第136話 焼きもち

 「〈タロ〉様、〈ヨー〉と楽しそうに踊っていましたね」


 「〈アコ〉こそ、〈ラト〉と笑いあっていたよ」


 「ん、それは。〈タロ〉様のお友達だから、仏頂面でいるわけにはいきませんよ」


 「僕もそうだよ」


 「そうですけど、あの〈ヨー〉が初対面の人と笑うなんて思いませんでしたわ。

 何をされたのですか。どのような、魔法を使われたのですか」


 僕は先程のくだりを〈アコ〉に話した。可愛いって言ったのは伏せておいたけど。


 「そうだったのですか。少し納得しましたわ。でも、心配も増えました。

 〈タロ〉様は、結構女たらしなのですね。私、失敗しましたわ。

 〈ヨー〉と踊って欲しいと頼まなければ良かったです」


 「えー、何でそうなるの。

 僕が、親友の〈アコ〉の許嫁だから、気を許しただけだろう」


 「そういう面もありますけど、違う面もありそうです」


 「そういう〈アコ〉はどうなの。

 必要以上に、〈ラト〉とベタベタしてたように思ったけど」


 「えっ、そんなことはありませんわ。どうしてそんなことを言うのですか」


 「うーん、〈アコ〉が触られているのを見て、少しイライラしたんだ。

 腹立たしかったんだよ」


 「私が他の男の人と踊るのが、気に入らなったのですか」


 「まあ、そうだよ。嫌だったんだ。

 〈アコ〉に、踊ってやって欲しい言った僕が悪いんだけれど」


 「うふ、何だか嬉しいですわ。焼きもちを焼いてくれたのですね」


 「そうだよ。何だよ。笑うなよ」


 「うふふ、〈タロ〉様心配しないで。

 私は他の男の人を好きになったりしませんわ」


 〈アコ〉は、僕が笑うなと言っても、ずーと嬉しそうに笑っている。

 〈アコ〉の機嫌は一気に直ったが、何だか気に入らない。


 「〈アコ〉も、焼きもちを焼いていたんだろう」


 「うふふ、そうなんです。焦げるくらい一杯焼いていましたわ。

 楽しそうに笑っている、〈ヨー〉と〈タロ〉様を見ているのは、辛かったのですよ」


  最後の「辛かった」は、笑って無くて真剣な感じだった。


 「二人切りなら、ここで抱きしめてあげるんだけどな」


 「うふふ、今度、二人切りになったら、一杯してください。

 楽しみに待っていますわ」


 機嫌の直った〈アコ〉の笑顔を見ながら、跳舞旋楽も楽しく踊れて、舞踏会は終わった。


 最後に係の先生が、「今日は楽しめたか」と皆に聞いて、「楽しめました」と男の子も、女の子も、ともに大声で叫んだ。

 何だか青春しているな。

〈アコ〉も、僕の横でキラキラした目をして叫んでいた。


 「武体術」の授業は、対抗戦に向けて鍛錬が続いている。


 鍛錬方法が一部変わり、僕と〈ロラマィエ〉が指導的な立ち位置で、他の奴らが次々と打ち込んでくるという、新たな方法も追加された。


 弱い相手とはいえ、連続で相手をするのは疲れる。

 それに、相手の技量に合わせて、わざと隙を作って打たせたり、大きな弱点ばかりを狙って責める必要があるので、とても邪魔くさい。

 制約なしに。自由に伸び伸びやりたい。ストレスが溜まるよ。


 なぜか、僕にアドバイスを求めてくるヤツも相変わらず多い。

 「打ち込みが単調になっている」「手首が固い」「打つ手が無ければヤマをかけろ」とか、それらしく答えている。

 根拠は何もない。ただの思いつきだ。

 授業だけの鍛錬では、素人のままだから、間違ってもバレたりしないだろう。

 万が一バレても、聞いたヤツがバカだったと言うことだ。

 僕は一つも悪くないはずだ。

 

 「楽奏科」の授業は、〈ヨヨ〉先生の取り合いが激しくなっている。

〈ヨヨ〉先生は、あっちこっちから呼ばれて大忙しだ。

〈ヨヨ〉先生のスライムゼリーおっぱいも、あっちこっちに忙しく揺れている。


 僕も〈ヨヨ〉先生を呼んだけど、少しだけ先生が手で触って教えてくれるだけだ。

 ただ、僕の演奏が上手くなったので、〈ヨヨ〉先生に褒められた。


 「はぁん、〈タロ〉君、先生は感じましたよ。敏感に感じてしまいました。

 〈タロ〉君のリュートへの愛をです。良い。良いわ。とっても良いです。

 このまま続けて下さい。もっと、もっとして下さい。何回もして下さい」


 毎夜、日替わりでリュートを〈アコ〉〈クルス〉〈サトミ〉に見立てて、撫でまわしているのが良かったみたいだ。

 そっと、撫でるように、いやらしく弦を指で摘まんでいるのも、良い練習になったみたいだ。

 切ない声で鳴いてくれるようになった。


 《赤鳩》と《青燕》の舞踏会の日になった。


 僕と〈ソラ〉は《黒鷲》側の入口から「健武術場」へタイミングを図っている。

 出来るだけ目立たないように侵入するためだ。


 「健武術場」の中が騒がしくなってきた。《赤鳩》と《青燕》の学舎生が入場してきたのだろう。


 〈ソラ〉が「もう入りますか」と聞いてきた。


 「まだ、待とう。学舎長の挨拶が終わってからにしよう」


 中の騒がしさが収まった。挨拶が始まったのだろう。

 結構待ってから、また騒がしくなってきた。

 どうして学舎長の挨拶はこう長いのだろう。待つ方の身になって欲しい。


 「〈ソラ〉」行くぞ。


 僕達は「健武術場」の扉を開けて、忍ぶように中へ入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る