堪らなかったんだ」


 「そ、そんな。そんなこと言われても。嬉しいですけど、私、困ります」


 「どうして困るの」


 「それは、〈タロ〉様が、私に一杯エッチなことをするからです」


 「〈アコ〉ちゃん、それはいけない事なの。好きを行動にしちゃダメなの」


 「もお、〈タロ〉様。急に可愛い言い方して、何のまねですか。

 可愛くしても、誤魔化されませんよ」


 「渾身の言い方だったのに。悲しいな。

 でも、〈アコ〉が好きっていうことを行動に移しているのは、本当だよ」


 「うーん、そう言われると、怒れなく無くなりますわ。でも、本当に困るのです。

 私も歯止めが効かなくなっちゃいます」


 「歯止め」


 「〈タロ〉様に流されてしまうんです」


 「それじゃダメなの」


 「今はダメなんです。もう、私、膝から降りますね。

 夕方になりましたから、夕ご飯を食べましょう」


 「えー、降りるの。このまま食べようよ」


 「こんな近くでは、恥ずかしいです。〈タロ〉様の目の前で、口を開けて食べられませんわ。

 それに、〈タロ〉様が私の口紅を食べちゃったから、このままでは見苦しいです。

 こんな剥げてしまった唇を、〈タロ〉様に見せたくないのです」


 そう言うと、〈アコ〉は膝から降りて、口紅を拭きとった。

 その後、鞄から夕食を取り出して、ソファーに二人並んで、買っておいた夕食を食べ始めた。


 粗挽き肉の揚げパンは、冷めていたけどそれでも十分美味しかった。

 機会があれば、また買おう。


 「〈タロ〉様、お口に揚げパンのカスが付いていますよ」


 〈アコ〉が僕の方を向いて教えてくれた。


 「僕には見えないよ。〈アコ〉に取って欲しいな」


 僕は〈アコ〉の方へグッと顔を近づけた。


 「えっ、〈タロ〉様。さっきの逆ですか。そんなの恥ずかしいですわ。

 私、そんな取り方は出来ません。普通に取ったらいけませんか」


 「二人切りだから、恥ずかしく無いよ。さあ、早く」


 「もお、仕方ないですね。とっても、恥ずかしいのですよ」


 〈アコ〉は、頬をピンク色に染めて、僕の口の周りを舌で舐めてくれた。

 〈アコ〉の舌は、チロチロと赤くて小さくて可愛い。


 くすぐったくて、愛しくて、腰の辺りがゾクリとした。

 僕は、〈アコ〉を強く抱きしめた。


 「もっと、舐めてよ」


 「えっ、もう、取れましたわ。取れてからも、一杯舐めましたよ。

 そうだ、今度は〈タロ〉様が私を舐めてください。私もついているでしょう」


 〈アコ〉は、恥ずかしそうだけど、期待の籠った瞳で、僕を見詰めてきた。

 こう言われたら全力で舐めるしかない。存分に舐めさせて頂きます。


 僕は〈アコ〉の唇を猛烈に舐めた。

 唇をベチョベチョにした後は、〈アコ〉の歯茎も、舌も、口の中も激烈に舐めた。

 音が「クチュ、クチュ」鳴っていた。


 「はぁん、〈タロ〉様の舌は甘いです。うっとりします。

 甘いのは、私が〈タロ〉様を好きだからですか」


 「〈アコ〉の口の中も甘いよ。僕が〈アコ〉が好きだからだと思う」


 「私、幸せです。もっと、私を強く抱きしめてください」


 〈アコ〉を力一杯抱きしめた。でも、〈アコ〉は苦しいとは言わない。

 〈アコ〉をもっと強く抱きしめた。でも、〈アコ〉は苦しいとは言わなかった。

 女の子とは不思議な生き物だな。


 〈南国茶店〉は、まだ半分くらい席が埋まっていた。


 この時間でこの入りなら上出来だ。この店も、儲かりそうな予感がする。

 まだ、厨房で働いている〈カリナ〉と〈リク〉に金貨が入った小袋を渡した。


 「これは、二人とも頑張ってくれたので、特別賞与だ。二人だけだから他言無用だぞ」


 〈リク〉は、驚いた顔の後、笑顔になったので、喜んでくれているようだ。

 〈カリナ〉は、〈リク〉の左手を両手で握って、涙を堪えているように見える。

 泣きそうになるとは。誰か、余程腹が立つヤツがいたのだろう。


 「ご領主様、ありがとうございます。大切に使います」


 「お気遣い頂き感謝します」


 「気にしないでくれよ。二人の働きの結果だ。これからも、よろしく頼むぞ」


 「はい」「はい」


 二人がシンクロしたように返事をくれた。

 仲が良いのかもしれないな。


 「当たり前です。ご結婚されるのですから、仲が良いに決まっていますわ」


 僕の呟きが聞こえたのか〈アコ〉が呆れたように言った。


 「僕たちは、どう見えているのかな」


 「うーん、そうですね。それでは、手を繋いで帰りましょう」


 「皆に見られて、恥ずかしく無いの」


 「今日も、〈タロ〉様に沢山恥ずかしいことをされましたわ。

 手を繋ぐくらい、もう何でもありません」


 二人切りの時と公衆の面前とでは、比較にならないと思うけどな。

 でも、〈アコ〉が繋ぎたいのなら、僕が断るはずも無い。


 道行く人が、チラチラと僕たち二人を見ていたけど、〈アコ〉は始終ニコニコ笑っていたから、これが正解なんだろう。

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