第141話 結婚を申し込んだ
「武体術」の授業は、相変わらずだ。
僕と〈ロラマィエ〉が、他の奴らを連続で相手をしている。
相手が強くないとはいえ、結構疲れる。
少しは休ませて欲しい。
わざと隙を作って打たせるのも、同じでは芸がない。
工夫がいる。とても邪魔くさい。なにげに頭も使う。
自由に伸び伸びやりたいよ。
そんなこんなで、アドバイスを聞かれても、助言は段々適当になってきている。
「相手の目を見ていない」「刀ばかりを見過ぎだ。もっと全体を見ろ」「打ち込む先を見るな」とか、もう出鱈目だ。
これではかえって、マイナスになっている気もする。アドバイスになっていない。
皆には悪いけど、反面教師だと思ってもらおう。
「楽奏科」の授業は、中止になった。悲しいことだ。
他の生徒も、ハッキリと落胆の表情をしている。
〈ヨヨ〉先生が体調不良で休まれたためだ。
舞踏会の演奏を二回続けられたから無理もない。
楽団の卒舎生は十人近くいたので、疲れ果てられたのだろう。
きっと、何回も果てられたのだろう。
どんなプレイをされたのか、いつか先生に聞いてみたいな。
今回の休養日も最初に、〈南国果物店〉に向かった。
〈リク〉がとうとう〈カリナ〉に結婚を申し込んだらしい。
どうせ痺れを切らした、〈リーツア〉さんに、きつく怒られたのだろう。
「〈リク〉、やっと結婚を申し込んだんだな。まずは、おめでとう」
「ご領主様、ありがとうございます」
「きゃ、そうなの。〈リク〉さん、おめでとうございます」
「〈リク〉さん、おめでとうございます。良かったですね」
〈アコ〉と〈クルス〉も心から祝福しているようだ。
僕も悲しくはないし、大変良いことだと感じている。むしろ、やっとかと思っているくらいだ。
しかし、悩みが生じた、結婚は何かとお金がかかると聞く。
ボーナスでも出す必要があるのかな。どうしよう。
〈南国果物店〉に着いたが、〈カリナ〉はいない。
〈南国茶店〉の店長だからな。からかうことが出来ない。残念だ。
〈アコ〉と〈クルス〉に、制服の夏服を頼む必要があるからと、〈華咲服店〉に連れていかれた。
もう直ぐ夏が来るんだな。薄着の季節だな。
店主の〈ベート〉の今日いでたちは、前にも見た薄桃色のワンピースで、丈は膝丈といやに大人しい。
髪も普通に腰までのストレートヘアって感じで、平凡だ。
ひょっとして、今までお洒落をしていたのは、〈リク〉狙いだったのか。
僕を狙っているのかと思っていた。とんだ思い込み野郎で、超恥ずかしい。
〈アコ〉と〈クルス〉が、いけないんだ。
そうすると、まさか違うと思うけど、友達の男を強奪しようとしていたのか。
ドロドロしてて、何だか怖いよ。
店に帰って、〈リーツア〉さんと、夏に売る果物の相談を行った。
僕の一押しは、当然ながら、メロンとスイカだ。
ただ、メロンの日持ちは一~二週間と短いのが、難点となった。
それにこの世界のメロンは、ネットがあるメロンは無くて、瓜みたいなメロンらしい。
メロンは〈アコ〉の胸だけで我慢すべきか、それが問題だ。
〈リーツア〉さんは、〈カリナ〉とも相談しておくってことで、引き続きの検討事項となった。
〈リーツア〉さんは、〈リク〉が〈カリナ〉結婚するので、嬉しそうだ。
これで、孫の顔がやっと見れると喜んでいる。
バナナとライチの売り上げも好調で、始終ニコニコと笑っている。
引き籠っていたのは何だったのだろう。
〈アコ〉が、たまには西宮に帰って来いと強く言われたらしいので、これから先は、〈クルス〉と二人切りだ。
いや、護衛の〈リク〉がいたか。
「〈クルス〉、どこか行きたいところはある」
「いえ。特にはありません。〈タロ〉様に合わせますよ」
〈リーツア〉さんに、王都の観光名所を訪ねると、うーんと唸ってから、「聖母子教会か、王都美術館ですかね」と答えが返ってきた。
ずいぶん真面目なとこばかりだな。教会も美術館も興味が無いな。
「〈クルス〉、どっちが良い」
「そうですね。〈タロ〉様さえ良ければ教会が良いです」
「そうか。分かったよ。悪いけど〈リク〉案内してくれるか」
「もちろんですよ。教会にお参りに行くのは大変良いことです」
母子で結構信心深いんだな。
辻馬車で、「噴水通り」のどんつきにある「聖母子教会」へ向かった。
かなり遠かった。
教会は、四本も尖塔がある厳かな建物で、ゴチック様式みたいな感じだ。
王都の名所だけあって、すごい迫力のある建物だ。
重要な聖地なんだろう、老若男女問わず大勢の人がお参りに来ている。
「〈タロ〉様、ご祈祷を頼んでも良いですか」
「良いよ。何の祈祷を頼むんだ」
「ふふ、〈タロ〉様の健康と、後は秘密です」
「えぇ、これも秘密なの」
「良いじゃありませんか。人に話すと効果が半減するって言いますし」
それじゃ、僕の健康は半減だよ。
高い天井に描かれた極彩色の神話の下で、大きなステンドグラスから降り注ぐ七色の光に包まれて一心に祈る〈クルス〉の横顔は、神々しいような尊厳に満ちていた。
今はさすがにお尻を触れないな。
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